40代以降で開発から別の職種へ移るとき、提示年収を左右しているのは職種名そのものではありません。実際に効いているのは、移った先で「何年目相当」として扱われるかです。同じ「エンジニアから別職種へ」でも、これまでの実務がそのまま等級の根拠になる移り方と、実質的に経験年数が巻き戻る移り方があり、その差が提示額の大半を作ります。

先に結論を置きます。下げ幅を決めるのは、移る先の職種が現職とどれだけ隣接しているか、企業タイプを同時に変えるかどうか、スキルの水準を選考で示せるか、そして求人側の需給の4つです。職種名は、この4つの結果として求人票に出るラベルにすぎません。

40代の職種転換で年収を決めているもの

結論として、40代の職種転換は「職種を変えたから下がる」のではなく、「年数の説明ができなくなったときに下がる」と考えるほうが実態に近くなります。

理由は評価側の見方にあります。企業が中途の提示額を決めるとき、まず自社の等級のどこに当てはめるかを決め、その等級のレンジの中で金額を置きます。このとき参照されるのは在籍年数の合計ではなく、応募先の仕事で再現できる実績です。職種が変わると、この「再現できる」の説明が急に難しくなり、年数が長いほど落差が大きく見えます。

具体的には、同じ「開発から品質保証へ」でも、担当していた製品のテスト設計をすでに主導していた人と、テストは他部署に任せていた人とでは、提示の根拠がまったく違います。前者は職種名が変わるだけで担当範囲は連続しており、後者は実質的に新しい領域への参入になります。求人票の職種名は同じでも、置かれる等級が変わるのはこのためです。

ただし例外もあります。人数が足りていない領域では、企業側が「入社後に身につける前提」で等級を決めることがあり、その場合は年数が完全には巻き戻りません。この判断は企業ごとに違うため、求人票からは読み取れません。面談で確認する項目として後述します。

経験年数の扱いが変わると推定はどれだけ動くか

年数の扱いが変わったときの影響は、他のどの要素よりも大きくなります。企業タイプ・勤務地・スキルを固定して、経験年数だけを動かすとこうなります。

実務経験推定レンジレンジの図
未経験340〜399万円
1年未満383〜449万円
1〜2年425〜499万円
3〜5年531〜624万円
6〜9年638〜748万円
10年以上723〜848万円
条件:上場・大手/東京/スキルスコア50。公開統計をもとにした推定であり、実際の年収を保証するものではありません。算出方法

上場・大手/東京/スキル中位という条件を固定したまま、「10年以上」として扱われるか「3〜5年」として扱われるかだけで、推定の中央値には 207万円 の差が出ます。一方、「6〜9年」相当に落ち着けば差は 92万円 に縮まります。職種転換で実際に起きるのはこの中間で、どこに着地するかが交渉の焦点になります。

この表の読み方には注意点があります。ここでの年数は在籍年数ではなく、応募先が評価する実務の年数です。同じ15年でも、直近5年が新しい職種と地続きなら「10年以上」の側に残り、まったく別領域なら下の行に近づきます。表は職種転換の結果を予言するものではなく、着地する行を1つ上げる交渉にどれだけの価値があるかを測る物差しとして使うのが適切です。

また、この表は正社員・フルタイムの前提で計算しています。契約形態が変わる場合は別の係数が乗るため、そのままでは比較できません。

職種の隣接度で、年数がどこまで引き継がれるか

どの行に着地するかは、移る先の職種がどれだけ隣接しているかでおおよそ決まります。判断の軸は職種名ではなく、日々の仕事で扱う対象がどれだけ重なるかです。

扱う対象とは、コードベース、運用している基盤、顧客や業務ドメイン、使う言語や道具の4つを指します。このうち何個が引き継がれるかを数えると、等級がどう扱われるかの見当がつきます。4つとも残るなら年数はほぼ引き継がれ、1つも残らないなら実質的に新しい職種の入口に立つことになります。

移り方の例 引き継がれやすいもの 等級の扱われ方
開発から運用・信頼性の領域へ 同じ基盤と同じコードベース 据え置きに近い
開発から品質保証・テスト設計へ 同じ製品と同じドメイン 担当範囲の実績次第
開発からプロジェクト管理へ 同じ顧客と同じ業務ドメイン 管理実績の有無で割れる
業務系の開発からデータ領域へ 同じ業務ドメイン 使う道具は入れ替わる

表のとおり、隣接度が高い移り方ほど等級は動きにくくなります。ただしこの表は傾向であって、個別の求人に当てはめられるものではありません。同じ「運用・信頼性の領域へ」でも、既存基盤の改善が主な会社と、基盤をゼロから作る会社とでは求められる実績が違い、前者では据え置き、後者では巻き戻る、ということが同じ職種名の中で起こります。

隣接度が低い移り方を選ぶ場合は、年収が下がることを前提に、下げ幅を何年で回収するかを先に決めておくほうが判断を誤りません。回収年数の考え方は年収が下がる転職を受けてよい条件で扱っています。

企業タイプを同時に変えると差はさらに開く

職種転換の相談でしばしば見落とされるのが、企業タイプの影響が職種名より大きいという点です。実務10年以上・東京・スキル中位のまま、企業タイプだけを動かすとこうなります。

企業タイプ推定レンジレンジの図
メガベンチャー・外資821〜964万円
上場・大手723〜848万円
中小の受託・SIer624〜733万円
スタートアップ657〜771万円
SES558〜655万円
条件:10年以上/東京/スキルスコア50。公開統計をもとにした推定であり、実際の年収を保証するものではありません。算出方法

上端と下端で 286万円 の開きがあります。これは経験年数を3〜5年相当まで巻き戻されたときの差より大きい値です。つまり、職種を変えても企業タイプが上がるなら提示額は下がらないことがあり、逆に職種は隣接していても企業タイプが下がれば減ります。

この構造は交渉では埋まりません。事業の利益率と商流の深さから来ている差で、応募先の等級レンジの外側にあるためです(企業タイプ別の年収相場)。40代で職種を変えるなら、職種と企業タイプの2つを同時に下げる選択だけは避ける、という優先順位の付け方が現実的です。

注意点として、企業タイプが上がる応募は選考の基準も上がります。職種を変える応募で、同時に企業タイプも上げる組み合わせは通過率が下がりやすく、応募数を確保できないまま時間だけが過ぎることがあります。

スキルの水準で戻せる幅

等級が下がりそうなときに、こちらから動かせる余地が残っているのがスキルの評価です。実務10年以上・上場大手・東京の条件で、スキルの水準だけを変えるとこうなります。

  • スキル下位(スコア30):668〜784万円
  • スキル上位(スコア85):819〜961万円

中央値で 164万円 の差です。年数の扱いが1段下がったときの落差を、スキルの評価で部分的に埋め戻せることを示しています。職種を変える選考では経歴の説明が弱くなるぶん、コードを読む力のようなその場で確かめられる能力の比重が上がります。

もっとも、これは万能ではありません。スキル評価が高くても、応募先が等級ごとの上限を厳格に運用している会社では、レンジの上端で止まります。何が評価されるかはスキルで年収は121万円変わるにまとめています。

求人側の状況を求人倍率で確かめる

自分の条件とは別に、市場側の状況も提示額に効きます。職業安定業務統計では、情報処理・通信技術者の有効求人倍率は 1.39倍(令和8年3月)、新規求人倍率は 2.66倍 でした。全職業の 1.1倍 と比べれば高い水準です。

ただし方向は下を向いています。新規求人数は前年同月比で -16.3%、新規求職件数は 14.6% で、有効求人倍率は前年同月差 -0.22ポイント でした。募集が絞られ、応募者が増えている局面では、企業は経験がそのまま当てはまる応募者を優先します。職種を変える応募は、この局面で最も不利になる応募です。

とはいえ、専門的・技術的職業全体の有効求人倍率は 1.82倍 で、職種の枠を広げれば選択肢が消えるわけではありません。募集が絞られる局面での条件の守り方は求人が減る局面で年収を下げずに転職する条件で扱っています。

40代の平均額をそのまま目標にしない

目標額の根拠に平均値を使うと、たいてい噛み合いません。国税庁の統計では情報通信業の平均給与は40〜44歳で 709万円、45〜49歳で 750万円 ですが、これは職種も企業規模も勤続年数も混ざった値です。同じ年代でも、転職サービスの登録者ベースで見た40代の平均年収は 517万円 で、母集団が違えば数字は大きく動きます。

どちらかが誤っているわけではなく、測っている対象が違います。前者は情報通信業に在籍する給与所得者全体、後者は転職市場に登録している人という違いです。職種を変える人は後者の母集団に近く、さらにその中でも等級が動く応募をしています。

平均を使うなら、目標額の根拠ではなく、自分の提示額が説明可能な範囲に収まっているかの確認に使うのが妥当です。年代別の相場の読み方は40代エンジニアの年収が伸びる人・止まる人にまとめています。

なお、情報通信業の平均年齢は 41.9歳 です。40代は業界の中で少数派ではなく、職種転換の前例がない年代でもありません。

転職で年収が上がる人と下がる人の割合

推定ではなく実績のデータも見ておきます。転職支援サービス経由で2025年9月に転職が決定した人のうち、年収が増加したのは 60.4% でした。

指標 金額
全体の平均変動額 9.5万円
年収が増加した人の平均増加額 73.1万円

全体平均は小さく、上がった人だけを見ると大きく動いています。転職は平均的に少し上がるイベントではなく、上がる人と下がる人に割れるイベントです。この分岐を作っているのが、ここまで見てきた等級の置かれ方と企業タイプの組み合わせです。

この数字は職種を変えた人だけを取り出した集計ではないため、職種転換に限った増加率としては読めません。全体の分布として、下がる側が4割近くあるという事実の確認に留めるのが適切です。

職種を変える前に確認する7項目

面談と選考の場で確認しておくと、着地する等級を事前に把握できます。

  • 募集している職種は社内の何等級にあたり、そのレンジの下端と上端はいくらか
  • 自分の経験年数を、応募先は何年目相当として数えるか
  • 前職の実績のうち、どれを等級の根拠として見ているか
  • 次の等級に上がる要件は何か、最短でいつ評価されるか
  • 入社後の担当範囲は、募集要項のどこからどこまでか
  • 同じ職種の中途入社者が、直近でどの等級に入っているか
  • 未経験領域の学習期間を、評価上どう扱う運用になっているか

7項目のうち最も重要なのは2つ目です。ここで返ってくる答えが、そのまま提示額の根拠になります。曖昧な返答しか得られない場合は、等級の運用自体が固まっていない可能性があり、入社後の昇給も読みにくくなります。確認の進め方はカジュアル面談で年収と等級はどこまで聞けるかを参照してください。

下げ幅を受け入れてよいかの判断手順

下がる提示を受けるかどうかは、感覚ではなく回収の見込みで判断します。

  1. 現年収と提示額の差を年額で出す
  2. 次の等級に上がったときの想定額と、その到達までの年数を確認する
  3. 差額 ÷ 年間の回収見込み額で、回収年数を計算する
  4. 回収年数が自分の残りの就業年数に対して妥当か確かめる
  5. 回収できない場合、年収以外に何を得るのかを言葉にする

40代の判断が20代・30代と違うのは、4番目の制約が効いてくる点です。回収に長い年数がかかる選択は、取れる回数が限られます。5番目まで進んだときに答えが出ないなら、その転職は見送るほうが安全です。

社内で職種を変えるという選択肢

転職を前提にせず、社内で職種を変える経路も検討に値します。社内異動では等級が据え置かれる運用の会社が多く、下げ幅という論点そのものが発生しないためです。

理由は評価の連続性にあります。社内では過去の評価履歴がそのまま残っているため、新しい職種での立ち上がりを待つ余裕が制度上あります。転職では、その待ち時間を企業側が負担する理由がありません。

ただし据え置きが永続するとは限りません。次の評価から新しい職種の基準で見られ、そこで昇給が止まることがあります。異動の前に、等級の扱いと次回評価の基準を確認しておく必要があります。制度の使い方は社内公募・社内異動で年収は上がるかにまとめています。

よくある3つの失敗

最後に、職種を変える転職で提示額を落としやすい進め方を挙げます。

  • 職務経歴書を職種名の羅列で書き、応募先の仕事と重なる実績を前に出していない
  • 年収の希望を先に伝え、等級の話を最後まで確認しないまま提示を受ける
  • 職種と企業タイプと勤務地を同時に変え、どの要素で下がったのか説明できなくなる

3つに共通しているのは、変えた条件が多すぎて原因を特定できなくなっていることです。職種を変える転職では、変える条件を1つに絞るほど提示額の説明がつきやすくなります。書類の書き分け方は職務経歴書で提示年収が変わる理由で扱っています。

まとめ:職種名ではなく等級を見る

40代以降の職種転換で年収を決めているのは、職種名ではなく移った先で置かれる等級です。年数の扱いが1段下がれば推定の中央値で92万円、3段下がれば207万円が動きます。一方で企業タイプの差は286万円あり、職種だけを見て判断すると方向を誤ります。

やることは3つです。移る先の職種との隣接度を扱う対象の重なりで数えること、企業タイプを同時に下げないこと、そして面談で等級の扱いを直接確認することです。ここまで確認したうえで下がる提示であれば、回収年数で判断できます。

自分の条件で推定レンジがどこに来るかは、診断で確かめられます。