フリーランスエンジニアの単価はよく話題になります。実際、案件の月額単価は高い水準にあります。

フリーランスエンジニアの月額平均単価

78.3万円/月

2025年12月度/『フリーランススタート』定点調査レポート(2025年12月度)

調査対象は 474,988件 の掲載案件。職種によってはさらに高く、SREの月額平均は 93.5万円/月、最高単価は 225万円/月(PM職)です。

平均の78.3万円を12倍すると939万円。正社員の平均 469万円 と比べると倍近い数字になります。「独立したほうが稼げる」の根拠として、この計算がよく使われます。

ただし、この比較は成立していません。 単価×12は、正社員年収と同じ土俵の数字ではないからです。何が抜けているのかを順に見ます。

理由1:稼働率100%を前提にしている

案件は途切れます。

  • 契約更新のタイミングで切れる
  • 案件と案件の間に空白ができる
  • 体調を崩した月は請求できない
  • 常駐案件なら、現場の都合で突然終わることもある

仮に年間11か月稼働なら、その時点で8%落ちて861万円になります。10か月なら783万円です。

独立1年目は営業に時間を取られるため、稼働率はさらに下がるのが普通です。継続案件を持てるかどうかで、年間の実収入は100万円単位で変わります。

理由2:社会保険料が全額自己負担になる

会社員の健康保険と厚生年金は、会社が約半分を負担しています。給与明細に載っている控除額は、実際の保険料の半分です。

フリーランスになると国民健康保険と国民年金に切り替わり、全額が自己負担になります。

さらに国民年金は厚生年金より将来の受給額が下がります。その差を自分で埋めるなら、iDeCoや小規模企業共済への拠出も必要です。これは節税になりますが、手元から出ていく現金であることに変わりはありません。

理由3:賞与・退職金・有給がない

正社員の年収には賞与が含まれています。上の 469万円 も、賞与込みの支給額です。

  • 有給 — 会社員は休んでも給与が出ます。フリーランスが休んだ日は請求できません
  • 退職金・企業型DC — ある会社なら、その分が比較から抜けています
  • 傷病手当金 — 会社員は病気で働けない期間に給与の2/3程度が出ます。国民健康保険にはこの制度がありません

理由4:経費と、売上を生まない時間

会計ソフト、確定申告、契約書の確認、請求と入金の管理、営業活動。これらは1円も売上を生みませんが、必ず発生します。税理士に任せるなら年10万〜30万円程度の実費が出ます。

当サイトが1.35倍にしている理由

以上を差し引くと、単価×12をそのまま正社員年収と比較するのは無理があります。当サイトの推定では、フリーランスを正社員換算する係数を 1.35倍 に留めています。

実務6〜9年/スタートアップ/フルリモート/スキル上位(スコア70)という条件で比較すると、こうなります。

雇用形態 推定レンジ 中央値
正社員 599〜703万円 651万円
業務委託(1.35倍) 808〜949万円 879万円

差は228万円。939万円という数字より控えめですが、そのぶん実態に近い比較ができます。

それでもフリーランスが有利になる3つの場合

保守的に見積もってもなお、業務委託のほうが受け取る額が大きくなるケースはあります。

1. スキルが十分なのに、雇用形態が単価の頭を押さえている

正社員の給与テーブルには上限があります。単価には上限がありません。同じ実力で、会社の等級制度が理由で頭打ちになっている場合、これが最も効きます。

2. 商流が浅い案件を取れる

中間マージンが抜けない分がそのまま乗ります。エージェント経由でも、元請けに近い案件を扱っているところとそうでないところで差が出ます。

3. 稼働率を高く維持できる

継続案件を持てるか、切れたときにすぐ次が決まるか。ここが安定していれば、上の理由1がほぼ消えます。

逆に、実力が伴わないまま独立すると、稼働率が落ちて上のすべてが逆に働きます。単価60万円で年8か月なら480万円。正社員のほうが手取りも保障も上、という結果になります。

判断の順番

独立を検討するなら、順番はこうなります。

  1. いまのスキルが市場でどの水準にあるかを確かめる
  2. その水準で取れる単価の目安を、複数のエージェントに聞いて確認する
  3. 単価×12ではなく、稼働率・社会保険料・賞与相当を引いた手取りベースで比較する
  4. 半年分の生活費を現金で確保してから動く

1つ目を飛ばして2つ目から始めると、提示された単価が高いのか低いのか判断できません。「相場より安く買われている」ことに気づけないのが、この順番を守らない場合の最大の損失です。

なお、正社員側でも企業タイプを変えれば210万円動きます(企業タイプ別の記事)。独立が唯一の選択肢ではありません。

独立前に年間収支を作る

独立を判断するときは、好調な1か月の単価ではなく、12か月の現金の動きを表にします。売上が入る月、案件を探す月、税金や保険料を払う月を分け、生活費とは別に事業用の支出を置きます。月額単価が同じでも、契約開始の遅れや入金サイトによって、口座残高の底は変わります。

正社員側も額面年収だけにしません。賞与、有給休暇、会社負担の保険、福利厚生、学習費など、現在受けているものを書き出します。すべてを厳密に金額へ直す必要はありませんが、「独立後は自分で買うもの」と「不要になるもの」を区別すれば、比較の抜けが減ります。

そのうえで、案件が予定より一か月遅れた場合、単価が想定より下がった場合、体調不良で稼働できない場合を試します。通常ケースで黒字でも、どれか一つで生活費が不足するなら、独立の可否より準備資金の不足が問題です。先に貯蓄期間を延ばせば、低い単価を焦って受ける可能性も下げられます。

案件終了時に崩れない準備

フリーランスの安定性は、契約が続いている間ではなく、終わった直後に表れます。一社だけと長く契約していると営業の時間は減りますが、その契約が終わった瞬間に収入源と市場情報を同時に失います。稼働中から職務経歴を更新し、次に提示できる成果を言葉にしておく必要があります。

実績は「開発に参加した」では単価の根拠になりません。どの問題を担当し、何を判断し、速度・安定性・売上などにどう影響したかを、守秘義務の範囲で説明できる形にします。正社員の評価資料と同じで、相手が再現性を判断できる材料があるほど、次の案件を探す時間は短くなります。

また、契約終了の条件と通知期間を契約前に確認します。急な終了を完全に防ぐことはできませんが、いつ次の営業を始めるべきかは決められます。エージェント一社の提案だけに依存せず、複数経路の相場を定期的に見ることも、低い条件を受け入れないための保険になります。

正社員に残るほうがよいケース

単価差があっても、いまの会社で大きな設計判断やマネジメントを任され始めた時期なら、すぐに独立しないほうがよいことがあります。業務委託は契約された役割を確実に果たすことが優先され、未経験の責任を学ぶ機会は正社員より得にくいからです。次の単価を上げる実績を作ってから動くほうが、長期では有利になります。

営業や事務を強い負担に感じる人も、正社員との相性が悪いわけではありません。フリーランスでは技術以外の作業を避けられず、その時間も含めて自分の仕事になります。高い単価がその負担に見合うかは、収入だけでなく、仕事を終えた後の時間や心理的な安定まで含めて考えます。

結論は「どちらが得か」ではなく、「どのリスクを自分で引き受けるか」です。収入の変動と保障を自分で管理する代わりに単価と働き方を選びたいなら独立が合います。組織の中で判断範囲を広げながら安定した収入を得たいなら、企業タイプを変える転職のほうが目的に近い場合があります。

独立を一年延期する選択

単価の見積もりが期待より低かった場合、独立を諦めるのではなく、何が不足しているかを聞きます。特定領域の実務、設計経験、顧客との調整、リーダー経験など、単価が上がる条件が具体的なら、正社員のまま一年かけて取りに行けます。目的のない延期と、単価の根拠を作る延期は別です。

この期間には、現在の会社で得る実績と、独立後に必要な準備を並行させます。職務経歴を案件単位で説明できるようにし、複数の紹介経路から相場を聞き、経理や契約の流れも小さく試します。独立初月に初めて請求や税金を調べる状態を避ければ、売上を生まない作業に追われる時間を減らせます。

一年後に再び見積もりを取り、提示される役割と単価が変わったかを確認します。変わっていなければ、学ぶ内容が市場の需要とずれていた可能性があります。正社員としての転職も含めて選択肢を更新し、独立そのものを目的にしないことが大切です。

家族と家計を共有している場合は、通常月の収入だけでなく、案件が切れたときにどの支出を減らし、いつ正社員への応募も始めるかを話しておきます。収入の変動を本人だけの問題にしないことで、独立後に低い条件を焦って受ける圧力を減らせます。技術と営業の準備に加え、生活側の合意も独立条件の一つです。

まとめ

  • 単価×12は稼働率100%・経費ゼロ・社会保険料ゼロの理想値
  • 差し引くのは稼働率、社会保険料の全額自己負担、賞与・退職金・有給、経費と事務時間
  • 当サイトは1.35倍という保守的な係数を使用。同条件で正社員651万円に対し879万円
  • 有利になるのは、実力が十分で商流が浅く、稼働率を維持できる場合