「地方だと年収が下がる」はよく聞く話です。これは統計的には事実ですが、IT職に限ると、一般に思われているほどの差ではありません。
全産業のデータと、エンジニアの実態を分けて見ていきます。
全産業で見た地域差
厚生労働省の賃金構造基本統計調査(令和6年)で、一般労働者の所定内給与額を都道府県別に見ると、こうなっています。
403.7千円/月
全国で最も高い
| 地域 | 所定内給与額(月額) |
|---|---|
| 東京都 | 403.7千円/月 |
| 神奈川県 | 355.8千円/月 |
| 大阪府 | 348千円/月 |
| 愛知県 | 332.6千円/月 |
| 全国計 | 330.4千円/月 |
| 最も低い県 | 259.9千円/月 |
全国計 330.4千円/月 を上回ったのは 4都府県(東京都・神奈川県・愛知県・大阪府)だけです。
東京都と最下位県の差は月14.4万円。単純に12倍すれば年間172万円になります。これが「地方は低い」の根拠です。
なお、これは所定内給与額(残業代・賞与を含まない月額)なので、賞与を含む年収の差はさらに開く可能性があります。
IT職では差が縮む3つの理由
ただし、この統計は全産業・全職種を対象にしたものです。製造業の工場、小売、飲食、建設、すべてが混ざっています。エンジニアに限ると、次の3つの理由で地域差は圧縮されます。
理由1:給与テーブルの全国一律化
エンジニアの採用競争は地域を越えて起きます。地方拠点だけ給与を下げると、そもそも採用できません。
結果として、勤務地に関わらず同じ給与テーブルを適用する企業が増えました。特に自社サービスを持つ企業では、この形が主流になりつつあります。
理由2:フルリモートの普及
勤務地が年収を決める前提は「そこで働くから」でした。リモートで東京の会社に所属するなら、その前提自体が消えます。
実際、フリーランス案件ではリモートのほうが単価が高くなっています。
| 案件形態 | 月額平均単価 |
|---|---|
| リモート | 80.2万円/月 |
| 常駐 | 76.6万円/月 |
| 全体 | 78.3万円/月 |
リモートが常駐を月3.6万円上回っています。掲載案件のうちリモートの比率は 42.4%(調査対象 474,988件)で、すでに市場の4割を超えています。
理由3:成果が場所に依存しない
営業や店舗運営と違い、コードの価値は書いた場所で変わりません。同じ機能を東京で書いても札幌で書いても、動くものは同じです。評価が場所に紐づく理由が構造的に薄い、ということになります。
当サイトの推定レンジ
以上を踏まえ、当サイトの勤務地係数は全産業の統計値をそのまま使わず、東京寄りに圧縮しています。実務3〜5年/上場・大手企業/スキル中位で、勤務地だけを動かすとこうなります。
| 勤務地 | 推定レンジ | レンジの図 |
|---|---|---|
| 東京 | 531〜624万円 | |
| 大阪・名古屋・福岡 | 468〜549万円 | |
| その他の地域 | 441〜518万円 | |
| フルリモート | 510〜599万円 |
東京578万円に対してその他の地域479万円で、中央値の差は99万円。全産業の統計から素直に計算すれば172万円になるところを、IT職の実態に合わせて圧縮した結果です。
地方在住で年収を上げる3つの順番
1. 勤務地ではなく「所属」を変える
最も効きます。地方在住のまま、フルリモート可の東京の企業に所属する形です。上の表で言えば、その他の地域479万円からフルリモート554万円へ、あるいは全国一律型なら578万円へ移ることになります。
2. 可処分所得で比較する
東京700万円と地方600万円は、家賃差を入れると逆転することがあります。都心の1LDKと地方の同等物件で月8万円違えば、年間96万円。この時点で差はほぼ消えます。
さらに通勤時間を時給換算すれば、地方在住のほうが実質的に有利という結論もあり得ます。年収の額面だけで比較すると、この部分が抜け落ちます。
3. 「場所の不利」を言い訳にしない
これが最も重要です。
フルリモート採用の選考基準は、対面採用より厳しくなる傾向があります。 オンボーディングや日常的な監督のコストが高いぶん、最初から自走できる人しか採れないためです。
つまり、地方から年収を上げる経路は「場所の不利を埋める」ではなく、**「場所に関係なく通用する水準を示す」**ことになります。選考ではコードを読ませて説明させる工程が入るのが普通で、そこで年数は関係ありません。
リモートで働き続けるときの落とし穴
金額の話とは別に、評価が見えにくくなるという問題があります。
出社していれば、困っている人を助けた、障害対応で残った、若手の相談に乗った、といった行動が自然に目に入ります。リモートではこれらが記録に残らず、成果物だけが評価対象になります。
対策は、やったことを見える形にしておくことです。
- 障害対応をしたら、原因と再発防止をドキュメントに残す
- レビューでの指摘は口頭でなくコメントとして残す
- 助けた相談はスレッドに残し、同じ質問の人が読めるようにする
これは評価のためだけでなく、そのまま次の転職時の材料になります。詳しくはリモートワークと年収の記事で扱います。
東京へ移るかを可処分時間まで含めて判断する
東京勤務の提示額が高くても、移住が得かどうかは手取りだけでは決まりません。家賃、通勤費の自己負担、引っ越し費用に加え、毎日の通勤時間を比較します。年収が上がっても、平日に自由に使える時間が減り、生活費が同じだけ増えるなら、実質的な改善は小さくなります。
比較するときは、東京勤務、地方企業、地方在住のリモート勤務という三案を同じ表に置きます。額面年収、月の固定費、出社日数、通勤時間、仕事内容を並べれば、「東京か地方か」という二択から離れられます。特にリモート勤務は、給与テーブルが全国一律か勤務地連動かで別の案として扱います。
移住に価値が出やすいのは、年収差だけでなく、東京でしか得にくい役割や人との接点がある場合です。反対に、仕事内容が同じで出社だけが増えるなら、提示額の差が生活コストに見合うかを厳しく見ます。住所を変えることではなく、仕事と生活の選択肢が増えるかが判断の中心です。
地方在住で東京水準を狙う条件
遠隔採用で企業が不安に感じるのは、技術力そのものに加え、状況が見えない中でも仕事を前へ進められるかです。分からない点を早く共有し、選択肢と自分の案を示し、決まったことを文書に残せる人は、場所にかかわらず任せやすくなります。選考でも、この進め方を具体例で示します。
職務経歴書には「リモート経験あり」とだけ書かず、非同期でどのように合意を作ったかを記します。複数拠点のメンバーと仕様を決めた、障害時の連絡手順を整えた、新しいメンバーが追える資料を作ったといった実績は、遠隔で働ける根拠になります。
未経験や経験の浅い段階では、完全な遠隔勤務だけに絞ると入口が狭くなることがあります。最初は近隣拠点へ定期的に出社できる会社でレビューを受け、仕事を一人で進められる証拠を作ってから、全国採用へ広げる経路もあります。現在地に応じて、場所の自由と成長機会のどちらを先に取るかを決めます。
地域条件は内定通知書まで確認する
面接で全国一律と説明されても、勤務地手当や住宅手当を含めると総額が変わる場合があります。基本給、賞与の算定基礎、地域手当、出社時の交通費を分けて確認し、自分の居住地で適用される条件を書面に反映してもらいます。
また、転居した場合に給与が変わるか、出社方針が変更された場合にどの拠点へ通うのかも重要です。現在の住所では働けても、家族の事情で別地域へ移った途端に条件が変わる制度なら、長期的な自由度は限定されます。想定している生活の変化があるなら、承諾前に伝えて適用ルールを確かめます。
地域差は確かに存在しますが、住所だけで年収が決まる時代ではなくなっています。所属する会社の給与制度、任される仕事、遠隔で成果を示す力の三つを分けて考えれば、地方在住を理由に最初から低い条件を受け入れる必要はありません。
地方企業に残る場合も、地域の平均だけを根拠に低い条件を受け入れる必要はありません。会社の顧客が全国にいて、エンジニアの成果が地域外の売上を生んでいるなら、比較対象は近隣企業だけではないからです。自分が作った価値と外部の提示を材料に、社内で役割と給与を相談できます。
それでも制度上の上限が変わらないなら、居住地を変える前に所属先を変える選択を試せます。地域の会社、全国採用の会社、業務委託を並べ、自分が引き受けられる不安定さと望む成長機会から選びます。東京へ移ることだけを年収改善の入口にしないことが重要です。
地域をまたぐ転職では、面接から入社まで一度も対面しない場合があります。そのときほど、チームの雰囲気という抽象的な印象ではなく、会議、レビュー、障害対応、評価面談の進め方を質問します。日常の具体例が分かれば、距離があっても仕事を続けられるかを判断できます。
生活費の安さだけを理由に地方を選ぶことにも注意が必要です。希望する仕事が少なく、次の転職先が一社に限られるなら、長期の選択肢は狭まります。現在の条件だけでなく、数年後に役割を変えたいときの求人や交通手段も含め、居住地とキャリアの相性を見ます。
まとめ
- 全産業では地域差は明確。東京と最下位県で月14.4万円、年換算172万円
- IT職では給与テーブルの一律化・リモート普及・成果の場所非依存で差が縮む
- 当サイトの推定では東京とその他で99万円。フルリモートは東京のわずか下
- 地方在住なら、勤務地ではなく所属を変えるのが最も効く