エンジニアとして経験を積むと、ITコンサルタントへの転向を考えることがあります。「ITコンサルタントのほうが年収が高い」という話を聞いて、本当にそうなのか、転向すれば年収が上がるのかを知りたい人は少なくありません。結論から言うと、ITコンサルタントの年収がエンジニアより高く見えるのは、職種名そのものより、職位ごとの報酬の幅、評価される成果、労働時間の違いによるところが大きいです。職種を変えるだけで年収が上がるわけではなく、どの職位で採用されるか、時間あたりでどうかを見ないと、転向の判断を誤ります。
この記事は、ITコンサルタントへの転向を考えているエンジニア、またはITコンサルタントの求人と開発職の求人を比べているエンジニア向けに、年収の決まり方の4つの違い、時間あたりでの比べ方、転向で年収が下がる条件、判断の手順を整理します。プロジェクトマネージャーの年収はITプロジェクトマネージャーの年収相場、プロダクトマネージャーとの比較はプロダクトマネージャーとエンジニアの年収比較で扱っています。
結論:職種名より「職位」と「時間」で比べる
ITコンサルタントとエンジニアの年収を比べるときは、職種名の平均ではなく、どの職位で採用されるかと、時間あたりの水準で比べます。この2つを見ないと、転向したときの年収を正しく見積もれません。
理由は、ITコンサルタントの年収が、職位ごとに決まった報酬の幅の中で決まることが多いからです。同じ会社のITコンサルタントでも、職位が一つ違うだけで年収が大きく変わります。エンジニアから転向する場合、前職の経験がどの職位として評価されるかによって、入社時の年収が決まります。
具体例として、同じ経験年数のエンジニアが2人、ITコンサルタントに転向したとします。1人は要件定義や技術選定、顧客との調整の経験を具体的に説明でき、経験年数に見合った職位で採用されました。もう1人は実装の経験が中心で、提案や資料作成の経験が少なく、一つ下の職位で採用されました。同じ会社、同じ職種でも、入社時の年収には大きな差がつきます。
例外は、ITコンサルタントの中でも技術の専門性を重く評価する職種です。特定の技術領域の専門家として採用される場合は、実装の経験そのものが評価の中心になり、職位の判定も技術の深さで決まりやすくなります。
違い1:年収の上がり方は職位の昇格で決まる
ITコンサルタントの年収は、毎年の昇給より、職位の昇格によって大きく上がる設計になっていることが多くあります。エンジニアの年収が、等級の中での昇給と、ときどきの昇格で少しずつ上がるのとは、上がり方の形が違います。
理由は、コンサルティングの会社の多くが、職位ごとに報酬の幅を決め、職位が上がると報酬の幅そのものが上の段に移る設計にしているからです。職位の中での昇給の幅は小さく、昇格したときに大きく上がります。反対に、昇格が止まると、年収も伸びにくくなります。
具体的には、昇格の基準として、担当できる案件の規模、顧客との関係を任される範囲、後輩の育成、新しい案件の獲得への貢献などが求められます。昇格の時期がおおむね決まっている会社では、昇格できないと在籍しにくくなる運用をしていることもあります。昇格による年収の上がり方と、昇格できなかったときの扱いの両方を確認しておくことが大切です。等級と昇格の考え方は等級・グレード制度と昇格の条件で整理しています。
注意点として、エンジニアの会社にも、職位の昇格で大きく年収が上がる設計の会社はあります。職種の違いというより、会社の報酬の設計の違いとして見ると、比べやすくなります。
違い2:評価される成果が「顧客の意思決定」になる
ITコンサルタントの評価は、自分が作ったものより、顧客の意思決定と結果にどれだけ貢献したかで決まります。エンジニアが、動くものを作ったこと、品質を保ったことで評価されるのとは、成果の単位が違います。
理由は、コンサルティングの仕事が、顧客の判断を支えることに対して報酬を受け取る仕事だからです。調査、分析、提案、合意形成のどれも、最終的には顧客が良い判断をするための材料になります。成果物は資料や計画書の形になることが多く、それ自体より、その資料を使って顧客が何を決め、何が変わったかが問われます。
具体的には、エンジニアとして技術選定をした経験を、コンサルタントの評価の言葉に置き換えると、「複数の選択肢を比べる基準を作り、関係者が合意できる形で提案し、その判断の結果として開発の速さや運用の費用がどう変わったか」になります。この置き換えができると、転向の選考で経験を評価してもらいやすくなります。技術選定の経験の評価は技術選定・アーキテクチャの責任と年収で扱っています。
注意点として、評価の単位が顧客の結果になると、自分だけでは結果をコントロールできない部分が増えます。同じ努力をしても、顧客の状況や案件の条件によって評価が変わることがあり、年収の安定性という面では、エンジニアの評価より変動が大きくなることがあります。
違い3:稼働とアサインで評価と年収が動く
コンサルティングの会社では、**案件にアサインされている時間の割合(稼働率)**が、個人の評価や会社の業績に関わることがあります。エンジニアの会社で、自社の製品の開発に継続して関わる働き方とは、仕事の入り方が違います。
理由は、コンサルティングの会社の売上が、コンサルタントが顧客の案件に関わった時間や案件の契約で決まるからです。案件にアサインされていない期間が長いと、会社の売上につながらず、個人の評価にも影響することがあります。
具体的には、大きな案件が終わった後、次の案件が決まるまでの期間に、社内の業務や提案の準備をすることになります。この期間が長く続くと、評価や賞与に影響する会社もあります。反対に、顧客からの指名で継続して案件に入れる人は、評価が安定しやすくなります。面接では、アサインの決まり方と、案件の間の期間の扱いを確認しておくと、入社後の働き方を想像しやすくなります。
注意点として、SIerの受託開発でも、案件ごとにアサインが決まる働き方は珍しくありません。SIerからの転向であれば、この働き方の違いは小さく感じるかもしれません。自社の製品を開発している会社からの転向では、違いが大きく感じられます。
違い4:労働時間の波で時間あたりの水準が変わる
ITコンサルタントの年収を比べるときは、額面の年収だけでなく、時間あたりの水準で比べます。額面の年収が高くても、労働時間が長ければ、時間あたりではエンジニアとの差が縮まることがあります。
理由は、コンサルティングの仕事が、顧客への提出の期限に合わせて進むことが多く、期限の前に労働時間が長くなりやすいからです。職場によって働き方の管理の仕方は大きく違いますが、案件の状況によって労働時間に波がある点は、多くの職場に共通します。
比べる基準として、厚生労働省の調査では、情報通信業の週所定労働時間は 39時間02分、労働者1人平均の年間休日総数は 116.6日 です。この所定の時間に、実際の残業の時間を加えた年間の労働時間で年収を割ると、時間あたりの水準が出ます。面接では、直近の平均の残業時間と、繁忙期の働き方を具体的に聞いて、見積もりに使ってください。時間あたりでの比べ方は年間労働時間で年収を比べる方法で詳しく整理しています。
注意点として、職位が上がって管理職の扱いになると、残業代の対象から外れることがあります。額面の年収が上がっても、労働時間が長いと、時間あたりの水準はそれほど上がらないことがあります。管理職の扱いについては管理職への昇進で残業代がなくなるときの年収の見方で整理しています。
年収の水準は会社の種類で大きく変わる
ITコンサルタントの年収も、エンジニアと同じように、会社の種類によって水準が大きく変わります。職種名で比べるより、どの種類の会社で働くかで比べたほうが、差の中身が分かります。
エンジニアの年収が会社の種類でどれだけ変わるかは、診断モデルの推定で見ると次のようになります。実務6〜9年、東京勤務、スキル中位の条件です。
| 企業タイプ | 推定レンジ | レンジの図 |
|---|---|---|
| メガベンチャー・外資 | 725〜851万円 | |
| 上場・大手 | 638〜748万円 | |
| 中小の受託・SIer | 551〜646万円 | |
| スタートアップ | 580〜680万円 | |
| SES | 493〜578万円 |
この表はエンジニアの年収の推定で、ITコンサルタントの年収を示したものではありません。表の読み方として、エンジニアのままでも、会社の種類を変えるだけで年収の水準は大きく変わることが分かります。ITコンサルタントへの転向で年収を上げたいと考えている場合、その上がり幅が、エンジニアのまま会社の種類を変えた場合の上がり幅より大きいかを比べてください。個別の会社の提示額ではなくモデルによる推定なので、実際の比較では手元の提示額を使ってください。
注意点として、ITコンサルタントの会社にも、大手のコンサルティング会社、SIerのコンサルティング部門、特定の製品の導入を支援する会社など、いくつかの種類があり、報酬の設計が違います。会社の種類による違いの背景は企業タイプ別のエンジニア年収相場で整理しています。
エンジニアから転向して年収が下がる条件
エンジニアからITコンサルタントに転向して、年収が下がるのは、経験年数より下の職位で採用されたときです。転向の選考で、前職の経験がどう評価されるかが、入社時の年収を決めます。
理由は、ITコンサルタントの職位の判定が、技術の経験年数ではなく、コンサルタントとして求められるスキルの経験で行われることが多いからです。実装の経験が長くても、顧客への提案や、関係者の合意を取りながら進める経験が少ないと、コンサルタントとしての経験は浅いと見られ、下の職位で採用されることがあります。
具体的には、次のような条件がそろうと、年収が下がりやすくなります。前職の仕事が実装とテストが中心で、要件定義や顧客との調整の経験が少ない場合、資料を作って意思決定者に説明した経験がない場合、担当した案件の目的や成果を、顧客の事業の言葉で説明できない場合です。反対に、要件定義や技術選定、顧客との調整の経験があれば、同じ経験年数に見合った職位で採用される可能性が高くなります。
注意点として、一時的に年収が下がっても、昇格の速さによっては数年で元の水準を上回ることもあります。下がる幅と、元の水準に戻るまでの年数を見積もってから判断してください。年収が下がる転職の考え方は年収が下がる転職を受けてよい条件で扱っています。
エンジニアの経験をコンサルタントの言葉に置き換える
転向の選考で経験を評価してもらうには、エンジニアとしての経験を、顧客の課題と意思決定の言葉に置き換えて説明することが大切です。同じ経験でも、説明の仕方によって評価される職位が変わります。
理由は、選考する側が知りたいのが、技術の深さそのものより、その技術を使って顧客や組織の判断をどう支えたかだからです。技術の知識は前提として評価されますが、それを課題の整理や提案にどう使ったかが、コンサルタントとしての評価につながります。
具体例として、「新しいデータ基盤を設計して構築した」という経験は、「各部署がデータを使えずに意思決定が遅れていた課題に対し、複数の構成案を費用と運用の負担で比べて提案し、関係部署の合意を取って導入を進めた結果、分析の依頼から回答までの時間が短くなった」と説明できます。課題、比較、提案、合意、結果の順に並べると、コンサルタントとして求められるスキルが伝わりやすくなります。職務経歴書の書き分けは職務経歴書の書き方で年収が変わる理由で整理しています。
注意点として、実際にやっていないことを、コンサルタントの言葉で大きく見せるのは避けてください。入社後に求められる水準が上がり、評価が厳しくなります。
転向の前に、社内で小さく試す方法
ITコンサルタントへの転向を考えているなら、今の職場で、コンサルタントに近い仕事を小さく試してみると、向き不向きと、転向の選考で説明できる経験の両方が得られます。
理由は、転職してから向いていないと気づくと、年収と経験の両方で回り道になるからです。今の職場で、顧客や社内の関係者の課題を聞き、選択肢を比べて提案する経験を積めれば、自分が楽しめるかどうかが分かり、転向するとしても選考で具体的に説明できます。
具体的には、要件定義の打ち合わせに参加して、課題の整理を担当する、技術選定の比較資料を作って意思決定者に説明する、社内の業務改善の提案をまとめる、といった仕事が当てはまります。SIerで働いている場合は、上流工程の仕事を希望するのも一つの方法です。社内で職種を変える方法は社内公募・社内異動で年収を上げられる条件で扱っています。
注意点として、社内で試した結果、実装や設計の仕事のほうが向いていると分かることもあります。その場合は、エンジニアとして年収を上げる道を選んだほうが、長い目で見て有利なこともあります。
求人と面接で確認する質問
ITコンサルタントの求人を検討するときは、次の点を面接やオファー面談で確認します。
- 採用予定の職位と、その職位の報酬の幅
- 次の職位に上がるための基準と、平均的な昇格までの年数
- 昇格できなかった場合の扱い
- 案件へのアサインの決まり方と、案件の間の期間の扱い
- 直近の平均の残業時間と、繁忙期の働き方
- 賞与の決まり方と、個人の評価と会社の業績の比重
いずれも答えられる範囲は会社によりますが、具体的な回答が返ってこない場合は、直近の実績の例を聞きます。特に1番目の職位は、入社時の年収と、その後の昇格の道筋を決める最も大きな要素です。提示された職位に納得できない場合は、職位の判定の根拠を聞いてください。オファー面談で確認すべき条件全体はオファー面談で確認すべき条件にまとめています。
転向を判断する手順
ITコンサルタントへの転向を判断するときは、次の順番で考えます。
- 転向で年収を上げたいのか、仕事の内容を変えたいのかを決める
- 提示される職位と年収を、今の年収と時間あたりの水準で比べる
- エンジニアのまま会社の種類を変えた場合の年収と比べる
- 下の職位で採用された場合、元の水準に戻るまでの年数を見積もる
- 社内で小さく試した経験から、仕事の向き不向きを判断する
この順で考えると、「ITコンサルタントのほうが年収が高い」という印象だけで判断することを避けられます。転職全体の傾向として、転職で年収が増えた人の割合は 60.4%、増えた人の平均増加額は 73.1万円 でした。ただしこれは職種を変えない転職も含めた全体の傾向で、職種を変える転職では、職位の判定によって結果が大きく変わります。
注意点として、年収を上げることだけが目的なら、ITコンサルタントへの転向より、エンジニアとしての専門性を高めて会社の種類を変えるほうが、確実なこともあります。どちらが自分に合っているかは、仕事の内容への関心で決めるのが、長く続けられる選び方です。
よくある誤解
「ITコンサルタントになれば年収が上がる」という見方は、職位の判定を見落としています。経験年数より下の職位で採用されれば、入社時の年収は下がることもあります。
「エンジニアの経験はコンサルタントでは評価されない」という見方も一面的です。技術の知識は、顧客の課題を理解し、実現できる提案をするための土台になります。経験の説明の仕方を変えれば、評価につながります。
「年収が高いから時間あたりでも高い」という理解も、労働時間を見ないと成り立ちません。額面の年収と、時間あたりの水準の両方で比べてください。
まとめ
- ITコンサルタントの年収は、職種名より、採用される職位と時間あたりの水準で比べる
- 年収は毎年の昇給より職位の昇格で大きく上がり、昇格が止まると伸びにくい
- 評価される成果は、自分が作ったものより、顧客の意思決定と結果への貢献になる
- 経験年数より下の職位で採用されると、転向で年収が下がることがある
- エンジニアの経験を、課題・比較・提案・合意・結果の順で説明すると評価につながる