賞与の比率が違う2社を比べるとき、提示された年収の総額だけを並べても判断できません。同じ年収提示でも、確定している部分の大きさが違うためです。比べる順番は、まず月給ベース、次に賞与の決まり方、最後に総額になります。

この記事は、賞与比率の高い会社と低い会社からオファーを受けて、どちらが実質的に有利か判断したい人向けに、確認する順番と、判断を誤りやすい箇所を整理します。

結論:総額ではなく、確定している部分から比べる

年収の提示額が同じ2社であれば、先に見るのは月々の給与です。賞与は業績や評価で動く前提の報酬なので、提示年収のうち賞与が占める割合が大きいほど、実際に受け取る額が提示から離れる可能性が大きくなります。

理由は、賞与と月給で決まり方が違うからです。月給は雇用契約と賃金規程で先に決まっており、下げるには不利益変更の手続きが要ります。賞与は多くの会社で「会社の業績と本人の評価に応じて支給する」と定められており、支給しないという判断も規程の範囲に入ります。同じ金額でも、月給に乗っている分と賞与に乗っている分では、翌年も同じように受け取れる確度が違います。

具体的には、年収の提示が同じで賞与の支給月数が少ない会社と多い会社を比べると、後者のほうが毎月の給与は低くなります。年収の総額が同じである以上、賞与へ多く配分した分だけ月給側の配分が減るためです。住居費や教育費のように毎月出ていく固定費は月給から払うので、生活の安定性を決めるのは年収総額ではなく月給の側になります。

ただし賞与比率が高いことが一律に不利という意味ではありません。業績が良い年には提示額を上回ることがあり、変動を受け入れられるなら期待値は下がりません。判断が変わるのは、固定費が月給に収まるかどうかです。

統計の平均年収には、賞与が入っているものと入っていないものがある

賞与を考えるときに最初につまずくのが、参照する統計によって賞与の扱いが違うことです。

統計 数値 賞与の扱い
賃金構造基本統計調査(情報通信業・所定内給与) 406千円/月 含まない(残業代も含まない月額)
民間給与実態統計調査(情報通信業・平均給与) 660万円 含む(年間の支給総額)
doda 平均年収ランキング(ITエンジニア) 469万円 含む(支給額ベース)

この表は、上の行を12倍しても下の行にはならない、という読み方をします。片方は賞与と時間外手当を含まない月額、もう片方は賞与を含む年間の支給総額で、調査対象も集計方法も違います。差額をそのまま賞与額として読むことはできません。

適用できないのは、自分の年収を1つの平均と突き合わせて高い低いを言う場面です。月給だけで比べるなら所定内給与の統計、総額で比べるなら年間の支給総額を扱う統計と、揃える側を先に決める必要があります。求人票の年収表示は総額側なので、月給の統計と直接比べると必ず低く見えます(求人票の年収レンジの読み方)。

賞与の決まり方は大きく3種類ある

賞与比率そのものより、算定の仕組みのほうが年収への影響が大きくなります。仕組みは大きく3つに分かれます。

算定の基礎 変動の幅
月給連動型 基本給の◯か月分 小さい。基本給が上がれば賞与も上がる
業績連動型 会社や部門の利益に対する分配 大きい。個人の評価より会社の業績で動く
評価連動型 等級ごとの基準額×個人評価 中程度。等級が上がると基準額が変わる

月給連動型は、昇給がそのまま賞与に波及するため、年収の伸び方が読みやすい形です。業績連動型は、良い年の上振れが大きい代わりに、自分の成果と支給額が一致しないことがあります。評価連動型は等級が主な変数になるので、昇格の要件を確認しておくと見通しが立ちます(等級・グレード制度と昇格の仕組み)。

注意が必要なのは、規程上は業績連動型でも、実態として毎年ほぼ同じ月数が支給されている会社があることです。この場合の判断材料は規程の文言ではなく、直近数年の支給実績になります。逆に、月給連動型と説明されていても、業績が一定水準を下回った場合の減額条項が別に置かれていることがあります。どちらも、条文と実績の両方を見ないと判断を誤ります。

昇給は賞与に自動では効かない

賞与比率が高い会社で見落とされやすいのが、昇給と賞与の関係です。賃金改定の統計は、賞与を含まない所定内賃金に対する数字として公表されています。

情報通信業の1人平均賃金の改定率は 3.9%、改定額は 14,096円/月 で、いずれも所定内賃金の月額に対する値です。定期昇給制度がある企業は 89.6%、ベースアップを実施した企業は 52.1% でした。

ここから読み取れるのは、昇給が動かすのは基本的に月給の側だという点です。月給連動型の賞与であれば、月給が上がった分だけ賞与も自動で増えます。業績連動型なら、同じ昇給率でも賞与の額は変わりません。つまり賞与比率が高い会社では、同じ昇給率が年収全体に及ぼす効果が小さくなります。

具体的な確認の仕方は、賃金規程で賞与の算定基礎が「基本給」なのか「等級別の基準額」なのか「営業利益に対する分配」なのかを見ることです。基本給と書かれていれば昇給は年収全体に効き、それ以外なら昇給と賞与は別々に動きます。昇給で埋めるか転職で埋めるかの判断にも関わります(定期昇給と転職の損益分岐)。

診断のレンジは賞与込みの額面

このサイトの推定レンジは、賞与を含む額面の年収です。もとにしているITエンジニアの平均も支給額ベースのため、賞与比率が高い会社でも低い会社でも、同じ条件なら同じレンジに入ります。

実務3〜5年・東京・スキル中位で、企業タイプだけを変えるとこうなります。

企業タイプ推定レンジレンジの図
メガベンチャー・外資604〜709万円
上場・大手531〜624万円
中小の受託・SIer459〜539万円
スタートアップ483〜567万円
SES411〜482万円
条件:3〜5年/東京/スキルスコア50。公開統計をもとにした推定であり、実際の年収を保証するものではありません。算出方法

この表は総額のレンジなので、賞与比率の違いは表の中では見えません。 同じ行の中に、月給が高く賞与が小さい会社と、月給が低く賞与が大きい会社の両方が入っています。表で企業タイプ間の水準を掴んだうえで、個別のオファーは内訳で比べるという二段構えになります。

適用できないのは、賞与が支給されない年を織り込んだ比較です。レンジの下端は平年の下振れを表す幅であって、賞与ゼロの年を想定した値ではありません。賞与が出ない可能性まで考えるなら、月給の12か月分を別に計算して、それが生活の下限を満たすかを見てください。

オファーで確認する4手順

賞与比率が違うオファーを比べるときは、次の順で確認します。

  1. 月給の額を確認する — 基本給と固定手当を分け、固定残業代が含まれているかを見る
  2. 賞与の確定部分と変動部分を分ける — 規程で最低支給が定められているか、全額が業績連動かを確認する
  3. 算定基礎と直近の支給実績を聞く — 何を基礎に計算するか、直近数年で何か月分だったか
  4. 初年度と2年目を分けて計算する — 入社月と算定期間の関係で、初年度は満額にならないことがある

このうち省略されやすいのが4番目です。賞与の算定期間に在籍していない分は対象外か減額になるのが一般的で、年収表示どおりの金額が入るのは2年目からというケースが珍しくありません。初年度の手取りで生活設計を立てていると、ここで狂います。

1番目で固定残業代が出てきた場合は、賞与の話に進む前に実質時給へ直してください。月給が高く見えても残業前提の設計であれば、賞与比率の比較そのものが成立しません(みなし残業を実質時給に換算する方法)。

年俸制と賞与の関係を混同しない

年俸制の会社では、年額を16分割して4か月分を賞与の形で支給する、といった設計がよく使われます。この場合の「賞与」は名称であって、業績連動の変動報酬ではありません。総額が先に決まっているためです。

一方、年俸に加えて業績賞与が別枠で乗る設計もあります。同じ年俸制でも、前者は変動が小さく、後者は変動が大きくなります。オファーの比較では、年俸制かどうかではなく、確定している年額がいくらで、その上に変動部分がいくら乗るのかを聞くほうが早く判断できます(年俸制と月給+賞与の違い)。

注意点として、年俸制であっても割増賃金の支払い義務がなくなるわけではありません。年俸に固定残業代を組み込んでいる場合は、その時間数と超過分の扱いを確認してください。

賞与比率が高い会社が向いている人・低い会社が向いている人

判断は好みではなく、固定費と受け入れられる変動幅で決まります。

賞与比率が低く月給が高い設計は、住宅ローンや家賃の比率が高い人、収入の見通しを固定したい人に向きます。毎月の給与から固定費を払い切れる状態を作れるためです。

賞与比率が高い設計は、固定費が月給に十分収まっていて、上振れを取りにいける人に向きます。業績が良い年の上振れは月給側では起こりにくく、変動報酬でしか受け取れない形になっているためです。

どちらの場合も、賞与が支給されなかった年を一度計算してみてください。その状態で生活が回らないなら、賞与比率は下げる方向で選ぶことになります。回るのであれば、期待値の高いほうを選ぶ余地が出ます。

よくある失敗

最も多いのは、提示年収の総額だけを見て転職し、月々の手取りが下がったと気づく形です。賞与比率が上がると、年収が上がっていても月給は下がることがあります。転職による年収の変動額は全体平均で 9.5万円 ですが、この数字は総額の変動であって、月々のキャッシュフローがどう変わるかは示していません。

次に多いのが、前年実績の賞与額を確定分として計算に入れてしまう形です。前年に大きな案件があった、決算が良かったといった一過性の要因が乗っている場合、翌年に同じ額は出ません。参考値として聞くのは有効ですが、比較の土台に据えるのは確定部分だけにします。

3つ目は、賞与の額面が大きいから手取りも比例して大きいと考える形です。賞与にも所得税と社会保険料はかかります。控除の仕組みは月給と賞与で異なる部分があり、個別の税額や保険料の計算は前提条件で変わるため、具体的な金額は税理士や社会保険労務士へ確認してください。ここでは、額面の比較と手取りの比較は別物だという点だけ押さえておけば十分です。

在職中に自社の賞与設計を確認する

転職を考えていない場合でも、自社の賞与がどの型かを知っておくと、年収を上げる打ち手が変わります。月給連動型なら昇給と昇格が年収全体に効くので、等級要件を満たす実績づくりが直接効きます。業績連動型なら、個人の評価を上げても分配率が変わらない限り賞与額は動きにくく、昇給交渉や等級の見直しのほうが優先されます。

確認先は賃金規程と賞与規程です。就業規則は労働者が見られる状態に置くことが法令で求められているため、閲覧方法が分からなければ人事に聞けば確認できます。規程に算定式が書かれていない場合は、その事実自体が、支給額が会社の裁量で決まるという情報になります。

そのうえで、直近3年程度の支給月数を並べてみてください。実績が安定しているなら賞与を含めた年収で生活設計を立てられますし、年ごとに大きく振れているなら、月給の側で成り立つ設計に寄せる判断になります。

まとめ

  • 比べるのは提示年収の総額ではなく、月給・賞与の確定部分・変動部分の順。生活の安定性を決めるのは月給の側
  • 賞与の算定基礎が基本給なら昇給が年収全体に効き、業績連動なら昇給と賞与は別々に動く
  • 統計は賞与を含むものと含まないものがあるので、比べる相手と揃える側を先に決める
  • 初年度は算定期間の関係で満額にならないことがある。初年度と2年目を分けて計算する