結論から書きます。昇給の改定が年1回か年2回かは、数年後の年収にほとんど差を生みません。 年2回の会社は1回あたりの改定幅がおおむね半分になるため、増えるのは「改定後の金額で過ごす月が前倒しになる」分だけです。
差が開くのは、改定の回数ではなく、年間ベースの改定率と、等級が上がる機会が何回あるかです。この記事では、求人票の「昇給年2回」をどう読み替えればよいかを順に見ていきます。
回数そのものが生む差は小さい
年1回の会社と年2回の会社で、年間の改定率が同じだとします。このとき年2回の会社は、前半の改定で上がった金額を年の後半だけでなくその前から受け取れるため、1年間の受取総額はわずかに増えます。ただしこの効果は改定幅の半分が半年早く届くだけの話で、月額の改定額そのものが大きくなるわけではありません。
情報通信業で実際に動いている水準を置くと、規模感が分かります。1人平均賃金の改定率は 3.9%(令和7年(2025年))、月額の改定額は 14,096円/月 です。この改定額を年1回でまとめて反映するか、半分ずつ2回に分けて反映するかという違いなので、年単位で見たときの差は数万円の範囲に収まります。
具体的に言えば、年2回改定の会社に移ったからといって、改定率の水準が変わらない限り、5年後の基本給が目に見えて違う状態にはなりません。回数は受け取り方のタイミングの設計であって、原資の大きさを決める変数ではないためです。
ただし例外があります。年2回の改定のうち片方が昇格の判定とセットになっている場合、等級が上がる機会が年2回になります。これは回数の違いが実質的な差につながるケースで、後の見出しで扱います。
本当に効くのは経験年数帯の段差
同じ条件で経験年数だけを変えると、昇給の1年分とは桁が違う段差が見えます。
| 実務経験 | 推定レンジ | レンジの図 |
|---|---|---|
| 未経験 | 340〜399万円 | |
| 1年未満 | 383〜449万円 | |
| 1〜2年 | 425〜499万円 | |
| 3〜5年 | 531〜624万円 | |
| 6〜9年 | 638〜748万円 | |
| 10年以上 | 723〜848万円 |
同じ条件で実務1〜2年の中央値は 462万円 、実務3〜5年の中央値は 578万円 です。その差は 116万円 あります。情報通信業の月額改定額 14,096円/月 をそのまま12か月分に換算しても、この段差には遠く届きません。
この表の読み方には注意が必要です。並んでいるのは「年数を重ねれば自動的にこの額になる」という予測ではなく、同じ経験年数帯の人が置かれている推定レンジです。年数が増えても担当する責任範囲が変わらなければ、レンジの下側に留まります。経験年数だけ増えて年収が止まる型については経験年数だけ増えて年収が止まる4つの型で扱っています。
したがって改定回数を気にする前に見るべきは、いまの等級の中にどれだけ余地が残っているか、そして次の等級に上がる要件が何かです。昇給は等級の中を上がる動きで、段差を越えるのは昇格か転職の動きです。
「昇給年2回」という表記が意味していること
求人票の昇給年2回は、改定の手続きが年2回あるという意味です。毎回必ず上がることや、年間の上げ幅が大きいことを示す表記ではありません。
この区別が効くのは、改定の内容が会社ごとに違うからです。情報通信業では定期昇給制度がある企業の割合が 89.6%、実際に定期昇給を実施した企業の割合が 86.2% です。制度があっても実施しなかった企業が一定数あることになります。
たとえば年2回の改定のうち、1回目が全社一律の見直し、2回目が評価結果の反映という設計になっている会社があります。この場合、2回目の改定額は評価次第で大きく振れ、評価が中位なら据え置きに近い金額になることもあります。年2回という表記からこの構造は読み取れません。
注意したいのは、回数が多いほど「下げる機会も増える」設計の会社があることです。評価が基本給に直結する仕組みでは、改定が減額方向に働く余地が制度上残っている場合があります。就業規則と給与規程で、改定が引き下げを含むのかどうかを確認してください。
定期昇給とベースアップでは回数の意味が違う
改定を2種類に分けると、回数の意味がはっきりします。定期昇給は年齢や等級に応じた積み上げ、ベースアップは給与テーブル全体の水準の引き上げです。
情報通信業でベースアップを実施した企業の割合は 52.1% で、定期昇給の実施割合 86.2% より低くなっています。つまり多くの会社では、改定の主たる中身は定期昇給のほうです。
ここが重要な点です。定期昇給は同じ等級の中での動きなので、回数を増やしても等級の上限に向かって近づく速度が変わるだけです。一方ベースアップはテーブルそのものが動くため、同じ等級に留まっていても水準が上がります。自分の改定額のうちどちらがいくらなのかは給与明細から追えます。手順は昇給額は妥当か給与明細で確かめるにまとめてあります。
例外として、年2回の改定のうち一方がベースアップの反映で、もう一方が定期昇給という会社では、回数の違いが水準の違いと重なります。この場合は回数ではなく、ベースアップの有無が効いていると読むのが正確です。
昇格の判定回数は回数差が意味を持つ場面
改定回数が実質的な差になるのは、昇格の判定が改定とセットで動く場合です。等級が上がる機会が年2回あれば、要件を満たした時点から反映までの待ち時間が短くなります。
理由は段差の大きさにあります。前述のとおり、経験年数帯をひとつ越える動きは116万円規模で、昇給1回分とは比較になりません。昇格が年1回しか判定されない会社では、要件を満たした直後に判定時期を過ぎていると、ほぼ1年分の待ち時間が発生します。
具体的には、4月と10月に等級判定がある会社で5月に要件を満たした場合、10月の判定に乗ります。判定が4月だけの会社なら翌年の4月まで待つことになります。同じ実力でも反映の早さが変わるのはこの部分です。
ただし判定回数が多い会社でも、枠の上限が決まっていれば実質の通過率は変わりません。相対評価で分布の枠がある場合の考え方は相対評価と絶対評価で昇給額はどう変わるかで扱っています。等級制度そのものの読み方は等級・グレード制度の読み方を参照してください。
評価サイクルと改定時期がずれている会社の見方
改定が年2回でも、評価が年1回という会社があります。この場合、2回目の改定は同じ評価結果を分割して反映しているだけで、評価が年2回反映されるわけではありません。
確認の順序としては、評価対象期間、評価の確定時期、改定の基準日の3つを並べるのが分かりやすいです。評価対象期間が4月から翌3月で、確定が5月、改定の基準日が7月と1月なら、1月の改定は半年前の評価に基づいて動いています。
この構造が分かると、実績を出す時期の意味が変わります。評価対象期間の終盤に出した成果は、確定までの時間と改定までの時間を足した分だけ遅れて反映されます。自己評価の書き方で反映を取りこぼさない方法は人事評価・自己評価シートの書き方にあります。
逆に、評価も改定も年2回という会社では、半年単位で成果を区切って示す必要があります。長期の技術的な取り組みが評価期間をまたぐ場合、途中の状態をどう評価するかが曖昧なままだと、短期で成果が見えやすい仕事に評価が寄ることがあります。制度の回数が多いことが常に有利とは言えないのはこの点です。
入社直後の初回改定までの待ち時間を数える
転職直後は、改定の回数より基準日との距離が効きます。多くの会社は改定の基準日に在籍し、かつ評価対象期間を一定以上満たした人を対象にするためです。
この条件があるため、入社月によって初回の改定を一度見送る形になることがあります。たとえば改定の基準日が4月で、評価対象期間の在籍要件が6か月なら、11月入社の人は翌年4月の改定に乗れない可能性があります。年2回改定の会社でも同じ構造で、乗れなかった回の分が後から補われるとは限りません。
入社前に確認しておくとよいのは、基準日、評価対象期間、初回改定の対象になる在籍要件の3点です。提示年収は初年度の受取額とずれることがあり、賞与の算定期間も絡みます。入社月と初年度の受取額の関係は転職の入社月で初年度の年収が減る仕組みで扱っています。
改定率の水準は会社規模でも変わる
回数の話から離れて、原資の側を見ます。1人平均賃金の改定率は、全産業で 4.4%、情報通信業で 3.9% です。情報通信業で1人平均賃金を引き上げた企業の割合は 97.4% と高く、引き上げ自体は広く行われています。
規模で見ると水準が変わります。従業員5,000人以上の改定率が 5.1%、100〜299人の改定率が 3.6% です。改定の回数は制度設計の選択ですが、改定率は原資の制約を受けるため、規模や業績の影響が出ます。
この比較から言えるのは、昇給の条件を評価したいなら、回数ではなく率の水準と、その率が一律配分か評価配分かを見るべきだということです。情報通信業で昇給の内容が業績評価などによる企業の割合は 85.9% で、評価が絡む設計が主流です。
数字の適用範囲には限りがあります。これらは企業単位の平均であって、個人の改定額ではありません。評価が配分を決める会社では、平均を下回る人も上回る人も同時に存在します。自分の改定額が平均と違うこと自体は、制度の異常を意味しません。
昇給の積み上げと転職を同じ軸で比べる
改定回数の比較は、どうしても小さい単位の話になります。桁を合わせて比べるために、転職のデータを置きます。
| 指標 | 値 |
|---|---|
| 情報通信業の1人平均賃金の改定額(月額) | 14,096円/月 |
| 転職で年収が増加した人の割合 | 60.4% |
| 年収が増加した人の平均増加額 | 73.1万円 |
表の読み方は注意が必要です。左の2行と3行目は性質が違います。改定額は在籍者全体の平均で毎年起きる動きですが、転職の増加額は「増えた人だけ」の平均で、一度きりの動きです。増えなかった人を含めた全体では動きはもっと小さくなります。
この表を使って「転職のほうが得」と結論づけることはできません。比べられるのは、積み上げで届く範囲と、構造を変えて届く範囲のおおよその桁です。どちらを選ぶかの損益分岐は定期昇給だけで年収はどこまで伸びるかで条件別に整理しています。
適用できないケースもあります。昇格が目前にある場合や、担当範囲が広がる途中にある場合は、積み上げの側の伸びが大きくなります。改定回数の有利不利を気にするより、自分が等級のどこにいるかを確かめるほうが判断に効きます。
入社前・在籍中に確認する5項目
改定の条件を確かめるときは、次の順で聞くと噛み合います。
- 改定の基準日はいつか。年に何回あるか
- 評価対象期間と、評価が確定する時期はいつか
- 初回改定の対象になる在籍要件は何か
- 改定は定期昇給か、ベースアップを含むか
- 昇格の判定は年に何回あり、要件は明文化されているか
このうち5番目が、実際の年収の動きに最も効きます。1番目と2番目は制度の形を知るための質問で、答えがどうであれ有利不利はほとんど決まりません。
在籍中であれば、同じ内容は給与規程と評価制度の説明資料で確認できます。規程に昇給条項があり、評価区分ごとの改定幅が書かれていれば、自分の改定額が制度のどこに位置するかが分かります。書かれていない場合は、その事実自体が制度の運用を考える材料になります。
質問の仕方には注意点があります。選考の段階で改定の細部を詰めすぎると、担当する役割よりも条件を見ている応募という印象になります。カジュアル面談や内定提示後の確認に回すほうが噛み合います。段階ごとの聞き方はカジュアル面談で年収と等級はどこまで聞けるかにまとめてあります。
よくある誤解の整理
誤解の多くは、回数と幅を混同することから生まれます。整理しておきます。
| 誤解 | 実際 |
|---|---|
| 昇給年2回なら年間の上げ幅が2倍 | 1回あたりの幅が半分になるのが通常 |
| 昇給年1回の会社は昇給が遅い | 年間の改定率が同じなら水準は変わらない |
| 回数が多いほど評価が反映される | 評価が年1回なら、同じ結果を分割して反映している |
| 昇給年2回なら交渉の機会も2回 | 改定は原資と評価で決まり、個別交渉の対象ではない |
表の右側に共通しているのは、見るべき変数が回数ではないという点です。年間の改定率、改定の中身、昇格の判定回数の3つが決まれば、回数は結果の内訳にすぎません。
この整理が当てはまらない場合もあります。年俸制で改定が年1回に固定されている会社や、等級がなく個別契約で金額を決める会社では、前提そのものが違います。年俸制での見方はエンジニアの年俸制は損かで扱っています。
まとめ
- 改定が年1回か年2回かは、年間の改定率が同じなら数年後の年収にほとんど差を生まない
- 効くのは年間の改定率と昇格の判定回数。経験年数帯の段差は116万円規模で、昇給1回分とは桁が違う
- 求人票の「昇給年2回」は手続きの回数の表記。確認するのは改定率の水準、定期昇給かベースアップか、昇格要件の明文化の3点
自分の経験年数と企業タイプで推定レンジがどこに来るかは、診断で確かめられます。