エンジニアから管理職になったものの、技術の仕事に戻りたいと考える人は少なくありません。そのとき気になるのが、管理職から現場のエンジニアに戻ったら年収がどうなるかです。結論から言うと、管理職から現場に戻るときの年収は、役職手当がなくなる額、残業代が戻る額、等級が専門職の等級に移るか降格扱いになるかの3つで決まります。この3つは会社の人事制度によって大きく違い、制度を確認しないまま申し出ると、想定より年収が下がることがあります。

管理職に昇進するときの年収の見方は管理職への昇進でエンジニアの年収は下がるかで、テックリードとマネージャーのどちらを選ぶかはテックリードとマネージャーはどちらが高年収かで扱っています。この記事は、すでに管理職になった人が現場のエンジニアに戻る場合に絞って、年収を決める3つの要素、人事制度による違い、社内で戻る場合と転職で戻る場合の違い、申し出る前に確認する5項目を整理します。

結論:年収は「手当・残業代・等級」の3つで決まる

管理職から現場に戻るときの年収は、役職手当、残業代、等級の3つを分けて見ると、どれだけ変わるかを見積もれます。額面の年収だけを比べると、どの部分で下がり、どの部分で戻るのかが分かりません。

理由は、この3つがそれぞれ違う方向に動くからです。役職手当は、管理職から外れればなくなります。残業代は、管理職として残業代の対象から外れていた場合、現場に戻れば対象に戻り、残業の分が支払われるようになります。等級は、会社の制度によって、同じ水準の専門職の等級に移るか、管理職の等級から外れて下の等級になるかが分かれます。

要素 現場に戻ったときの動き 確認すること
役職手当 なくなる 月額と、賞与の計算に入っていたか
残業代 対象に戻れば支払われる 戻った後の想定の残業時間
等級と基本給 専門職の等級に移るか、下がるか 人事制度に専門職の等級があるか

この表の読み方で大切なのは、役職手当の減少を残業代で埋められるかどうかと、等級が保たれるかどうかを分けて考えることです。役職手当の減少は、残業の多い職場では残業代でかなり埋まることがあります。一方で、等級が下がって基本給が下がると、残業代では埋めにくく、賞与や退職金にも影響します。

具体例として、同じ管理職の2人が現場に戻る場合を考えます。1人の会社には専門職の等級があり、同じ段階の専門職の等級に移れました。役職手当はなくなりましたが、残業代が戻り、年収はあまり変わりませんでした。もう1人の会社には専門職の等級がなく、管理職の等級から外れて一つ下の等級になりました。基本給が下がり、役職手当もなくなり、残業代では埋めきれずに年収が下がりました。

役職手当がなくなる額を確かめる

最初に確認するのは、役職手当の月額と、それが賞与の計算に入っていたかです。役職手当がなくなる額が、現場に戻ったときの年収の減少の出発点になります。

理由は、役職手当が管理職という役割に対して支払われるもので、役割から外れれば支払われなくなるからです。月額を12倍した額が年収から減りますが、役職手当が賞与の計算に入っていた会社では、賞与の減少の分も加わります。

具体的には、給与明細で役職手当の月額を確認し、賃金規程で賞与の計算に役職手当が入っているかを確認します。賞与を基本給の何か月分という形で決める会社では、役職手当は入らないことが多いですが、基本給と役職手当を合わせた額を基礎にする会社もあります。手当と賞与の関係は資格手当・技術手当は年収の何割かでも整理しています。

注意点として、管理職になったときに、役職手当の代わりに基本給が上がる形で処遇が変わった会社もあります。この場合は、役職手当ではなく、基本給がどう扱われるかが焦点になります。自分の給与明細で、管理職になったときにどの項目が変わったかを確認してください。

残業代が戻る額を見積もる

次に見積もるのは、現場に戻ったときに支払われるようになる残業代です。管理職として残業代の対象から外れていた場合、戻れば対象に戻ります。

理由は、多くの会社で、一定以上の立場の管理職を、労働時間の規定の一部が適用されない立場として扱い、残業代の対象から外しているからです。現場のエンジニアに戻れば、通常の労働時間の規定が適用され、所定の時間を超えて働いた分に残業代が支払われます。ただし、深夜の時間帯の割増など、立場によって扱いが残る部分もあります。

具体的には、戻った後の想定の残業時間と、戻った後の基本給から計算される残業の単価を掛けて、年間の残業代を見積もります。チームや案件によって残業時間は変わるため、戻る予定のチームの直近の平均の残業時間を聞くと、見積もりの精度が上がります。

比べる基準として、厚生労働省の調査では、情報通信業の週所定労働時間は 39時間02分 です。所定の時間を超えて働く分が残業代の対象になるため、戻る予定のチームで、この所定の時間をどれだけ超えて働いているかを確かめてください。

注意点として、残業代で年収の減少を埋めることは、労働時間が長くなることを意味します。額面の年収が保てても、時間あたりの水準では下がることがあるため、年間の労働時間で割った実質時給でも比べてください。時間あたりでの比べ方は年間労働時間で年収を比べる方法で整理しています。

等級は人事制度の型で扱いが変わる

年収への影響が最も大きいのは、等級がどう扱われるかです。会社の人事制度が、管理職と専門職の2つの昇進の道を用意しているか、管理職の道だけかで、扱いが大きく変わります。

理由は、等級が基本給の水準を決め、基本給が賞与、残業代の単価、退職金の計算の基礎になるからです。等級が保たれれば、役職手当がなくなっても、年収の大部分は保たれます。等級が下がれば、基本給が下がり、その影響がほかの項目にも広がります。

人事制度には、大きく2つの型があります。1つは、管理職と専門職の2つの昇進の道を用意する複線型です。この型では、管理職の等級と同じ段階の専門職の等級があり、管理職から専門職へ移るときに、等級の段階を保てることがあります。もう1つは、管理職の道だけを用意する単線型です。この型では、上の等級に進むには管理職になる必要があり、管理職から外れると、管理職になる前の等級に戻ることがあります。

具体的には、人事制度の資料や等級の定義を見て、専門職の等級があるか、管理職の等級と専門職の等級がどう対応しているかを確認します。等級の仕組みの読み方は等級・グレード制度と昇格の条件で整理しています。

注意点として、複線型の制度があっても、専門職の上位の等級に求められる役割が高く設定されていて、実際には管理職の等級と同じ段階の専門職の等級に移れないこともあります。制度の資料だけでなく、実際に管理職から専門職に移った人の例があるかを確認してください。

経験年数の段階と、戻った後の年収の位置

管理職から現場に戻るときは、戻った後の年収が、経験年数に見合った水準にあるかを確かめます。等級が下がっても、経験年数の水準を大きく下回らなければ、今後の昇給で取り戻せることがあります。

経験年数による年収の違いは、診断モデルの推定で見ると次のようになります。上場・大手、東京勤務、スキル中位の条件です。

実務経験推定レンジレンジの図
未経験340〜399万円
1年未満383〜449万円
1〜2年425〜499万円
3〜5年531〜624万円
6〜9年638〜748万円
10年以上723〜848万円
条件:上場・大手/東京/スキルスコア50。公開統計をもとにした推定であり、実際の年収を保証するものではありません。算出方法

この表は管理職と現場のエンジニアを区別していない推定です。表の読み方として、管理職から現場に戻った後の年収が、自分の経験年数の段階の水準に近いかを確かめると、戻った後の位置づけが分かります。この水準を大きく下回る場合は、社内の等級の扱いが厳しいか、会社の水準そのものが低い可能性があり、転職で専門職の等級に応募する選択肢も検討する価値があります。表はモデルによる推定で、個別の会社の提示額ではありません。

スキルの水準による違いも見ておきます。実務10年以上、上場・大手、東京勤務の条件で、スキル中位は 723〜848万円、スキル上位は 819〜961万円 です。現場に戻った後の年収は、技術の力でこの幅のどこに位置するかによっても変わります。

社内で戻る場合の年収の決まり方

社内で現場のエンジニアに戻る場合、年収は会社の人事制度と、戻る時期の決め方で決まります。社内の異動なので、転職のような提示年収の交渉はしにくい一方、制度に沿って扱いが決まる分、見通しは立てやすくなります。

理由は、社内の異動では、等級や基本給の扱いが、人事制度の規定に沿って決まるからです。複線型の制度であれば、専門職の等級への移動として扱われ、単線型の制度であれば、管理職の等級から外れる手続きとして扱われます。個別に交渉する余地は、転職に比べて小さくなります。

具体的には、戻る時期を、評価の期間や等級の見直しの時期に合わせると、扱いが明確になりやすくなります。評価の期間の途中で戻ると、管理職としての評価と、現場のエンジニアとしての評価のどちらで賞与や昇給が決まるのかがあいまいになることがあります。上司や人事に相談するときは、戻る時期と、その時期の評価の扱いを合わせて確認してください。社内異動の考え方は社内公募・社内異動で年収を上げられる条件で整理しています。

注意点として、管理職を降りることを申し出る理由の伝え方によって、その後の評価や配置が変わることがあります。技術の仕事でより大きく貢献したいという前向きな理由と、今後のキャリアの考えを伝えると、専門職としての役割を用意してもらいやすくなります。

転職で戻る場合の年収の決まり方

転職で現場のエンジニアに戻る場合、年収は応募先で専門職としてどの等級に評価されるかで決まります。管理職の経験が、専門職の等級の判定でどう評価されるかが焦点になります。

理由は、応募先が、管理職の経験より、専門職として担える役割を見て等級を判定するからです。管理職の期間に実装から離れていると、技術の実務の力が経験年数ほどには評価されず、下の等級で提示されることがあります。反対に、管理職の期間にも技術の判断に関わっていれば、上位の専門職の等級で評価されることがあります。

具体的には、応募するときに、管理職の経験を、専門職の役割で評価される言葉に置き換えて説明します。チームの開発の進め方を整えた経験、技術選定の判断をまとめた経験、採用の技術面接を担った経験などは、テックリードや上位の専門職の役割で評価されやすくなります。技術選定の経験の評価は技術選定・アーキテクチャの責任と年収で扱っています。

転職全体の傾向として、転職で年収が増えた人の割合は 60.4%、増えた人の平均増加額は 73.1万円 でした。ただしこれは役割を変えない転職も含めた全体の傾向で、管理職から専門職に戻る転職では、応募先での等級の判定によって結果が大きく変わります。

注意点として、管理職の年収を基準にして提示を求めると、応募先の専門職の等級の幅と合わず、話がかみ合わないことがあります。現年収を伝えるときは、基本給、役職手当、賞与を分けて説明してください。現年収の伝え方はエンジニアの転職で現年収をどう申告するかで整理しています。

技術の実務の感覚を取り戻す期間を見込む

管理職の期間に実装から離れていた場合は、技術の実務の感覚を取り戻す期間を見込んでおきます。この期間の成果の出方が、戻った後の評価と昇給に影響します。

理由は、技術の道具や開発の進め方が、数年で大きく変わることがあるからです。管理職として判断やチームの運営に時間を使っている間に、新しいフレームワークや開発の道具が広まっていると、戻った直後は、以前と同じ速さで成果を出せないことがあります。

具体的には、戻る前から、チームのコードのレビューに参加する、小さな機能の実装を担当する、新しい技術を個人で試すといった準備をしておくと、戻った後の立ち上がりが早くなります。戻った直後は、大きな機能をいきなり担当するより、チームのコードと開発の進め方に慣れる期間を上司と合意しておくと、評価のずれを防げます。

注意点として、管理職の経験があることで、戻った後に周囲から期待される水準が高くなることがあります。技術の実務の感覚を取り戻すまでの期間と、その間に期待される役割を、上司と事前に話しておくと、評価への影響を小さくできます。

管理職の経験を専門職の評価につなげる

管理職の経験は、現場に戻った後も、上位の専門職の役割として評価につなげられます。管理職の期間を空白ではなく、専門職の力を広げた期間として説明できるかがポイントです。

理由は、上位の専門職に求められる役割の中に、チームの技術の方針を決める、関係部署と調整して判断を進める、若手の技術の成長を支えるといった、管理職の経験と重なる部分があるからです。技術の深さに加えて、組織の中で判断を進める力を持っていることは、専門職としての評価を高めます。

具体的には、管理職として担った仕事のうち、技術の判断に関わったもの、チームの開発の進め方を改善したもの、採用や育成で技術の基準を作ったものを、専門職の評価の言葉で書き出しておきます。自己評価の書き方は人事評価の自己評価シートを昇給につなげる書き方で整理しています。

注意点として、管理職の経験を強調しすぎると、「また管理職に戻りたいのではないか」と受け取られることがあります。専門職として何に貢献したいのかを中心に説明し、管理職の経験はそれを支える力として位置づけてください。

申し出る前に確認する5項目

管理職から現場のエンジニアに戻ることを考えているときは、申し出る前に次の5項目を確認します。

  1. 役職手当の月額と、賞与の計算に入っているか
  2. 戻った後の想定の残業時間と、残業代の見込み
  3. 人事制度に専門職の等級があるか、管理職の等級とどう対応しているか
  4. 戻る時期と、その時期の評価と賞与の扱い
  5. 実際に管理職から専門職に移った人の例と、そのときの年収の扱い

いずれも、給与明細、賃金規程、人事制度の資料、人事への相談で確認できる項目です。特に3番目と5番目は、等級の扱いを決める要素なので、制度の資料と実際の例の両方で確かめてください。確認した結果、社内で戻ると年収が大きく下がる場合は、転職で専門職の等級に応募する場合と比べてから判断します。

よくある誤解

「管理職を降りると必ず年収が大きく下がる」という見方は、会社の制度によっては当てはまりません。複線型の制度で専門職の等級に移れれば、役職手当がなくなっても、残業代が戻ることで年収があまり変わらないこともあります。

「残業代が戻るから年収は変わらない」という見方も、等級が下がる場合は成り立ちません。基本給が下がると、残業代の単価も下がり、賞与や退職金にも影響します。

「一度管理職を降りると評価が下がり続ける」という見方も一面的です。専門職として実績を積めば、上位の専門職の等級に昇格することもあり、管理職の経験がその評価を支えることもあります。

まとめ

  • 管理職から現場に戻るときの年収は、役職手当、残業代、等級の3つで決まる
  • 役職手当の減少は残業代でかなり埋まることがあるが、等級が下がると埋めにくい
  • 複線型の人事制度なら、同じ段階の専門職の等級に移れることがある
  • 社内で戻る場合は制度に沿って決まり、転職で戻る場合は応募先の等級の判定で決まる
  • 管理職の経験は、上位の専門職の役割として説明すると評価につながる