転職のオファーで提示された年収と、入社して最初の一年に実際に受け取る額は、しばしば一致しません。最大の原因は、賞与の算定期間と入社月の関係です。

この記事は、オファーを受けて入社日を決めようとしているエンジニア向けに、初年度の受取額がどこで目減りするのか、どこまで調整できるのかを順に整理します。

結論:初年度に減るのは「算定期間に在籍していない月」の分

先に結論を書きます。初年度の受取額が提示年収を下回る主な理由は、初回の賞与が、算定期間のうち在籍していた月数で按分されるからです。期の途中で入社すれば、その期の賞与は満額になりません。

理由は、賞与が「支給月の直前の働きに対して払われるもの」ではないからです。多くの会社の賃金規程では、賞与に算定期間が定められており、その期間の在籍と評価に対して支給月に払う形をとっています。入社前の月は算定期間に含まれていても在籍していないため、その分は支給の対象から外れます。

たとえば、算定期間の途中で入社した場合、初回賞与は在籍した月数の割合で計算されます。算定期間の終わりの直前に入社すれば、初回は対象外と扱われることもあります。どちらも規程どおりの運用であり、提示年収が誤っていたわけではありません。提示年収は年間を通じて在籍した場合の想定額で、初年度だけが例外になります。

注意すべき例外は、初年度に限って按分せず一定額を支給する会社があることです。この扱いがあるかどうかで初年度の差は大きく変わるため、入社を決める前に確認する価値があります。

支給月と算定期間は別物

つまずきやすいのが、賞与の「支給月」と「算定期間」を同じものと考えてしまうことです。支給月は受け取る月、算定期間は評価と在籍を見る期間で、両者は数か月ずれているのが普通です。

このずれがあるために、入社直後の支給月に賞与が出ても、それは主に入社前の期間に対する支給であり、金額は小さくなります。逆に、入社してしばらく支給月が来なくても、その間の働きは次の支給月に反映されます。支給月が近いかどうかではなく、算定期間のどこから在籍しているかで金額が決まります。

具体的に確認するのは、賃金規程または労働条件通知書に書かれた算定期間の開始月と終了月、そして支給月の3点です。この3点が分かると、自分の入社月が初回賞与のどこに当たるかを自分で計算できます。

適用できないのは、賞与が業績連動で支給月数が事前に決まっていない会社です。この場合は按分の割合が分かっても金額の見込みが立たないため、直近数年の支給実績を併せて確認する必要があります(賞与比率が高い会社と低い会社の見分け方)。

入社月ごとに初年度がどう変わるか

算定期間との位置関係で、初回賞与の扱いは大きく3つに分かれます。

入社の位置 初回賞与の扱い 初年度の受取額
算定期間の開始月と同じ 満額の対象になりやすい 提示額に最も近い
算定期間の途中 在籍月数で按分される 按分された分だけ下回る
算定期間の終盤・支給月の直前 対象外か、少額の寸志になることがある 最も下回る

この表は、自分の入社予定月を算定期間の中に置いてみる、という読み方をします。金額の大小ではなく、在籍していない月が算定期間にどれだけ含まれるかを見ます。

適用できないケースもあります。入社時期にかかわらず初回賞与を保証している会社、賞与そのものを設けず月給に含めている会社、年俸を12分割ではなく賞与相当分を含めて分割している会社では、この表のとおりにはなりません。表を当てはめる前に、賞与の有無と支給の形を先に確認してください。

提示年収の表記からは、このずれが見えない

求人票やオファーレターの年収は、年間を通じて在籍した場合の想定額として書かれているのが一般的です。したがって、提示額を見ているだけでは初年度の目減りは分かりません。

見えない理由は、年収表示が月給と賞与を合算した形で作られているためです。賞与の部分に「初年度は按分」という条件が付いていても、合算後の一つの数字にはその条件が残りません。求人票の年収レンジがどう作られているかは求人票の年収レンジの読み方で扱っています。

確認の仕方は単純です。提示された年収の内訳を、月給に当たる部分と賞与に当たる部分に分け、賞与部分について初年度の支給見込みを聞きます。「初年度の支給はどのように計算されますか」と尋ねれば、按分か、保証か、対象外かのいずれかが返ってきます。

現職側で失う賞与もある

初年度の目減りは、転職先だけの問題ではありません。現職を辞める時期によっては、すでに算定期間を勤め終えた賞与を受け取れないことがあります。

多くの会社の賃金規程には支給日在籍要件があり、支給日に在籍していない人には支給しないと定められています。算定期間を通して働いていても、支給日より前に退職すればその分は受け取れません。転職では、前後の会社で賞与を二重に失う形になりやすいのがこの構造です。

確認するのは、就業規則または賃金規程にある支給日在籍の定めと、支給日そのものです。定めがあるなら、退職日を支給日の後ろに置けるかを転職先の入社希望日と突き合わせます。ただし、支給日まで待つあいだに転職先の求人が埋まることもあるため、待って得る額と失う機会を並べて判断します。

判断の材料として、転職で実際に年収が増えた人の割合は 60.4%、全体の平均変動額は 9.5万円 でした。初年度の一時的な目減りと、二年目以降に続く水準は分けて考える必要があります。

入社日を動かして調整できる場合、できない場合

入社日を後ろにずらせば、算定期間の開始月に合わせられることがあります。ただし、これが有効なのは、先方が入社時期に幅を持たせている場合に限られます。

ずらせるのは、欠員補充ではなく増員の採用で、着任を待てるポジションの場合です。逆に、退職者の引き継ぎ期限が決まっている場合や、期の初めのプロジェクト立ち上げに合わせた採用では、入社日は動きません。入社日の調整は、交渉というより先方の事情の確認に近いものです。

ずらす場合は、無収入の期間が発生しないかを先に確認します。現職の退職日と転職先の入社日のあいだが空くと、その月の給与がなくなり、社会保険や住民税の扱いも変わります。個別の税や保険の判断は、勤務先の担当窓口や税理士に確認してください。

初年度だけの補填があるかを確認する

初年度の目減りを見込んで、入社時の一時金や初年度賞与の保証を設けている会社があります。これがあるかどうかで、初年度の差は実質的に埋まることがあります。

補填の形はいくつかあります。入社時に一括で支払うもの、初回賞与を按分せず一定額とするもの、初年度に限り月給へ上乗せするものなどです。いずれも、口頭の説明だけでは労働条件になりません。 金額と支給時期、早期退職時の返還条項の有無を、オファーレターか労働条件通知書の記載で確認します。

返還条項は特に見落とされます。入社一時金に「一定期間内に自己都合で退職した場合は返還する」と付いていることがあり、この場合は受け取った時点では確定しません。条件を読んだうえで、初年度の金額に含めてよいかを判断してください。

月給ベースに引き直して比べる

初年度の差に気を取られると、二年目以降の水準を見誤ります。会社を比べるときは、賞与を除いた月給の部分で並べるのが確実です。

参照する統計も、賞与を含むものと含まないものが分かれています。情報通信業の所定内給与額は 406千円/月 で、これは残業代も賞与も含まない月額です。一方、同じ業種の年間の平均給与は 660万円 で、こちらは賞与を含む支給総額にあたります。前者を12倍しても後者にはなりません。

この2つを混ぜて比べると、賞与の多い会社を過大に、少ない会社を過小に評価します。求人票の年収表示は賞与を含む総額側なので、月給の統計と直接並べると必ず低く見えます。比べる側をどちらかに揃えてから判断してください。

診断のレンジは満額の年収を前提にしている

このサイトの推定レンジは、年間を通じて在籍した場合の額面年収です。初年度の按分は含んでいないため、期の途中で入社する年については、レンジより下側に出ると考えてください。

実務3〜5年・東京勤務・スキル中位で、企業タイプだけを変えるとこうなります。

企業タイプ推定レンジレンジの図
メガベンチャー・外資604〜709万円
上場・大手531〜624万円
中小の受託・SIer459〜539万円
スタートアップ483〜567万円
SES411〜482万円
条件:3〜5年/東京/スキルスコア50。公開統計をもとにした推定であり、実際の年収を保証するものではありません。算出方法

同じ条件で、スキルの水準だけを変えた場合のレンジは次のとおりです。

  • スキル中位(スコア50):531〜624万円
  • スキル上位(スコア85):602〜707万円

いずれも二年目以降に続く水準を示したもので、初年度に限った金額ではありません。入社月の影響は一度きりで、翌年からは算定期間を通して在籍することになります。そのため、入社月だけを理由に転職先そのものを選び直す必要は、多くの場合ありません。

よくある誤解

「入社直後に支給月が来るから、その月の賞与がもらえる」という理解は、しばしば外れます。支給されるのは算定期間の在籍分であり、入社直後の支給月は算定期間のほとんどに在籍していない状態だからです。

「年俸制なら関係ない」という理解も正確ではありません。年俸を分割して支給する形でも、そのうち賞与相当分に算定期間と支給日在籍の条件が付いている場合があります。年俸制の内訳の見方は年俸制と月給+賞与の違いで整理しています。

「初年度が下がるなら提示額が嘘だった」という受け取り方も、多くの場合は誤解です。提示は通年在籍を前提にした年収で、初年度の按分は別の条件です。問題になるのは、その条件を聞いたときに明確な説明が返ってこない場合のほうです。

入社前に確認する5項目

オファーを受けてから入社日を確定させるまでに、次の5点を確認します。

  1. 賞与の算定期間の開始月・終了月と、支給月
  2. 期の途中で入社した場合、初回賞与が按分されるか対象外か
  3. 支給日在籍要件の有無(現職・転職先の両方)
  4. 入社時一時金や初年度保証の有無と、返還条項の有無
  5. 提示年収のうち、月給に当たる部分と賞与に当たる部分の内訳

いずれも採用担当者に聞ける範囲の質問で、答えられないこと自体が判断材料になります。条件の説明が曖昧なまま入社を急かされる場合は、労働条件通知書の記載で確認したいと伝えてください。

回答を得たら、初年度の見込み額と二年目以降の見込み額を分けて書き出します。前者は入社月で一度だけ動く数字、後者は継続する数字です。オファーを比べるときに効くのは後者のほうで、転職で年収が上がる人と上がらない人の違いで扱った構造の差も、継続する側に効いてきます。

まとめ

  • 初年度の目減りは、賞与の算定期間のうち在籍していない月の分が按分されるために起きる
  • 提示年収は通年在籍を前提にした額で、初回賞与の扱いは別に確認しないと分からない
  • 現職側でも支給日在籍要件で賞与を失うことがあり、退職日と入社日は両方の支給日を見て決める
  • 比較で効くのは初年度の差ではなく、月給ベースに引き直した二年目以降の水準