期末に配られる自己評価シートは、感想文ではなく昇給原資の配分と等級判定に使われる資料です。読むのは直属の上司だけとは限らず、その先の評価会議で、あなたを直接見ていない人が判断材料として扱います。

だからこそ、書き方で結果が変わる部分と、何を書いても変わらない部分がはっきり分かれます。最初に、その境目を確認します。

自己評価シートは昇給のどこに効くのか

情報通信業では、定期昇給制度がある企業が 89.6%、実際に定期昇給を実施した企業が 86.2% あります。そのうえで、昇給の内容が業績評価などによる企業の割合は 85.9% です。

つまり、昇給が制度として存在していても、その中身は評価によって差がつく設計になっている会社が大半ということです。自己評価シートは、この差をつける判断の入口に置かれています。

評価の流れは会社によりますが、多くは「本人の自己評価 → 一次評価者の評価 → 評価会議での調整 → 昇給・昇格の決定」という順に進みます。自己評価は最初の資料であり、一次評価者が上へ説明するときの材料になります。ここで担当範囲と成果が読み取れないと、評価者は自分の記憶だけで書くことになり、印象に残っている出来事の比重が上がります。

注意点として、自己評価シートは昇給を決める唯一の書類ではありません。原資の総額は業績と予算で先に決まっており、評価はその配分順を決める役割です。書き方を工夫しても、原資そのものは増えません。

自己評価で動く幅と、動かない幅

情報通信業の1人平均賃金の改定率は 3.9%、改定額は 14,096円/月 です。賃金を引き上げた企業の割合は 97.4% にのぼりますが、ベースアップまで実施した企業は 52.1% にとどまります。

この水準が、1回の評価で動く現実的な幅です。評価が良ければ相場より上、悪ければ下に振れますが、桁が変わるものではありません。一方で、同じ経験年数でも企業タイプが違うとこうなります。

企業タイプ推定レンジレンジの図
メガベンチャー・外資604〜709万円
上場・大手531〜624万円
中小の受託・SIer459〜539万円
スタートアップ483〜567万円
SES411〜482万円
条件:3〜5年/東京/スキルスコア50。公開統計をもとにした推定であり、実際の年収を保証するものではありません。算出方法

表の上端と下端の差は、1回の評価で動く幅とは比べものになりません。自己評価シートで取りにいくのは、この表の内側にある等級と配分順であって、表そのものの位置ではありません。企業タイプ由来の差については企業タイプ別の年収相場で扱っています。

この表は、実務3〜5年・東京勤務・スキル中位という条件を固定し、企業タイプだけを変えた推定値です。役職手当や賞与比率の設計は会社ごとに違うので、自分の会社の給与テーブルに当てはめるときは、基本給部分だけを比べてください。自己評価が効くのは、基本給の改定と等級判定の部分です。

昇給を積み上げた場合の伸び方と、転職との比較は定期昇給だけで年収はどこまで伸びるかにまとめています。自己評価シートの書き方を詰める前に、どちらで取りにいくのかを決めておくと、書く内容も変わります。

書く前に確認する3つの前提

書き始める前に、自分の会社の制度について次を確認します。分からない項目があるなら、それを上司に聞くこと自体が期末の行動になります。

  1. 等級要件 — 現在の等級と、1つ上の等級で求められる役割が文章で定義されているか
  2. 評価期間 — いつからいつまでの実績が対象か。期をまたいだ案件をどちら側に書くか
  3. 配分の仕組み — 評価が昇給額に効くのか、賞与に効くのか、昇格の判定だけに使われるのか

3つ目が特に重要です。評価が賞与にしか効かない会社で基本給の昇給を期待しても噛み合いませんし、逆に昇格判定にしか使われないなら、書くべきは1年の成果よりも「上の等級の仕事をすでにしている事実」になります。等級制度そのものの読み方は等級・グレード制度の読み方で扱っています。

型1:やったことではなく、判断と影響を書く

自己評価で最も多い失敗は、担当した作業の一覧になっていることです。作業の列挙は、同じ等級の誰が書いても同じ形になり、差がつきません。

評価されるのは、どの判断を自分がしたかと、その結果どうなったかです。次の書き換えが典型です。

弱い書き方 評価につながる書き方
決済機能のAPIを実装した 決済APIの再試行方式を選定し、二重課金の発生経路を設計段階で潰した
障害対応を担当した 障害の一次切り分け手順を文書化し、当番の初動を自分以外でも回せるようにした
レビューを行った レビュー基準を3点に絞って明文化し、指摘の往復回数を減らした

右側に共通しているのは、判断した内容と、その判断が誰に効いたかが書かれていることです。実装したという事実は前提であり、評価の対象は「その実装で何を決めたか」にあります。

ただし、影響を大きく見せようとして範囲を広げるのは逆効果です。チーム全体の数字を自分の成果として書くと、評価会議で他のメンバーの申告と突き合わされたときに整合しません。担当範囲を正確に書き、その中で最も難しかった判断を具体的に書くほうが、結果的に上の等級の要件に届きます。

型2:数字は事実と推定を分けて書く

数字を入れると具体性は上がりますが、根拠のない数字は逆に信頼を落とします。書けるのは、自分が計測した値か、社内で共有されている指標に限られます。

原則として、計測値は「何をどう測ったか」まで添えます。ビルド時間、障害件数、レビューの滞留日数、問い合わせ件数のように、既に社内で見られている指標を使うと、評価者が確認できます。確認できない数字は、評価会議で取り下げられるか、無視されます。

推定しか書けない場合は、推定であることを明記したうえで、計算の前提を1行で書きます。たとえば作業時間の削減なら、対象人数と月あたりの発生回数を書いておけば、評価者は自分で妥当性を判断できます。数字を盛るより、前提を開示するほうが強いというのが、この型の要点です。

数字が取れない仕事もあります。設計のレビュー、障害の予防、後輩の立ち上がり支援などは、成果が「起きなかったこと」として表れるため計測できません。この場合は、判断の内容と、その判断がなかった場合に何が起きていたかを書きます。事実として起きたことだけを書き、起きなかった損害額のような架空の数字は置かないでください。

型3:等級要件の言葉に翻訳する

自己評価シートは、等級要件と照らして読まれます。要件が「担当領域の設計を独力で完結できる」なら、評価者が探しているのは設計を独力で完結した事例です。同じ実績でも、要件の言葉に寄せて書くかどうかで、読み取られる等級が変わります。

翻訳の手順は単純です。まず等級要件を1行ずつ書き出し、次に自分の実績をその行に割り当てます。割り当てが埋まらない行が、次の期に取りにいく仕事です。埋まらない行を空欄のまま出すのではなく、「この期は担当機会がなかった」と書いておくと、次の期のアサインを相談する材料になります。

注意点として、要件の言葉をそのまま貼り付けるだけでは足りません。「設計を独力で完結した」と書くだけでは事実の主張にとどまるため、対象システム、選択肢、選んだ理由、選ばなかった理由まで書いて初めて要件を満たした証拠になります。技術選定の責任がどう評価に効くかは技術選定・アーキテクチャ責任は年収に効くかで扱っています。

要件が文章化されていない会社もあります。その場合は、上司が過去に昇格させた人がどんな仕事をしていたかを聞き、その内容を自分の言葉で要件として書き出して確認を取ります。要件が言語化できない状態が続くなら、社内で昇格を狙うより、社内公募・社内異動や外部の求人と比べたほうが早い場合があります。

型4:評価者が社内で説明できる形にする

一次評価者は、あなたの評価を評価会議で説明する立場にあります。そこに技術の詳細を持ち込んでも通じないことがあるため、技術的な難しさを、業務上の意味に置き換えて書く必要があります。

置き換えの軸は3つです。事業への影響、チームへの影響、リスクの低減です。たとえば「N+1クエリを解消した」は、そのままでは会議で扱えません。「ピーク時間帯の表示遅延を解消し、問い合わせの発生源を1つ減らした」と書けば、非エンジニアの評価者でも順位づけに使えます。

技術の詳細を書かないという意味ではありません。詳細は補足として残し、冒頭の1文だけを業務の言葉にします。評価者が読むのは冒頭であり、詳細は質問されたときに使われます。順番を逆にすると、読まれないまま埋もれます。

型5:できなかったことは次の期の計画とセットで書く

未達の項目を書かないと、評価者は「自覚がない」と判断します。逆に、未達だけを書くと自己評価として弱くなります。書き方は、未達の事実、原因の切り分け、次の期にどう変えるかの3点セットです。

原因の切り分けでは、自分の判断で変えられたことと、変えられなかったことを分けます。要件の確定が遅れて着手が後ろ倒しになったのは環境要因ですが、遅れが見えた時点で共有しなかったのは自分の判断です。この分離ができていると、評価者は次の期のアサインを判断しやすくなります。

未達を書く目的は、減点を受け入れることではなく、次の期の目標設定を先に握ることです。ここで書いた計画が次の期の評価軸になるため、達成可能で、かつ1つ上の等級の要件に重なる内容を選びます。

書くと逆効果になる表現

次のような書き方は、評価を下げるか、少なくとも判断材料になりません。

  • 「頑張った」「意識した」など、行動の結果が書かれていない表現
  • 他のメンバーや他部署の批判を含む説明
  • 担当範囲を超えた成果を、区別せず自分の実績として書くこと
  • 確認できない数字、前提を書かない推定値
  • 昇給額そのものへの要求を、実績の欄に書くこと

最後の点は補足が要ります。金額の話をしてはいけないという意味ではなく、実績欄と希望条件は場所を分けるという意味です。金額の希望は面談で、根拠を添えて伝えます。実績欄に金額の要求を書くと、評価そのものが値段交渉として扱われ、記載した実績まで割り引いて読まれることがあります。

提出後のフィードバック面談で確認すること

提出して終わりにすると、翌期も同じ結果になります。面談では次を確認します。

  1. 自己評価と一次評価がずれた項目はどれか、その理由は何か
  2. 現在の等級要件のうち、未達と判断された行はどれか
  3. 次の等級に上がるために、次の期に必要な実績は何か
  4. その実績を作れる案件のアサイン見込みはあるか

4つ目まで聞けると、次の期の計画が具体的になります。逆に、4つ目に答えが返ってこない場合、要件を満たす機会が社内にない可能性があります。機会がない状態で努力を続けても等級は上がらないため、その事実は転職を検討する材料になります。

確認した内容は、その場でメモに残し、可能なら評価シートの次期目標欄に反映します。口頭の合意は評価会議には残りません。書面に残っているかどうかで、半年後の扱いが変わります。

期中に記録を残す(期末に思い出そうとしない)

自己評価が書けない最大の理由は、半年から1年前の仕事を思い出せないことです。思い出せる範囲で書くと、直近2か月の仕事だけが並び、期の前半の成果が丸ごと落ちます。

対策は、週に1回、5分で書ける記録を残すことです。記録する項目は、担当した判断、相談を受けた内容、想定と違ったこと、数字が動いた指標の4つで足ります。完成した文章にする必要はなく、後から検索できる単語が残っていれば十分です。

この記録は、社内の評価だけでなく、外を見るときにもそのまま使えます。職務経歴書に書ける粒度へ整える方法は職務経歴書で提示年収が変わる理由で扱っています。社内評価と外部評価では読まれ方が違いますが、元になる事実は同じです。

評価が昇給に反映されない会社の見分け方

評価は高いのに昇給が動かない場合、原因は評価の書き方ではなく制度側にあります。給与明細で定期昇給とベースアップを見分ける手順は昇給額は妥当か給与明細で確かめるにまとめました。改定の実額が情報通信業の相場から大きく離れているなら、そもそも原資が配られていない可能性があります。

判断の目安は3つです。等級要件が文章で示されるか、評価結果の理由が具体的に説明されるか、昇格した人の実例を示せるか。3つとも満たさない会社では、自己評価シートをどれだけ精密に書いても結果は変わりません。

その場合に取れる選択肢は、社内で職種や部署を変えるか、外部の求人と条件を比べるかの2つです。同じスキルでも企業タイプによって評価の上限が変わるため、下端のレンジにいるなら、評価の書き方より先に環境の比較が効きます。

  • スキル中位(スコア50)で上場・大手:638〜748万円
  • 同じスキルでSES:493〜578万円

まとめ

  • 自己評価シートは昇給原資の配分と等級判定の材料。情報通信業では昇給の内容が評価などで決まる企業が大半を占める
  • 1回の評価で動く幅は改定率の相場の範囲内で、企業タイプ由来の差はこの幅では埋まらない
  • 書くのは作業の一覧ではなく、判断と影響、確認できる数字、等級要件への対応、未達と次期の計画
  • 提出後の面談で、未達の要件と次に必要な実績、その機会があるかまで確認する