住宅手当や在宅勤務手当が出る会社と出ない会社を、年収で比べるにはどうすればよいのか。結論から言うと、手当は金額をそのまま足すのではなく、性質ごとに3種類に分けてから比べるのが確実です。仕事の役割に紐づく手当、住まいや家族などの生活条件に紐づく手当、仕事のための費用を補う手当では、年収としての意味が違います。
生活条件に紐づく手当は、条件が変われば止まることがあります。費用を補う手当は、実際にかかる費用と相殺されます。そして、多くの手当は賞与や残業代、退職金の計算に含まれません。本記事では、手当の平均額という根拠の弱い数字は使わず、手当を3種類に分ける方法と、額面が同じ2社を並べて比べる5つの手順を整理します。あわせて、勤務地による基本の水準の違いを当サイトの推定モデルで確認します。
提示された年収に、手当が含まれているかを先に確認する
手当を比べる前に、求人票やオファーに書かれた年収に手当が含まれているかを確認します。同じ「年収600万円」でも、住宅手当や在宅勤務手当を含んだ金額なのか、含まない金額なのかで、比べ方がまったく変わるからです。
たとえば、A社の提示は手当を含めた金額で、B社の提示は基本給と賞与だけの金額で、B社には別に住宅手当が出るとします。額面の数字だけを並べるとA社のほうが高く見えても、B社の手当を足すと差がなくなる、あるいは逆転することがあります。反対に、A社の提示に含まれている手当が、自分の条件では支給されないものだったということもあります。
確認する方法は単純で、オファーの年収の内訳を、基本給、固定残業代、賞与、手当ごとに書面で出してもらうことです。口頭の説明だけでは、後から前提がずれていたことに気づく場合があります。内訳を並べる考え方はオファー面談で確認すべき年収以外の条件でも扱っています。
手当を3種類に分ける
給与明細やオファーに書かれた手当は、名前が会社ごとに違っても、性質で分けると次の3種類にまとめられます。
| 種類 | 手当の例 | 年収として比べるときの扱い |
|---|---|---|
| 仕事に紐づく手当 | 役職手当、資格手当、職務手当 | 役割が続く限り受け取れる。年収に含めて比べやすい |
| 生活条件に紐づく手当 | 住宅手当、家族手当、地域手当 | 条件が変わると止まる。期間と条件を確認して一部だけ数える |
| 費用を補う手当 | 在宅勤務手当、通勤手当 | 実際にかかる費用と相殺する。原則として年収の比較から外す |
仕事に紐づく手当は、その役割や資格を持っている限り支給されるため、年収の一部として比べやすい種類です。ただし、役職を離れたり、担当が変わったりすると止まるため、転職直後から支給されるのか、一定の期間の後に支給されるのかは確認が必要です。
生活条件に紐づく手当と、費用を補う手当は、額面の年収に足すと実態より高く見える原因になります。次の節から、それぞれの読み方を具体的に見ていきます。
住宅手当は、支給が止まる条件まで読む
住宅手当は、生活条件に紐づく手当の代表です。支給には条件があることが多く、代表的なものは、世帯主であること、自分の名義で賃貸契約をしていること、勤務地から一定の距離に住んでいること、年齢や勤続年数が一定の範囲にあることなどです。
この条件を読まずに住宅手当を年収に足すと、判断を誤ることがあります。たとえば、支給が入社から数年に限られている会社では、数年後に同じ手当の分だけ年収が下がります。住宅を購入した場合や、実家に戻った場合、配偶者が別に住宅手当を受け取っている場合など、生活の変化で支給が止まる会社もあります。
比べるときは、今後数年の生活の見通しに照らして、住宅手当を受け取り続けられる期間を見積もります。受け取れる期間が短いなら、その期間の分だけを数えるか、比較からは外して参考として扱うほうが安全です。支給の条件は就業規則や賃金規程に書かれていることが多いので、オファーの段階で確認してください。
社宅や家賃補助は、住宅手当と分けて考える
住まいに関する支援は、現金で支給される住宅手当だけではありません。会社が借りた住宅に社員が住む借り上げ社宅や、会社が所有する社宅など、住まいそのものを提供する形もあります。この場合、給与明細には手当として表れず、家賃の一部を社員が負担する形になります。
借り上げ社宅と住宅手当は、同じ住まいの支援でも、年収への表れ方と税金や社会保険料の扱いが違うことがあります。住宅手当は給与として支給されるため、額面の年収に含まれます。社宅の場合は、給与として受け取る金額は増えなくても、家賃の負担が軽くなる形で生活に効きます。
どちらが有利かは、支援の金額、社員の負担額、住める期間や物件の条件によって変わります。税金や社会保険料の扱いは制度の詳細によって異なるため、具体的な計算が必要な場合は、会社の担当者や税理士などの専門家に確認してください。比べる段階では、住まいにかかる自分の負担が毎月いくらになるかを揃えて並べるのが分かりやすい方法です。
在宅勤務手当は、かかる費用と相殺する
在宅勤務手当は、自宅で仕事をするためにかかる費用を補う目的で支給されることが多い手当です。光熱費、通信費、机や椅子などの環境を整える費用などが想定されています。そのため、手当の額だけ生活に使えるお金が増えるわけではありません。
たとえば、在宅勤務手当が出る会社と出ない会社を比べるときは、手当の額から、自宅で仕事をすることで増える費用を差し引いて考えます。夏や冬の冷暖房、通信回線の契約、仕事用の機器などを見積もると、手当の多くが費用で相殺されることもあります。反対に、出社する場合には通勤の時間や費用、昼食代などがかかるため、在宅勤務そのものが生活費を減らす面もあります。
支給の条件も確認が必要です。在宅勤務の日数に応じて支給額が変わる会社では、出社の方針が変わると手当も変わります。一時金として一度だけ支給される場合と、毎月支給される場合でも意味が違います。在宅勤務を前提にした働き方の年収の考え方はリモートワークでエンジニアの年収は下がるのかで扱っています。
通勤手当は、原則として年収の比較から外す
通勤手当も、費用を補う手当の一つです。通勤にかかる実費を補うために支給されるため、額面の年収に含まれていても、生活に使えるお金を増やすものではありません。年収を比べるときは、原則として通勤手当を外して並べます。
注意したいのは、フルリモートの会社や、通勤手当を実費精算にしている会社と比べる場合です。通勤手当を含めた年収で提示している会社と、含めない会社を並べると、通勤手当の分だけ差があるように見えます。遠方から通勤する人ほど、この差は大きく見えます。
通勤手当には、税金の扱いについて一定の範囲で特別な取り扱いがありますが、詳しい条件は交通手段や距離によって異なります。個別の扱いは会社の担当者や税理士などの専門家に確認してください。比べる段階では、通勤手当を外し、通勤にかかる時間も働き方の条件の一つとして別に考えるのが分かりやすい方法です。
手当は、賞与・残業代・退職金に効かないことが多い
手当を年収に足して比べるときに見落としやすいのが、手当が賞与や残業代、退職金の計算に含まれるかどうかです。多くの会社では、賞与を基本給の何か月分として計算し、退職金も基本給や等級をもとに計算します。手当はこれらの計算の対象に入らないことが多くあります。
そのため、同じ月額を受け取る場合でも、基本給として受け取る場合と、手当として受け取る場合では、年収全体への影響が違います。基本給が高い会社は、賞与や退職金にもその差が表れます。手当が多い会社は、月々の受取額は同じでも、賞与や退職金の差は生まれません。賞与の比率による違いは賞与比率が高い会社と低い会社の年収の見方で詳しく扱っています。
残業代の単価についても、法律で計算から外してよいとされる手当があり、住宅手当や家族手当、通勤手当などが、条件によってはその対象になります。どの手当が単価に含まれるかは会社の規程と手当の性質によって変わるため、残業が多い働き方になる場合は確認しておくと安心です。
勤務地で、基本の水準そのものが変わる
手当の比較と合わせて、勤務地による基本の水準の違いも確認します。実務3〜5年、上場・大手、スキル中位を固定し、勤務地だけを変えた推定レンジは次のとおりです。
| 勤務地 | 推定レンジ | レンジの図 |
|---|---|---|
| 東京 | 531〜624万円 | |
| 大阪・名古屋・福岡 | 468〜549万円 | |
| その他の地域 | 441〜518万円 | |
| フルリモート | 510〜599万円 |
東京とその他の地域では、推定中央値に差があります。地域手当を設けて、勤務地による生活費の差を手当で調整する会社もあれば、給与テーブルそのものを地域ごとに分ける会社もあります。手当で調整している会社では、勤務地が変わると手当だけが変わり、基本給は変わりません。
公的な統計でも、地域による差は大きく表れています。所定内給与額は東京都で 403.7千円/月、最も低い県では 259.9千円/月 です。これらの数字は全産業・全職種の平均で、残業代や賞与は含みませんが、家族手当や住宅手当などの諸手当は含まれます。地域による住居費の違いが、給与と手当の両方に反映されている可能性があります。勤務地の差の読み方は地方エンジニアの年収は本当に低いのかで扱っています。
額面が同じ2社を並べる5手順
手当の性質を踏まえて、2社の年収を比べる手順を整理します。
- 両社の提示年収の内訳を、基本給、固定残業代、賞与、手当に分けて書き出す
- 手当を、仕事に紐づく、生活条件に紐づく、費用を補うの3種類に分ける
- 費用を補う手当は、比較から外すか、実際にかかる費用を差し引いて並べる
- 生活条件に紐づく手当は、支給が止まる条件と期間を確認し、受け取れる見込みの分だけ数える
- 基本給と仕事に紐づく手当を中心に、賞与や残業代、退職金に効く部分と効かない部分を分けて比べる
この手順で並べると、額面の年収が同じでも、安定して受け取れる部分の大きさが違うことが見えてきます。基本給の比率が高い会社は、昇給や賞与の土台が大きく、長く働くほど差が広がりやすくなります。手当の比率が高い会社は、今の生活条件では有利でも、条件が変わったときの影響が大きくなります。
比べた結果、どちらが良いかは生活の見通しによって変わります。当面は住まいの条件が変わらず、住宅手当を長く受け取れる見込みがあるなら、手当が多い会社の受取額は実際に高くなります。数年のうちに住まいや家族の状況が変わりそうなら、基本給が高い会社のほうが安定します。
よくある失敗
手当を含めた比較で起きやすい失敗を3つ挙げます。
1つ目は、提示年収に含まれている手当を、自分も受け取れる前提で数えることです。求人票の年収の例には、家族手当や住宅手当を受け取る人を想定した金額が書かれていることがあります。自分がその条件に当てはまらなければ、提示された額面より実際の年収は低くなります。
2つ目は、在宅勤務手当を純粋な収入の増加として数えることです。在宅勤務手当は費用の補填なので、手当の額だけ生活に使えるお金が増えるわけではありません。出社が中心の会社と比べるときは、通勤にかかる時間や費用も合わせて考えてください。
3つ目は、手当の比率が高い会社の年収を、基本給が高い会社の年収と同じように伸びると考えることです。昇給は基本給に対して行われることが多く、手当は昇給で増えないことがあります。数年後の年収を見積もるときは、基本給の部分だけに昇給率を掛けて考えるほうが実態に近くなります。
オファー面談で確認する質問
手当について、オファー面談や入社前の確認で聞いておきたいのは次の点です。
- 提示された年収に、どの手当が含まれているか
- 各手当の支給条件と、支給が止まる条件
- 支給期間に上限がある手当はどれか
- 賞与、残業代、退職金の計算に含まれる手当はどれか
- 在宅勤務手当は、出社の頻度によって変わるか
これらの答えを書面で受け取っておくと、入社後に前提が違っていたという事態を防げます。手当の条件を詳しく説明できる会社は、給与の仕組み全体も整理されていることが多く、評価や昇給の説明も期待しやすいでしょう。
まとめ
- 手当は金額をそのまま足さず、仕事に紐づく、生活条件に紐づく、費用を補うの3種類に分けて比べる
- 住宅手当は支給が止まる条件と期間を確認し、受け取れる見込みの分だけ数える
- 在宅勤務手当と通勤手当は費用の補填なので、原則として年収の比較から外す
- 多くの手当は賞与、残業代、退職金の計算に含まれず、基本給で受け取る場合より長期の影響が小さい
- 勤務地による基本の水準の違いも合わせて確認する
自分の条件での推定レンジは、経験年数・企業タイプ・勤務地・スキルを入れて診断で確認できます。