会社が賃上げを発表しても、自分の昇給額がその率どおりに増えるとは限りません。賃上げに使われる原資を、全員へ一律に配るのか、評価に応じて配分するのかで、個人に届く金額の決まり方が変わるためです。

同じ賃上げ率の会社でも、一律配分が厚ければ評価の上下で動く幅は小さくなり、評価配分が厚ければ平均の周りに幅が生まれます。まず、この2つが原資のどこを動かしているのかを確かめます。

結論:配分方式が、評価で動く幅を決めている

賃上げの原資は、会社が人件費として用意できる総額です。そこから個人へ配る経路は大きく2つに分かれます。賃金表そのものを書き換えて全員の水準を引き上げる経路と、評価に応じて個人ごとに金額を割り振る経路です。前者が一律配分、後者が評価配分にあたります。

この区別が効くのは、自分の努力で動かせる部分がどこなのかが変わるからです。一律配分は在籍していれば届く部分で、評価では増減しません。評価配分は同じ原資を取り合う部分で、評価が上位なら平均より多く、下位なら平均より少なくなります。会社の賃上げ率が同じでも、この2つの比率が違えば、評価を上げたときに月例給が動く幅は変わります。

実務では、どちらか一方だけの会社は多くありません。賃金表の改定と定期昇給を組み合わせ、定期昇給の中を評価で配分する設計が一般的です。だからこそ、自分の昇給額を見るときは「いくら上がったか」の前に「どの経路で上がったか」を分ける必要があります。

ただし、配分方式が分かっても原資の総量は変わりません。方式は配り方の話で、配る元を増やすのは会社の業績と人件費の方針です。方式の確認は、自分の打ち手を選ぶためのものだと考えてください。

一律配分と評価配分は、原資のどこを動かすか

2つの経路は、動かす対象が違います。一律配分は賃金表や基本給の水準そのもの、評価配分は個人が賃金表の中のどこに置かれるかを動かします。

配分の経路 動かす対象 評価による差
一律配分(ベースアップ) 賃金表・基本給の水準 出ない(在籍していれば届く)
評価配分(査定昇給) 帯の中での個人の位置 出る(上位と下位で金額が違う)
昇格による改定 所属する等級そのもの 出る(判定に通った人だけ)

表の読み方は、上から順に「全員」「評価された人」「昇格した人」と対象が狭くなると捉えるのが分かりやすいでしょう。狭くなるほど1人あたりの金額は大きくなりますが、届く確率は下がります。

この表が当てはまらないのは、賃金表を持たない会社です。等級と給与帯が明文化されていない場合、一律配分と評価配分の区別そのものが社内に存在せず、上長の裁量と個別の交渉で決まっていることがあります。その場合に確かめるべきは配分方式ではなく、昇給の判断を誰がどの材料で行っているかです。等級の整備状況の見方は等級・グレード制度の読み方で扱っています。

ベースアップを実施した企業はどれくらいか

一律配分がどの程度行われているかは、公的統計で確認できます。情報通信業で定期昇給制度がある企業のうち、ベースアップを実施した企業の割合は 52.1%(令和7年(2025年)) です。

残りは、ベースアップを行わなかった企業と、定期昇給とベースアップを区別していない企業に分かれます。つまり一律配分が必ずあると考えるのは早いということです。自社の賃上げが定期昇給だけなのか、賃金表の改定を伴っているのかは、確認しなければ分かりません。

区別していない会社では、昇給の通知を見ても内訳が書かれていないことがあります。この場合は明細の項目を前年と比べる方法が残ります。手順は昇給額を給与明細で確かめる方法にまとめています。

注意したいのは、この割合が定期昇給制度のある企業を母数にしている点です。制度がない会社は母数に入っていないため、自社に定期昇給制度があるかどうかを先に確かめないと、この数字を自分の状況に当てはめられません。

定期昇給の中身が評価で決まる会社は多い

定期昇給という言葉は、毎年自動で上がる仕組みのように読めますが、実際には中身が評価で決まっている会社が多数です。情報通信業で定期昇給制度がある企業のうち、昇給の内容に業績評価などを含める企業は 85.9% にのぼります(複数回答)。

制度の普及状況も合わせて見ると、情報通信業で定期昇給制度がある企業は 89.6%、実際に定期昇給を実施した企業は 86.2% です。制度があっても実施しなかった会社があるため、制度の有無と実施の有無は別に確かめる必要があります。

具体例として、同じ「定期昇給あり」と書かれた2社を考えます。一方は年齢と勤続で自動的に上がる設計、もう一方は評価ランクごとに昇給表が分かれている設計です。前者では評価を上げても月例給は動かず、後者では評価が月例給に直接効きます。求人票の「昇給あり」という表記だけでは、このどちらなのか判別できません。

例外として、評価が月例給ではなく賞与だけに効く設計の会社もあります。この場合、昇給額は小さいのに年間の受取額では差がつきます。月例給の昇給だけで評価の価値を測ると、こうした会社を過小に見ることになります。

賃上げ率は「平均」であって、自分の配分率ではない

発表される賃上げ率は、従業員1人あたりの平均です。情報通信業の1人平均賃金の改定率は 3.9%(令和7年(2025年))、改定額は 14,096円/月 でした。全産業計の改定率は 4.4% で、情報通信業はこれを下回っています。

ここで押さえたいのは、平均は個人への約束ではないということです。評価配分が厚い会社では、平均の周りに上下の幅が生まれます。自分の昇給額が平均を下回っていても、制度違反が起きているわけではありません。

なお、この改定額は所定内賃金の月額ベースで、賞与と割増手当を含みません。賞与の比率が高い会社では、月例給の改定額が小さくても年収の増え方が違ってきます。賞与の比重の見方は賞与比率が高い会社と低い会社の違いで扱っています。

配分方式より先に、会社規模で原資が違う

配分方式を気にする前に、原資の総量が会社によって違うことを押さえる必要があります。従業員5,000人以上の企業の改定率は 5.1%、100〜299人の企業は 3.6% でした。

区分 1人平均賃金の改定率
全産業計 4.4%
情報通信業 3.9%
5,000人以上の企業 5.1%
100〜299人の企業 3.6%

この表は規模が大きいほど率が高いという傾向を示していますが、そのまま自分の会社に当てはめてはいけません。産業の区分と規模の区分は別の集計で、情報通信業の中の規模別を示したものではないからです。また、改定率は元の給与水準に乗じる率なので、率が高くても元が低ければ金額は小さくなります。

引き上げを行った企業自体は多く、情報通信業で1人平均賃金を引き上げた企業の割合は 97.4% です。引き上げの有無ではほぼ差がつかないため、確かめる価値があるのは率と配分の方式になります。

自社がどちらに寄っているか見分ける4つの質問

配分方式は、就業規則や賃金規程に書かれていれば読み取れます。書かれていない場合は、次の4つを確認すると見当がつきます。

  • 今回の昇給のうち、全員に共通して適用された引き上げ分はあるか
  • 賃金表(等級ごとの上限と下限)は改定されたか、個人の位置だけが動いたか
  • 評価ランクごとに昇給額の目安が決まっているか
  • 昇給の通知に、等級・評価・改定額の3つが書かれているか

4つのうち最初の2つが一律配分の有無、後の2つが評価配分の強さに対応します。質問の順番には意味があり、前者が分からないまま後者だけを聞くと、評価の話に寄って賃金表の改定を見落とします。

聞き方としては、評価への不満ではなく制度の確認として聞くほうが答えが得られます。「自分の評価が低いのはなぜか」ではなく「今回の改定は賃金表の改定を含むのか」という形です。前者は評価者の判断を問う質問で、後者は事実の確認なので、人事が答えやすくなります。

答えが得られない場合もあります。制度として整備されていないか、開示の方針がないかのどちらかですが、どちらであっても自分の昇給の根拠が確認できない状態には変わりません。その事実自体を、社外の条件と比べる材料として扱ってください。

一律配分が厚い会社で起きること

一律配分が厚い会社では、評価の上下で月例給が動く幅が小さくなります。上位評価でも平均に近い金額に収まり、下位でも大きくは落ちません。

この設計は、業績が安定している会社や、人員の定着を重視する会社で見られます。原資を広く配るため1人あたりの金額は薄まりますが、評価の運用に左右されない部分が大きく、見通しは立てやすくなります。評価面談の結果に関係なく、賃金表の改定分は届きます。

具体例として、上位評価を2年続けたのに昇給額が周囲とほとんど変わらなかった、という状況を考えます。評価配分が薄い会社では、これは評価が反映されていないのではなく、設計どおりである可能性があります。確かめるべきは評価の妥当性ではなく、評価が賞与と昇格のどちらに回っているかです。

注意点として、一律配分が厚いことは水準が高いことを意味しません。配り方が均等なだけで、元の賃金表が低ければ総額も低くなります。評価の枠と原資の関係については相対評価と絶対評価で昇給額はどう変わるかで扱っています。

評価配分が厚い会社で起きること

評価配分が厚い会社では、同じ原資から配る金額に差をつけるため、上位と下位で昇給額が開きます。平均値を見ても自分の昇給額は予測できません。

この設計では、評価の材料と判定の基準が昇給額に直結します。したがって確認すべきものが変わり、評価ランクごとの昇給額の目安、評価期間、評価者が誰かといった運用の情報が重要になります。自己評価の書き方が結果に影響する範囲も広がります。整理の仕方は自己評価シートの書き方にまとめています。

具体例として、評価が高かった年に昇給額が大きく伸び、翌年は同じ評価でも伸びが小さかったという状況があります。これは評価が据え置かれたからではなく、等級の帯の上限に近づいたために昇給幅が縮む設計になっている場合があります。帯の中での位置と上限を確認しないと、評価の問題と制度の問題を切り分けられません。

例外として、評価配分が厚いにもかかわらず評価の分布が事実上固定されている会社もあります。その場合、配分方式は評価配分でも、個人から見れば順番待ちに近い動きになります。

配分方式では埋まらない差がある

ここまでは同じ会社の中の配り方の話です。配分方式を最適に読み切っても、会社の外にある差は動きません。経験年数だけを変えて推定レンジを並べると、帯をまたぐ段差の大きさが分かります。

実務経験推定レンジレンジの図
未経験340〜399万円
1年未満383〜449万円
1〜2年425〜499万円
3〜5年531〜624万円
6〜9年638〜748万円
10年以上723〜848万円
条件:上場・大手/東京/スキルスコア50。公開統計をもとにした推定であり、実際の年収を保証するものではありません。算出方法

表の各行は幅を持っており、同じ経験年数でも下端と上端があります。配分方式の話が効くのは、この幅の内側で自分がどこに置かれるかという部分です。行をまたぐ移動は、昇給の積み上げではなく等級や役割の変化によって起こります。

この表をそのまま自分に当てはめられないのは、条件を固定した推定だからです。企業タイプと勤務地を変えれば水準は動きます。企業タイプ由来の差については企業タイプ別の年収相場、経験年数帯ごとの水準は経験年数別の年収相場で扱っています。

昇給の通知で確認する項目

配分方式を読み取る実務的な入口は、毎年の昇給通知です。何が書かれているかで、確認できる範囲が決まります。

  1. 改定後の基本給と、改定額
  2. 自分の等級と、等級が変わったかどうか
  3. 評価ランク、またはそれに相当する区分
  4. 全員に適用された引き上げがある場合の、その金額または率

4項目が揃っていれば、一律配分と評価配分の内訳はほぼ読み取れます。足りない項目があれば、それが人事に確認する対象です。

注意点として、改定後の金額だけが書かれた通知も珍しくありません。その場合は前年の明細と並べ、基本給系の項目の差を取ります。総支給額で比べると残業時間の違いが昇給に見えてしまうため、比べる項目を基本給系に限るのが前提です。

一律配分が厚い会社での打ち手

一律配分が厚い会社で月例給を大きく動かしたい場合、評価を上げる経路より、等級を上げる経路のほうが効きます。帯の中での昇給には上限があり、帯そのものを変えるのが昇格だからです。

したがって確認の順番は、昇格要件、判定の時期、直近で昇格した人が何を満たしていたか、の3点になります。要件が明文化されていればそれを材料に実績を揃えられますし、明文化されていなければ、その状態が社外と比べる理由になります。

具体例として、昇格要件に「他チームを含む設計判断の経験」が入っている場合、日々の改善を積み上げるより、横断的な設計に関わる機会を取りにいくほうが要件に直結します。評価シートの書き方を変えるだけでは要件は満たせません。

例外として、昇格の枠自体が埋まっている期もあります。その場合は要件を満たしても判定が先送りになるため、時期の見通しを確認したうえで、社内で待つのか外を見るのかを判断することになります。

転職先を見るときの確認点

配分方式は、転職先の条件を読むときにも使えます。提示年収が同じでも、入社後の伸び方が変わるためです。

確認したいのは、賃金表があるか、昇給の改定時期がいつか、評価が月例給と賞与のどちらに効くか、昇格の判定が年に何回あるかの4点です。カジュアル面談や内定提示後の面談で、制度の事実として聞ける範囲に収まります。聞ける範囲と聞き方はカジュアル面談で年収と等級をどこまで確認できるかで扱っています。

改定回数の意味を詳しく知りたい場合は昇給の改定が年1回の会社と年2回の会社を参照してください。

まとめ

  • 賃上げの原資は一律配分と評価配分に分かれ、評価で動かせるのは後者だけ。自分の昇給額を見るときは、金額より先に経路を分ける
  • 情報通信業で定期昇給制度がある企業のうち、ベースアップを実施したのは 52.1%。一律配分が必ずあるとは考えない
  • 発表される賃上げ率は1人あたりの平均で、個人への配分率ではない。評価配分が厚い会社では平均の周りに幅が出る
  • 一律配分が厚い会社では、評価より昇格の要件を確認するほうが月例給に効く