親の介護が始まりそうだと分かった時点で、多くの人がまず「働き方を変えないといけない」と考えます。ただ、年収が落ちるかどうかを決めているのは介護そのものではありません。落ちるのは、介護に対応するために勤務地・勤務時間・役割のどれを動かしたか、そしてその変更が給与の計算にどう反映されるかで決まります。

先に結論を書きます。動かす順番があります。最初に検討すべきは勤務地でも勤務時間でもなく、勤務の「時間帯」と「場所」の自由度です。次に稼働時間、最後に役割です。この順番を逆にして、いきなり役割を軽くしたり地方の求人に移ったりすると、介護が終わったあとも戻らない差が残ります。

この記事では、離職の統計で介護がどう位置づけられているかを確認したうえで、年収が動く経路を3つに分け、それぞれで下げ幅を小さくする方法を扱います。制度そのものの解説ではなく、条件を変えたときに金額のどこが動くかに絞ります。

介護を理由に辞める人は、離職者の中で多数派ではない

まず前提を確認します。介護を理由とした離職は、統計上は離職全体のごく一部です。令和6年の離職者のうち「介護・看護」を理由とする離職の割合は 1.3%、男性が 1%、女性が 1.5% でした。年齢階級で見ると偏りがあり、女性の55〜59歳では 6.7% と全体の数倍になります。

この数字の読み方には注意が必要です。雇用動向調査の離職理由は、離職した本人ではなく事業所が回答しています。実際に「その他の個人的理由」が 72.7% と大半を占めており、介護が背景にある離職の一部がそちらに分類されている可能性は否定できません。つまり公表値は実態の下限として読むべき値で、「介護離職は少ないから心配ない」という結論を導く材料にはなりません。

それでも、この数字から言えることが2つあります。ひとつは、辞めずに続けている人のほうが圧倒的に多いということ。もうひとつは、辞める側に回りやすい層に偏りがあるということです。前者は「両立できる設計が現実に存在する」ことを意味し、後者は「その設計を自分で用意しないと、負担が偏った側から先に離職に向かう」ことを意味します。

例外もあります。介護の状態は一様ではなく、要介護度が高く医療的な対応が必要な段階では、働き方の調整だけでは対応しきれないことがあります。その判断は医療と介護の専門職に委ねる領域です。ここで扱うのは、通院の付き添いや役所の手続き、ケアマネジャーとの打ち合わせといった、平日日中に一定時間を取られる状態への対応です。

年収が落ちる経路は、介護そのものではなく3つの変更

年収が下がるとき、実際に効いているのは次の3つのどれかです。介護の有無ではなく、介護に対応するために何を変更したかが金額を決めます。

変更したもの 金額が動く仕組み 戻しやすさ
勤務地の区分 勤務地係数、または転職先の相場そのもの 戻しにくい
所定労働時間 賃金規程による時間按分 時間を戻せば戻る
担当する役割 等級と評価。翌年以降の基準額に残る 早く戻せば影響が小さい

表の読み方ですが、3つは同時に起きるうえ、戻しやすさが違います。時間按分で減った分は勤務時間を戻せば戻り、後には残りません。一方で勤務地を変えるために転職した場合と、役割を落としたまま評価期をまたいだ場合は、介護の状況が変わっても自動的には戻りません。だから優先して守るべきなのは、時間ではなく勤務地と役割です。

この表が当てはまらないケースもあります。年俸制や裁量労働制を採っている会社では、時短勤務に入った時点で契約形態が切り替わることがあり、時間按分という考え方が成立しません。自分の給与がどの仕組みで決まっているかは、裁量労働制の年収の見方で扱った区分に当てはめて先に確かめてください。

勤務地の区分を変えると118万円動く

3つの中で金額の振れ幅が最も大きいのは勤務地です。実務6〜9年・上場企業・スキル中位という条件をそろえ、勤務地の区分だけを入れ替えるとこうなります。

勤務地推定レンジレンジの図
東京638〜748万円
大阪・名古屋・福岡561〜659万円
その他の地域529〜621万円
フルリモート612〜719万円
条件:6〜9年/上場・大手/スキルスコア50。公開統計をもとにした推定であり、実際の年収を保証するものではありません。算出方法

東京勤務とその他の地域では、推定レンジの中央値どうしで118万円の差があります。フルリモートは東京勤務をやや下回る水準に置いていますが、地方の通勤前提の勤務よりは上にあります。つまり実家の近くに住む必要が出たときに、地元の求人へ移るのか、住む場所だけ変えてリモートで今の水準を維持するのかで、想定される年収がまるごと1段変わります。

具体的に考えると、介護のために実家へ戻る判断と、地元企業へ転職する判断は本来別物です。前者は住む場所の話で、後者は雇用契約の話です。同時に決めてしまう人が多いのですが、リモート勤務が制度として認められているなら、住む場所だけを先に動かして雇用はそのまま維持するほうが、金額の面では有利になります。

ただしこの表には適用できないケースがあります。同じ会社に在籍したまま住む場所を変える場合、給与は市場のレンジではなく社内の給与テーブルで決まります。勤務地手当が地域区分で決まっている会社なら、転居によって手当だけが下がります。表の差がそのまま出るのは、転職して別の会社の相場に乗り換えたときです。地域ごとの水準の内訳は勤務地別の年収相場で扱っています。

フルリモートを維持できるかを最初に確かめる

したがって、最初にやることは転職先探しではなく、現職のリモート勤務の規程を読むことです。確認する点は3つあります。恒久的な遠隔地勤務が認められているか、認められている場合に居住地による給与の調整があるか、そして出社が必要になる頻度がどれくらいかです。

規程がある会社でも、運用が追いついていないことがあります。制度としては全国どこでも勤務可と書かれていながら、実際には月に数回の出社を前提にチームの予定が組まれている、といった状態です。この場合、規程上は問題なくても移動の時間と費用が生活を圧迫します。読むべきは規程だけでなく、直近数か月に自分のチームが実際どう動いていたかです。

フリーランスの案件市場でも、リモートの比率は無視できない水準にあります。掲載案件に占めるリモート案件の割合は 42.4% で、リモート案件の月額平均単価は 80.2万円/月 と常駐案件を上回っています。遠隔での就業が例外的な働き方ではなくなっていることの傍証にはなります。

注意点として、リモートで働けることと、リモートで評価されることは別です。制度が用意されていても、評価の運用が対面での関与を前提にしていると、水準ではなく評価の面で差が出ます。この見分け方はフルリモート勤務と年収の関係と、地方移住とフルリモートで年収を維持できる条件で詳しく扱っています。

勤務時間を減らす前に、時間帯をずらせないか検討する

介護で必要になるのは、多くの場合「総量としての時間」ではなく「平日日中の特定の時間帯」です。通院の付き添い、ケアマネジャーとの面談、役所や施設の手続きは、いずれも平日の昼間にしか行えません。ここを勤務時間の短縮で解こうとすると、必要以上に給与を削ることになります。

だから先に検討すべきはフレックスタイムや中抜けの可否です。コアタイムのないフレックスであれば、所定労働時間を維持したまま昼の2時間を空けられます。この場合、時間按分による減額は発生しません。同じ「働き方を変える」でも、時間帯の移動と時間の短縮では金額への影響がまったく違います。

具体例を挙げると、週に一度の通院付き添いのために時短勤務へ切り替えると、その一度のために毎日の所定労働時間が減ります。中抜けで対応できるなら、減るのは実際に抜けた分だけです。制度として中抜けが認められていない会社でも、時間単位の年次有給休暇を導入していれば同じことができます。まず自社にどの選択肢があるかを並べてください。

それでも時間の短縮が必要になる段階はあります。その場合に確認するのは、按分の対象が基本給だけなのか、諸手当や賞与の算定基礎まで含むのかという範囲です。範囲が広い会社では、月々の減り方が想定どおりでも賞与の支給月に差が大きく出ます。この確認の進め方は育休・時短からの復帰で年収を戻す手順と同じ枠組みが使えます。

役割は落とさず、稼働だけを落とす

稼働を落とすことになった場合でも、役割まで一緒に落とす必要はありません。ここを混ぜると、介護が一段落したあとも年収が戻らなくなります。悪意なく起きるのが厄介なところで、配慮として担当を軽くする運用がそのまま評価の材料不足につながります。

構造的に、この影響は後から効いてきます。情報通信業では、昇給の内容が業績評価などによると答えた企業が 85.9% を占めます。評価に紐づく比率が高いということは、評価の材料が薄い期間の埋め合わせが自動では起きないということです。その年の昇給が飛ぶだけでなく、翌年以降の基準額が据え置かれるため、差は年を追って開きます。

残すべきなのは、時間に比例しない担当です。設計の判断、レビューの最終確認、障害対応の一次判断、技術選定の意思決定といった役割は、拘束時間の長さではなく判断の質で評価されます。逆に落としやすいのは、常時の即応が必要な当番や、長時間の同期的な作業です。何を残して何を手放すかを自分から提示すると、調整が通りやすくなります。

注意点もあります。会社の体制上どうしても役割を戻せない場合や、等級の要件そのものに稼働時間が組み込まれている場合です。後者は制度の問題なので、個人の交渉では動きません。等級要件の確認のしかたは等級・グレード制度と昇格の仕組みにあります。要件を満たせない状態が続くと判断できたときは、社内で粘るより条件を作り直す段階です。

企業タイプを変えるという選択肢と、その代償

勤務地と稼働の自由度を優先すると、企業タイプを変える選択肢が出てきます。同じ実務6〜9年・フルリモート・スキル中位の条件で、企業タイプだけを入れ替えるとこうなります。

企業タイプ推定レンジレンジの図
メガベンチャー・外資696〜816万円
上場・大手612〜719万円
中小の受託・SIer529〜621万円
スタートアップ556〜653万円
SES473〜555万円
条件:6〜9年/フルリモート/スキルスコア50。公開統計をもとにした推定であり、実際の年収を保証するものではありません。算出方法

差の構造は勤務地よりも大きく、上から下までの幅は勤務地の比ではありません。ここで注意したいのは、柔軟な働き方を掲げている会社が必ずしも上の区分にあるとは限らない点です。制度の柔軟さと給与の水準は別の軸で決まっており、両方を同時に取りにいくと選択肢が急に狭まります。

具体的には、リモートと時間の自由度を最優先にした結果、水準の低い区分へ移ってしまう組み合わせが起きがちです。介護の期間が数年に及ぶことを考えると、その間の年収差は累積します。柔軟さのために年間で何万円まで下げられるかを先に決めておくと、求人を見たときの判断が速くなります。

この表にも適用できない場面があります。企業タイプの区分は組織の規模や資本構成による大まかな分類で、同じ区分の中でも会社ごとの差は大きく残ります。表は「どの方向に動くと水準が上下しやすいか」を見るためのもので、個別の会社の提示額を予測するものではありません。

フリーランスへの切り替えは両立策として妥当か

時間の自由度を求めてフリーランスを検討する人は多いのですが、両立策としては条件付きです。案件の選択で稼働日数を調整できる点は確かに強みで、月額の平均単価も 78.3万円/月 と、時間あたりで見れば会社員より高く出ることがあります。

一方で、介護と組み合わせたときに効いてくるのは収入の変動です。契約が途切れた月の収入はそのままゼロに近づき、介護のために稼働を落とした月の減り方も、正社員の時間按分より急になります。介護は始まりも終わりも予測できないため、収入の下振れに耐えられる期間を先に見積もっておかないと、両立どころではなくなります。

具体的な判断材料としては、契約更新の頻度と、稼働率を落としたときに継続できる案件かどうかです。月160時間の常駐前提の案件では、稼働を落とす調整そのものが契約変更になります。逆に成果物の納品で契約している案件なら、時間帯の自由度は高くなります。契約の形と両立のしやすさは直結しています。

正社員との比較で何が変わるかはフリーランスと正社員の年収比較で扱っています。ここでは、介護という予測できない変動要因を抱えた状態では、収入側の変動も同時に増やす判断になる、という点だけ押さえておきます。

制度で休むときに、年収のどこが動くか

介護のための休業や休暇は法令と勤務先の規程で定められています。制度の内容そのものは会社によって上乗せがあり、対象となる家族の範囲や取得の方法も規程で決まるため、ここでは金額がどこで動くかだけを整理します。個別のケースが制度に当てはまるかどうかは、勤務先の人事と就業規則を確認したうえで、都道府県労働局の相談窓口や社会保険労務士に確認してください。

年収の観点で押さえるのは3点です。休業期間中の給与の取り扱い、その期間が賞与の算定期間にどう含まれるか、そして評価対象期間としてどう扱われるかです。1点目は規程に明記されていることが多いのですが、2点目と3点目は書かれていないことがあります。書かれていない部分は運用で決まるため、取得前に確認しておかないと後から認識のずれが出ます。

とくに評価対象期間の扱いは影響が長く残ります。休業期間が対象から外れる運用だと、その年の昇給判定が飛びます。取得を申し出るときに「今期の評価対象期間はいつからいつまでで、休業期間はどのように扱われますか」と確認しておくと、飛ぶかどうかを事前に把握できます。飛ぶと分かっていれば、次の対象期間に何を出すかを最初から設計できます。

転職で条件を作り直すときの順序

社内で条件を作れないと判断したとき、転職は有効な手段になります。ただし順序があります。勤務地・勤務時間・出社頻度といった条件を先に確定させてから、金額を詰めます。金額で合意したあとに勤務条件を持ち出すと、条件ごと見直しになり、結果として両方とも通らないことがあります。

転職が必ず年収を上げるイベントではないことも前提に置いてください。年収が増加した人の割合は 60.4% で、増加した人の平均増加額は 73.1万円 です。上がる人と上がらない人に割れる構造になっているため、条件面の制約を抱えた状態でまとめて動くと、下振れの側に入りやすくなります。

市場環境も見ておく必要があります。情報処理・通信技術者の有効求人倍率は 1.39倍 で、全職業の 1.1倍 を上回ってはいますが、直近では新規求人が -16.3% と減少し、求職側は増えています。条件を絞り込むほど選べる求人は少なくなるため、譲れない条件と譲れる条件を先に分けておくことが実務的に効きます。

面談で確認する内容も、制度の名前ではなく運用にします。「リモート可」ではなく、直近1か月にチームの何割が出社していたか。「フレックスあり」ではなく、コアタイムの有無と中抜けの実績です。聞き方の型は年収交渉で通る根拠にある、役割と条件を先に確認する進め方がそのまま使えます。

介護が長期化する前にやること

順番があります。上から順に、始まる前でもできることです。

  1. 現職のリモート勤務規程と、居住地による給与調整の有無を確認する
  2. フレックス・中抜け・時間単位年休のうち、自社で使える選択肢を並べる
  3. 賃金規程の時間按分の範囲(基本給のみか、賞与の算定基礎まで含むか)を読む
  4. 評価対象期間の定義と、休業期間の扱いを人事に確認する
  5. 残す役割と手放す役割を自分で決め、稼働を落とす前に提示する

このうち1から3は、介護が始まる前でも読めます。読んでおくと、実際に必要になったときに選択肢を並べる時間を節約できます。4と5は状況が具体化してからで構いませんが、次の評価対象期間が始まる前に着手しておかないと、材料がないまま判定を受けることになります。

順番を入れ替えないことが重要です。最初に転職や退職を検討すると、いま持っている条件のうち何が使えるかを確認しないまま選択肢を捨てることになります。現職で作れる条件を洗い出したうえで、足りない部分だけを外に求めるほうが、結果として下げ幅は小さくなります。

よくある失敗

介護と仕事の両立で年収が想定以上に落ちるとき、原因は次のどれかに集約されます。

  • 住む場所を変える判断と、雇用先を変える判断を同時に決めてしまう
  • 特定の時間帯が必要なだけなのに、所定労働時間の短縮で解こうとする
  • 配慮として軽くされた担当をそのまま受け入れ、評価期を材料なしで迎える
  • 柔軟さを最優先にした結果、水準の低い企業タイプへ移り、その差が介護後も残る
  • 現年収にみなし残業が含まれているかを把握せず、稼働を落とした後の実質時給を見誤る

最後の項目は稼働を落とす局面で特に効きます。固定残業代を含んだ年収表示のまま所定労働時間だけが短くなると、時間あたりで見た水準が想定と大きくずれます。換算の手順はみなし残業を実質時給に換算する方法にあります。

いずれも情報が足りないから起きるのではなく、確認する順番の問題です。規程も評価制度も、必要になる前に読めます。読んだうえで相談に臨めば、その場で決められることが増えます。判断を急がされる状況ほど、事前に並べた選択肢が効きます。

まとめ

  • 年収を決めるのは介護の有無ではなく、勤務地・勤務時間・役割のどれを動かしたか
  • 戻しにくいのは勤務地と役割。時間按分で減った分は時間を戻せば戻る
  • 東京勤務とその他の地域は中央値で118万円離れる。住む場所と雇用先の判断は分けて決める
  • 時間帯の調整で足りるなら、所定労働時間は減らさない

介護の状況は人によって違い、選べる働き方も勤務先の制度に左右されます。まずは自分の現在地を測ったうえで、どの条件なら手放してよいかを決めてください。