配偶者の転勤で住む場所が変わることになったとき、エンジニアとしての年収を落とさずに働き続けるにはどうすればよいのか。結論から言うと、すぐに退職や転職を決めるのではなく、今の会社で続ける方法から順番に検討し、住む場所と働く会社の給与テーブルを分けて考えることが、年収を落とさないための鍵です。
転勤の時期は自分で決められないため、焦って転職先を決めてしまい、条件の比較が不十分なまま年収を下げてしまうことがあります。本記事では、配偶者の転勤に伴う転職の年収変化という根拠の弱い数字は使いません。当サイトの推定モデルで勤務地による違いを示したうえで、社内異動、フルリモート、休職、転職、業務委託の5つの選択肢を整理し、限られた時間の中で条件を比べる進め方を解説します。
住む場所と、給与テーブルを分けて考える
配偶者の転勤で考えるべき最も大切な点は、住む場所が変わることと、年収が変わることは別の問題だということです。年収を決めているのは、住んでいる地域そのものではなく、働く会社の給与テーブルと、自分がその中のどの等級にいるかです。
たとえば、東京の会社にフルリモートで勤め続けられるなら、住む場所が地方に変わっても、東京の給与テーブルが適用されることがあります。反対に、転勤先の地域の会社に転職して、その地域の事業所で働く場合は、その会社の給与テーブルと地域の水準で年収が決まります。同じ地域に住んでいても、どちらを選ぶかで年収は変わります。
ただし、フルリモートの社員にも住む地域によって給与を調整する会社もあります。住む場所が変わると給与が変わるのか、変わらないのかは会社の制度によって違うため、最初に確認が必要です。給与テーブルの型については地方移住でエンジニアの年収を維持する条件で詳しく扱っています。
勤務地で推定レンジはどう変わるか
勤務地で働く場合の年収の目安として、実務3〜5年、上場・大手、スキル中位を固定し、勤務地だけを変えた推定レンジは次のとおりです。
| 勤務地 | 推定レンジ | レンジの図 |
|---|---|---|
| 東京 | 531〜624万円 | |
| 大阪・名古屋・福岡 | 468〜549万円 | |
| その他の地域 | 441〜518万円 | |
| フルリモート | 510〜599万円 |
東京の推定中央値は 578万円、大阪・名古屋・福岡では 508万円 で、差は 70万円 です。フルリモートでは 554万円 で、東京との差は小さくなります。
配偶者の転勤先が東京以外の都市であれば、その地域で働く会社に転職すると推定レンジは下がる可能性があります。一方で、フルリモートで働ける会社を選べば、下がる幅を抑えられる可能性があります。表は条件を揃えた推定であり、個別の会社の提示額を保証するものではありませんが、選択肢ごとの差の大きさを比べる目安になります。
公的な統計でも、地域による差は表れています。所定内給与額は東京都で 403.7千円/月、大阪府で 348千円/月、愛知県で 332.6千円/月 です。これらは全産業・全職種の平均で、エンジニアに限った数字ではありませんが、地域によって給与の水準が違うことが分かります。
選択肢1:今の会社で勤務地を変える
最初に検討したいのは、今の会社で転勤先の地域の拠点に異動できるかどうかです。全国に拠点を持つ会社や、転勤先の地域に事業所がある会社では、社内の異動で住む場所の変化に対応できることがあります。
社内異動の利点は、等級や評価の実績を引き継げることです。転職すると、新しい会社で等級を決め直すことになり、経験があっても一段下の等級から始まることがあります。社内異動なら、これまでの評価の積み重ねを失わずに済みます。
注意したいのは、勤務地が変わると給与が変わる会社があることです。地域ごとに給与テーブルを分けている会社や、地域手当で差をつけている会社では、異動によって年収が下がる場合があります。異動を申し出る前に、勤務地の変更で給与がどう変わるかを人事の担当者に確認してください。社内での異動の進め方は社内公募・社内異動で年収を上げられる条件も参考になります。
選択肢2:フルリモートで働き続ける
今の会社にフルリモートの制度があるなら、住む場所が変わっても同じ仕事を続けられる可能性があります。この場合、等級や評価の実績を引き継ぎながら、住む場所の変化に対応できます。
確認したいのは、フルリモートが制度として認められているか、それとも一時的な運用なのかです。一時的な運用の場合、会社の方針が変わると出社を求められる可能性があります。遠方に住んでいると、出社の方針が変わったときに対応できなくなるため、制度としてどう定められているかを確認してください。
また、フルリモートの社員が住む地域によって給与を調整するかどうかも確認が必要です。住む地域が変わっても給与が変わらない会社なら、年収を維持しやすくなります。調整する会社なら、どれだけ変わるかを確認してから判断してください。リモートワークと年収の関係はリモートワークでエンジニアの年収は下がるのかで扱っています。
選択肢3:帯同のための休職制度を使う
会社によっては、配偶者の転勤に帯同するための休職制度を設けていることがあります。一定の期間、仕事を休んで配偶者の転勤先で暮らし、転勤が終わった後や別の条件が整った後に復職できる仕組みです。
この制度を使う利点は、雇用を維持できることです。退職せずに済むため、復職後は以前の等級や評価の実績を活かして働ける可能性があります。配偶者の転勤の期間が決まっている場合や、海外への転勤でその地域で働くことが難しい場合には、有力な選択肢になります。
ただし、休職中は給与が支払われないことが一般的で、その期間の年収はなくなります。賞与や昇給の算定期間にも影響する場合があります。休職期間の上限、復職の時期や勤務地の条件、休職中の社会保険料の扱いは会社の制度によって違うため、就業規則と制度の規程を確認し、人事の担当者に詳細を聞いてください。
選択肢4:転勤先の地域、またはリモートで働ける会社へ転職する
今の会社で続ける方法がない場合は、転職を検討します。転職先の選び方は、大きく分けて2つあります。転勤先の地域に事業所がある会社で働く方法と、住む場所を問わずフルリモートで働ける会社に移る方法です。
転勤先の地域の会社で働く場合は、その地域の給与の水準で年収が決まります。東京と比べて推定レンジが下がる地域が多いため、年収を維持するには、同じ地域の中でも評価の高い企業タイプを選ぶことが大切です。企業タイプによる差は、勤務地による差より大きいこともあります。
フルリモートで働ける会社に移る場合は、住む場所にかかわらず、その会社の給与テーブルで年収が決まります。ただし、フルリモートの求人は応募者が全国から集まるため、選考の基準が高くなりやすい傾向があります。経験やスキルを具体的に示す準備が必要です。
選択肢5:業務委託として場所を問わず働く
もう一つの選択肢は、フリーランスや業務委託として、場所を問わない案件を受ける働き方です。フリーランスのリモート案件の月額平均単価は 80.2万円/月(2025年12月度) で、常駐案件の 76.6万円/月 を上回っています。住む場所に左右されにくい点では、配偶者の転勤と相性がよい働き方です。
ただし、この単価は掲載された案件の平均であり、稼働率、経費、社会保険料の自己負担を差し引く前の金額です。正社員の年収とそのまま比べることはできません。案件が途切れる期間があれば収入は減りますし、会社員のような休職制度や手当もありません。
業務委託として働くには、多くの場合、正社員として同種の仕事を任された実績が求められます。配偶者の転勤をきっかけに初めてフリーランスになる場合は、収入が安定するまでの期間を見込んでおく必要があります。フリーランスと正社員の比べ方はフリーランスと正社員の年収比較で詳しく扱っています。
5つの選択肢を比べる
5つの選択肢は、年収への影響、実績の引き継ぎ、安定性の点で違いがあります。
| 選択肢 | 年収への影響 | 等級・評価の引き継ぎ | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 社内で勤務地を変える | 地域の給与テーブルで変わることがある | 引き継げる | 異動先の拠点がない場合は選べない |
| フルリモートで続ける | 住む地域での調整がなければ維持しやすい | 引き継げる | 制度か一時的な運用かを確認する |
| 帯同のための休職 | 休職中は給与がない | 復職後に引き継げる可能性がある | 期間の上限と復職の条件を確認する |
| 転職する | 転職先の給与テーブルで決まる | 決め直しになる | 等級が一段下がることがある |
| 業務委託で働く | 単価と稼働率で変わる | 引き継ぎはない | 収入の安定性と社会保険料を考える |
この表の上から順に検討すると、実績を失わずに済む選択肢から確認できます。社内で続ける方法があれば、転職より年収を維持しやすいことが多いでしょう。社内で続ける方法がない場合に、転職や業務委託を比べる流れにすると、判断を急ぎすぎることを防げます。
限られた時間で進める順序
配偶者の転勤は、辞令から引っ越しまでの期間が短いことがあります。限られた時間で年収を落とさずに進めるには、順序が大切です。
- 転勤の時期、期間、今後も転勤がありそうかを配偶者と確認する
- 今の会社で、勤務地の変更、フルリモート、休職の制度があるかを確認する
- 社内で続ける方法があれば、給与の変化と条件を確認して判断する
- 社内で続ける方法がなければ、在籍中に転職活動を始める
- 転勤先の地域の求人と、フルリモートの求人の両方で条件を比べる
- 内定の条件を書面で確認してから、退職の時期を決める
最も避けたいのは、先に退職してから転職活動を始めることです。引っ越しの時期が迫ると、条件の比較が十分にできないまま内定を受けてしまうことがあります。在籍中に活動を始めれば、今の年収を基準に交渉でき、条件が合わなければ別の選択肢を探す余裕も持てます。
転勤が繰り返される場合の考え方
配偶者の仕事で数年ごとに転勤がある場合は、転勤のたびに転職を繰り返すと、等級や評価の実績が積み上がりにくくなります。転職のたびに等級を決め直すことになり、年収の伸びが止まりやすくなるからです。
このような場合は、住む場所に左右されにくい働き方を軸にキャリアを考えると、転職の回数を減らせます。フルリモートを制度として認めている会社、全国に拠点があり異動しやすい会社、場所を問わない業務委託の案件などが候補になります。それぞれ評価の仕組みや収入の安定性が違うため、長く続けられる条件を比べてから選んでください。
転職の回数が多くなった場合でも、理由を説明できれば、選考で不利になるとは限りません。配偶者の転勤という理由と、それぞれの職場で何を担当し、どんな成果を出したかを整理して伝えることが大切です。転職回数の伝え方はエンジニアの転職回数は年収に不利かで扱っています。
面接で伝えること、確認すること
転職の面接では、配偶者の転勤が転職の理由であることを簡潔に伝えて構いません。家族の事情を詳しく説明する必要はなく、働き方の条件として必要な情報に絞って伝えるのが基本です。
確認したいのは、次の点です。
- フルリモートは制度として定められているか、出社を求められる可能性はあるか
- 住む地域によって給与を調整する仕組みがあるか
- 将来また住む場所が変わった場合、働き方を続けられるか
- 等級はどのように決まり、入社後にどの条件で見直されるか
- 出社が必要な場面がある場合、交通費や宿泊費の扱いはどうなるか
これらの答えから、配偶者の転勤があっても長く働き続けられる会社かどうかを判断できます。今後も転勤の可能性があるなら、その点を踏まえた働き方ができるかを確認しておくと、入社後に同じ問題が起きることを防げます。
市場の状況も合わせて確認する
転職を検討する場合は、エンジニアの求人市場の状況も確認しておくと、条件の交渉の見通しが立てやすくなります。情報処理・通信技術者の有効求人倍率は 1.39倍(令和8年3月) です。この数字は全国の公共職業安定所の数字で、転職市場全体を表すものではありませんが、求人と求職の関係の目安になります。
求人が少ない地域では、転勤先の地域の会社だけに絞ると選択肢が限られることがあります。フルリモートの求人も合わせて探すことで、選択肢を広げられます。市場が厳しい時期の転職の考え方は求人倍率が下がる局面で年収を下げずに転職する条件で扱っています。
まとめ
- 住む場所が変わることと、年収が変わることは別の問題で、働く会社の給与テーブルで年収が決まる
- 上場・大手・実務3〜5年でも、東京と大阪・名古屋・福岡では推定中央値に70万円の差がある
- 社内で勤務地を変える、フルリモートで続ける、帯同のための休職、転職、業務委託の順に検討する
- 先に退職せず、在籍中に選択肢を確認し、転職活動を進める
- 転勤が繰り返される場合は、住む場所に左右されにくい働き方を軸にする
自分の条件での推定レンジは、経験年数・企業タイプ・勤務地・スキルを入れて診断で確認できます。