エンジニア向けの求人が減っているという話を聞いて、いま動くと年収が下がるのではないかと迷っている人向けの記事です。結論から書くと、求人倍率の低下がそのまま提示年収の低下になるわけではありません。下がるとすれば、求人が減ったからではなく、選考の進め方が変わってしまうからです。

まず、いま実際に何が起きているのかを数字で確かめます。

いまエンジニア向けの求人はどれくらい減っているのか

減っているのは事実です。厚生労働省の職業安定業務統計で、情報処理・通信技術者の新規求人数は前年同月比 -16.3%(令和8年3月) でした。同じ時期に新規求職件数は 14.6% となっており、募集が減る一方で職を探している人は増えています。求人側と求職側が逆方向に動いているため、倍率の低下は両側から進みます。

この結果、情報処理・通信技術者の有効求人倍率は前年同月から -0.22ポイント 動きました。新規求人倍率で見るとさらに大きく下がっています。感覚として「エージェントからの連絡が減った」「同じ求人が長く残っている」と感じているなら、その体感は統計とずれていません。

ただしこの統計は、ハローワークに出された求人だけを集計したものです。エンジニアの中途採用は転職エージェントや自社の採用ページを経由する比率が高く、母集団としては市場の一部にあたります。方向を見る指標としては有効ですが、水準そのものを自分の転職可否の判定に使うことはできません。

求人倍率1.39倍は、それでも全職業より高い

下がったあとの水準を確かめると、見え方が変わります。

区分 有効求人倍率
情報処理・通信技術者 1.39倍
専門的・技術的職業従事者 1.82倍
全職業 1.1倍

情報処理・通信技術者は1.39倍で、全職業の水準を上回っています。新規求人倍率は 2.66倍 で、こちらはさらに高い値です。つまり局面としては悪化していますが、求職者1人あたりの募集数という意味では、依然として求人が求職を上回っている状態にあります。

表の読み方には注意が必要です。有効求人倍率は、その月に有効な求人件数を有効求職者数で割った比率にすぎず、求人の中身や提示年収の水準はいっさい反映されていません。倍率が1倍を超えていても、自分の経験年数や技術領域に合う募集が同じ比率で存在しているとは限りません。逆に倍率が下がっても、特定の領域だけは採用が続いていることもあります。区分が「情報処理・通信技術者」という粗い単位である以上、この表は市場全体の向きを見るためのものだと割り切ってください。

「求人が減る」と「年収が下がる」は別々に起きる

求人が減ると年収も下がる、と直結させて考える必要はありません。募集数と提示年収は決まり方が違うためです。募集数は各社の採用計画と業績見通しで決まりますが、提示年収は応募先の給与テーブルと、その中で応募者がどの等級に置かれるかで決まります。採用の枠が減っても、枠に入った人へ提示される等級のレンジが自動的に下がるわけではありません。

実際、賃金の側は別の動きをしています。情報通信業で1人平均賃金を引き上げた企業の割合は 97.4% で、改定率は 3.9%(令和7年(2025年)) でした。求人が減っている時期でも、在籍者の賃金は引き上げられています。採用を絞ることと、払う金額を下げることは、企業にとって別の意思決定です。

では何が起きるのか。求人が減る局面で実際に変わるのは、選ばれる幅です。1つの募集に対する応募者が増えるため、選考の通過率が下がり、内定までの期間が延びます。その結果、提示を並べて比べる余裕がなくなり、最初に出た1社を受けるしかない状態に追い込まれやすくなります。年収が下がるとすれば、多くはこの経路です。

条件1:現年収の内訳を先に確定させる

年収を下げないと決めるなら、最初にやるのは求人探しではなく、守るべき金額の確定です。ここが曖昧なまま応募すると、提示総額が現年収を上回っているという理由だけで受け入れてしまい、実際には所定内の給与が下がっていた、という事故が起きます。

分けるべきなのは、確定している部分と変動する部分です。基本給と固定手当は確定していますが、賞与と評価連動の一時金は業績で動きます。さらに、現職の年収にみなし残業が含まれている場合は、その時間数と金額を切り出す必要があります。みなし残業45時間を含む年収と、残業代が別途支給される年収を同じ土俵で比べると、時給ベースでは大きく差が出ます。換算の手順はみなし残業を実質時給に換算する方法にまとめています。

守る金額を決めるときは、総額ではなく確定部分で線を引いてください。提示側も同じ構造で年収を作っているため、確定部分どうしを比べるほうが会話が噛み合います。この線が決まっていれば、選考が長引いても判断基準が揺れません。

条件2:応募先の構造を落とさない

同じ経験年数でも、応募先の企業タイプが変わるだけで推定レンジは大きく動きます。実務3〜5年・東京勤務・スキル中位という条件を固定し、企業タイプだけを変えるとこうなります。

企業タイプ推定レンジレンジの図
メガベンチャー・外資604〜709万円
上場・大手531〜624万円
中小の受託・SIer459〜539万円
スタートアップ483〜567万円
SES411〜482万円
条件:3〜5年/東京/スキルスコア50。公開統計をもとにした推定であり、実際の年収を保証するものではありません。算出方法

上端と下端の差は、交渉で埋められる幅を超えています。求人が減る局面で年収が下がる人の多くは、この構造を一段下げる形で応募先を広げています。募集が少ないから条件を緩める、という判断自体は自然ですが、緩める対象を企業タイプにすると、下がった年収は次の転職まで戻りません。背景にある事業の利益率と商流の考え方は企業タイプ別の年収相場で扱っています。

緩めるなら、年収に効かない軸から緩めるのが原則です。勤務地の要件、業界の好み、開発言語のこだわり、企業の知名度あたりは、譲っても提示年収の構造は変わりません。逆に、企業タイプと商流の深さは最後まで守る対象です。募集が減っている時期こそ、応募数を増やす前に、どの軸を落とすかを決めてください。

条件3:直近で稼働できる経験を前に出す

応募者が増える局面では、書類の読まれ方が変わります。採用側は同時に多くの候補を見ることになるため、入社後すぐ担当できる範囲が読み取れるかどうかで選別が進みます。将来の伸びしろよりも、いま欠けている役割を埋められるかが優先されるということです。

具体的には、担当した工程の広さより、直近1〜2年で自分が意思決定した範囲を前に置きます。設計をどこまで決めたのか、障害対応で何を判断したのか、レビューで何を差し戻したのか。担当した機能名を並べるより、判断した内容のほうが等級の判定材料になります。書き分けの型は職務経歴書で提示年収が変わる理由に整理しています。

注意点として、この局面では応募先を絞るほど書類の精度が要求されます。同じ書類を広く出す方針は、通過率がさらに下がるだけでなく、面接での説明も浅くなります。件数を増やす方向ではなく、1件あたりの説明の密度を上げる方向に寄せてください。

条件4:比較できる提示を2つ以上つくる

年収を下げずに決める人と、下げて決める人の分かれ目は、提示を並べられたかどうかにほぼ集約されます。実績データを見ると、転職で年収が増加した人の割合は 60.4% でした。増えた人と増えなかった人に割れており、平均だけを見ても実態は分かりません。

指標 金額
全体の平均変動額 9.5万円
年収が増加した人の平均増加額 73.1万円

全体では小さく動き、上がった人だけを見ると大きく動いています。転職は平均して少し上がるイベントではなく、上がる人と上がらない人に割れるイベントです(転職で年収が上がる人と上がらない人の違い)。求人が減る局面では、この分岐のうち「上がらない側」に入る確率が高まります。応募数ではなく、選考時期をそろえて提示を重ねられるかどうかで結果が変わります。

そのためには、応募開始の時点で選考の進み方を設計しておく必要があります。書類の提出時期を1〜2週間の幅に収め、一次面接の日程を近づけると、内定の時期が重なりやすくなります。提示が1社しかない状態では、根拠として使えるのは条件を揃えた市場レンジだけになり、動く幅は小さくなります(年収交渉で通る根拠)。

条件5:在職のまま進め、判断期限を自分で決める

求人が減っている時期に先に退職すると、交渉の前提が崩れます。無職期間が延びるほど、提示を断る選択肢が実質的に消えるためです。この局面では、選考期間が延びることを織り込んで、在職のまま進めるほうが安全です。

同時に、期限を自分で決めておきます。決めていないと、応募を続けること自体が目的化し、条件を少しずつ下げながら長期化します。たとえば「3か月動いて、確定部分で現年収を超える提示が出なければいったん止める」といった形で、金額と期間の両方に線を引いてください。止めると決めた場合も失敗ではなく、在籍したまま等級を上げる方針へ切り替えるだけです。

判断期限には、現職側の予定も入れます。評価の確定時期、昇格の発表時期、賞与の支給月がいつかによって、動くべき時期は変わります。定期昇給で伸びる幅と転職で動く幅を比べる考え方は定期昇給と転職の分岐点にまとめています。

求人が減る局面で年収が下がりやすい3つの型

同じ市場環境でも、下がる人には共通する進め方があります。原因を型で押さえておくと、自分がどこに近いか判断しやすくなります。

1つ目は、応募先の企業タイプを段階的に下げていく型です。通過しないことを実力の問題だと解釈し、応募先の商流を深い側へずらしていきます。通過率は確かに上がりますが、提示レンジも一緒に下がります。通らない原因が書類の書き方にある場合でも、この型では原因が特定されないまま条件だけが落ちていきます。

2つ目は、希望年収を先に下げる型です。書類の段階で希望額を下げると、その金額が提示の基準になります。採用側は希望額を上回る提示を出す動機を持たないため、下げた分はそのまま最終条件に反映されます。通過率を上げたいなら、金額ではなく応募先の選び方を変えるほうが効きます。

3つ目は、1社だけを進めて期限に追われる型です。提示が出た時点で他社の選考が始まっていないと、比較対象がないまま返答期限を迎えます。この状態では条件を確認する会話はできても、動かす会話にはなりません。求人が減る局面では選考期間が延びるため、意識して重ねないとこの型に落ちます。

待つほうが有利なケース、待つと不利になるケース

局面が悪いときに動かないという判断は、常に正しいわけでも常に誤りでもありません。分かれ目は、在籍を続けたときに年収が伸びる余地が残っているかどうかです。

待つほうが有利なのは、次の等級の要件が明示されていて、それを満たす見通しが立っている場合です。昇格が具体的に射程に入っているなら、市場が回復する時期まで在籍したほうが、動いたときの提示も上がります。評価制度が運用されていて、賃金改定も行われている会社であれば、待機期間は無駄になりません。

不利になるのは、等級の上限に達している場合、事業が縮小して原資そのものが減っている場合、評価基準が示されず昇格の条件が説明されない場合です。これらの状況では、待っても伸びる仕組みがないため、市場の回復を待つ間に経験年数だけが増えます。経験年数が増えても年収が止まる構造は経験年数だけ増えて年収が止まる型で扱っています。

なお、IT人材の需給については経済産業省が中長期の推計を出しており、2030年に不足する人材は最大で 79万人 と試算されています。ただしこれは推計であり、目先の採用計画を保証するものではありません。長期の方向と当年の局面は別のものとして扱ってください。

応募前に確認する7項目

動くと決めた場合に、応募前の時点でそろえておく項目です。

  • 現年収のうち、基本給と固定手当で確定している金額
  • みなし残業の時間数と、それに相当する金額
  • 賞与の算定期間と、入社初年度に対象となる範囲
  • 応募先の企業タイプと、商流上の位置
  • 求人票の年収レンジのうち、自分が入る等級と根拠
  • 選考の開始時期をそろえた応募先の組み合わせ
  • 判断を止める期限と、そのときに切り替える方針

求人票のレンジの読み方は求人票の年収レンジを読む確認点に詳しく書いています。レンジの上端は既存社員の上位等級を含んでいることが多く、応募時点の等級とは一致しません。提示前にどの等級を想定しているかを確認しておくと、内定後の会話が具体的になります。

この記事の数字が使えないケース

ここまでの数字には、それぞれ適用の限界があります。有効求人倍率はハローワーク経由の求人と求職者だけを集計した値で、エージェント経由や自社採用サイト経由の募集は含まれていません。したがって「情報処理・通信技術者」の倍率が下がっていても、自分が応募する経路での募集がその比率で減っているとは限りません。

転職前後の年収変動のデータも、特定のエージェントを利用して転職が決定した人の集計です。利用者の年齢構成や職種構成には偏りがあり、全転職者の平均ではありません。増加した人の平均増加額は、増えた人だけを取り出した値なので、自分が同じ幅で動くと期待する根拠にはなりません。

企業タイプ別のレンジは、当サイトが公開している推定モデルによる値で、実在企業の提示額ではありません。同じ企業タイプの中にも幅があり、事業内容や担当領域によって上下します。使い方としては、応募先を比べるときの相対的な位置づけを見るためのもので、特定の1社の提示額を予測するものではありません。

最後に、年収の判断には税や社会保険の扱いが絡むことがあります。給与以外の報酬が含まれる場合や、副業と合わせて考える場合の税務上の扱いは個別性が高いため、必要に応じて税理士に確認してください。

まとめ

  • 情報処理・通信技術者の求人は減っているが、有効求人倍率は全職業の水準を上回っている。求人倍率は募集と求職の比であり、提示年収の水準を示す指標ではない
  • 求人が減る局面で実際に失われるのは提示額ではなく、比較できる他社提示という交渉材料。年収が下がるとすれば、多くは進め方が原因になる
  • 守るのは確定部分の金額と応募先の企業タイプ。緩めるなら勤務地や業界など、提示年収の構造に効かない軸から緩める
  • 在籍したまま昇格の要件を満たせる見通しがあるなら待つ判断に合理性がある。等級の上限に達している場合は、待っても伸びる仕組みがない