SESで働いていると、「自分の単価は聞いているが、給与とどう対応しているのか分からない」という状態になりがちです。この記事の結論から書きます。契約単価のうち何割が給与になるかを示した公的統計はありません。 業界平均として出回っている割合は、調査主体も対象も示されていないものが多く、自分の会社に当てはまる保証がありません。

そのため、やることは他人の割合を探すことではなく、自分の給与明細と契約情報から、自分の還元率を概算することになります。手順と、そこから何が判断できるかを順に見ていきます。

結論:還元率は公表されていないので、自分の数字で出す

還元率(分配率)とは、会社が客先から受け取る契約単価のうち、自分の給与として支払われる割合のことです。これを業界横断で集計した統計は、公的機関からも民間の調査からも公表されていません。契約単価は企業間の取引条件であり、開示の義務がないためです。

したがって、記事や口コミで見かける「だいたい◯割」という数字は、出所をたどれないものが大半です。仮に実在する会社の実績だとしても、間接部門の規模、営業体制、待機期間の負担、教育投資の有無で条件が違うため、自分の会社の判断には使えません。比べるべきなのは業界平均ではなく、自分の数字と、自分が選べる別の選択肢の数字です。

例外として、労働者派遣契約であれば事情が変わります。この点は後述します。

還元率を概算する4ステップ

必要なのは、給与明細と源泉徴収票、そして自分の契約単価です。単価が分からない場合の代替も後述します。

  1. 年間の給与総額を出す — 源泉徴収票の支払金額を使う。月給、賞与、固定手当をすべて含んだ額になる
  2. 会社が負担している社会保険料を概算に含めるか決める — 含めると「人件費に対する割合」、含めないと「支払われた給与の割合」になる。どちらで数えたかを必ず控えておく
  3. 契約単価を年換算する — 月額単価に稼働月数を掛ける。12か月ではなく、実際に案件に入っていた月数を使う
  4. 1を3で割る — 出た値が自分の還元率の概算になる

この計算で最も間違えやすいのが3です。待機期間を無視して12か月で計算すると、還元率は実態より低く出ます。 待機中も給与は支払われている一方、その月の売上はゼロだからです。逆に、待機がまったくない前提で会社を評価すると、待機時の保障という価値を数えないことになります。

出た数字は、あくまで概算です。賞与の支給月と稼働月がずれる、単価が期の途中で改定される、複数案件をまたぐといった要因で数ポイントは動きます。小数点以下を詰める意味はありません。 見たいのは、7割なのか4割なのかという桁の話です。

単価の水準を確かめる材料と、その限界

自分の還元率が出たとしても、単価そのものが低ければ意味が変わります。単価の水準を外から確かめる材料は限られていますが、まったくないわけではありません。

フリーランス案件の掲載単価は、まとまった件数で公表されています。474,988件 の掲載案件を集計した調査では、月額の平均単価は次のとおりです。

区分 月額平均単価
全体 78.3万円/月
常駐案件 76.6万円/月
リモート案件 80.2万円/月

この表の読み方には注意が必要です。これはフリーランスの募集案件の単価であり、SES企業が客先と結ぶ契約単価そのものではありません。 募集要項に書かれた金額は上限に寄る傾向があり、また商流の位置も、求められる経験年数の分布も、SESの一般的な配属とは一致しません。したがって「自分の単価がこの金額を下回っているから安い」と直結させることはできません。

使えるのは、桁の確認としてです。自分の単価がこの水準の半分程度なのか、近い水準なのかが分かれば、還元率とあわせて「単価が低いのか、分配が薄いのか、その両方なのか」の切り分けができます。切り分けができないまま会社を評価しても、次の打ち手が決まりません。

単価から給与に届くまでに引かれるもの

契約単価がそのまま給与にならないのは、間に費用が挟まるからです。何が挟まっているかを知らないと、還元率の数字だけを見て過剰に不当だと感じることも、逆に納得しすぎることもあります。

主に次のものが単価から差し引かれます。社会保険料の会社負担分、営業と事務など間接部門の人件費、待機期間中の給与、教育や資格取得の費用、オフィスや管理システムの費用、そして会社の利益です。このうち社会保険料の会社負担分は、金額としては小さくありません。自分の手取りにも給与総額にも出てこないのに、会社の人件費としては確実に発生している支出です。

ここで判断が分かれるのが、間接部門と待機の扱いです。案件を切らさずに供給し、待機中も給与を保障する仕組みには費用がかかります。その費用を「自分が受け取れたはずの金額」と見るか、「案件を探す手間と収入の変動を肩代わりしてもらっている対価」と見るかで、同じ還元率の評価が変わります。前者に近い感覚が強いのであれば、フリーランスと正社員の比較で扱っている、変動を自分で引き受ける形が選択肢に入ってきます。

注意点として、この内訳を会社が開示する義務はありません。開示されない場合に「隠している」と決めつけるのは早計ですが、単価が上がったときに給与へどう反映されるかの説明すら得られないのであれば、それは制度の透明性として評価してよい材料です。

企業タイプで年収がどこまで変わるか

還元率の議論とは別に、SESという企業タイプ自体が年収の水準に影響します。実務3〜5年・東京勤務・スキル中位という条件を固定し、企業タイプだけを変えるとこうなります。

企業タイプ推定レンジレンジの図
メガベンチャー・外資604〜709万円
上場・大手531〜624万円
中小の受託・SIer459〜539万円
スタートアップ483〜567万円
SES411〜482万円
条件:3〜5年/東京/スキルスコア50。公開統計をもとにした推定であり、実際の年収を保証するものではありません。算出方法

上端のメガベンチャー・外資と下端のSESの差は 210万円 です。この差は、還元率の交渉では埋まりません。事業の利益率と商流の深さという構造から生まれているためで、詳しくは企業タイプ別の年収相場で扱っています。

表の使い方として重要なのは、各行が幅を持っていることです。SESの行の中でも下端と上端があり、そこはスキルと担当範囲で動きます。同じSES・東京・実務3〜5年でも、スキルの水準だけでこれだけ変わります。

  • スキル下位(スコア30):379〜445万円
  • スキル上位(スコア85):465〜546万円

この表が当てはまらないケースもあります。特定の技術領域で高単価の案件に継続的に入っている場合や、リーダーとして複数人を見ている場合は、企業タイプの平均的な水準から外れます。表は出発点であって、自分の条件を当てはめた結果ではありません。

還元率が高くても手取りが増えないことがある

還元率だけを基準に会社を比べると、判断を誤ることがあります。理由は3つあります。

第一に、単価が低ければ還元率が高くても受け取る金額は増えません。単価の低い会社の8割より、単価の高い会社の6割のほうが金額として多くなることは普通にあります。割合は金額に直してから比べる必要があります。

第二に、支給の内訳が違います。同じ年収でも、賞与の比率が高い設計だと月々の金額は小さくなり、業績連動の部分は変動します。この点は賞与比率が高い会社と低い会社で扱っています。

第三に、みなし残業の扱いです。給与総額にみなし残業代が含まれている場合、所定内の給与は見た目より小さくなります。実際に働いた時間で割った時給に直すと順位が入れ替わることがあり、計算の手順はみなし残業を実質時給に換算する方法にまとめています。

単価が上がっても給与が上がらない理由

案件が変わって単価が上がったのに、給与が据え置かれることがあります。不誠実だからとは限りません。多くの会社で、給与は等級と給与テーブルで決まっており、個別案件の単価と連動していないためです。

この設計には理由があります。単価と給与を直結させると、案件が変わるたびに給与が下がる可能性が生まれます。会社が単価の変動を吸収して給与を安定させている、というのが制度上の建前です。したがって単価の上昇が給与に届くのは、次の評価時期に等級が動いたとき、または単価連動の手当が制度として存在する場合に限られます。

確認すべきなのは、その等級が何によって上がるのかです。等級要件が文書化されていれば、次に何を満たせばよいかが分かります。要件が明文化されていない場合、単価が上がっても給与が動く経路が制度上存在しない可能性があります。等級制度の読み方は等級・グレード制度の読み方で扱っています。

例外として、単価連動のインセンティブを設けている会社もあります。その場合は、連動の基準となる単価が総額なのか、経費控除後なのか、支給が賞与扱いなのかまで見ておくと、実際の受取額を見誤りません。

会社に単価を聞くときの順序

自分の単価を知らない場合、最初にやることは会社に聞くことです。ただし、聞き方には順序があります。

いきなり金額だけを尋ねると、待遇への不満と受け取られて話が止まることがあります。先に確認したいのは制度のほうです。単価が変わったときに給与へ反映される条件、その判断を誰が行うか、評価のタイミングはいつか。この3つは制度の話なので答えやすく、答えが返ってくれば金額の話にも進みやすくなります。

金額を聞くときは、契約更改や案件の切り替わりのタイミングが自然です。次の案件の話が出ている場面であれば、単価と求められる役割はセットで話題になります。その場で「今回の単価はどのくらいの水準ですか」と尋ねるのは、条件を確認する行為として無理がありません。

答えが得られなかった場合も、それ自体が情報です。契約単価の開示は義務ではないため、答えないこと自体を問題視はできません。ただし、単価も、給与への反映条件も、等級要件も分からないという状態が続くのであれば、自分の年収がどうすれば動くのかを制度から説明できないことになります。その状態をどう評価するかは、本人の判断になります。

派遣と準委任で、確認できる情報が違う

同じ「客先で働く」形態でも、契約の種類によって確認できる情報の量が違います。ここは実務上の差が大きい部分です。

労働者派遣契約の場合、派遣元事業主にはマージン率などの情報提供が法律で義務づけられており、公開された情報から比率を確認できます。個々の契約金額そのものではありませんが、事業所単位の水準は外から見えます。派遣という形態の年収の見方は派遣エンジニアの年収と正社員・SESの違いで扱っています。

一方、準委任契約で客先に常駐する形態には、その仕組みがありません。したがって単価は会社に聞くか、案件情報や更改の場から推測するしかない、というのが冒頭で書いた前提の理由です。準委任と請負では責任範囲そのものが違い、単価の考え方も変わります。この違いは準委任と請負の違いにまとめています。

なお、自分の契約が法律上どの類型にあたるか、その運用が適法かという判断は、契約書と実際の指揮命令の実態を突き合わせる必要があります。記事の情報で自己判断せず、疑問がある場合は労働局の相談窓口や専門家に確認してください。

商流のどこにいるかで単価の上限が決まる

還元率を上げる交渉には限界があります。自分の単価の上限を決めているのは、多くの場合、自分の会社ではなく商流の位置だからです。

発注元から見て何社を経由しているかで、各社が取り分を確保したあとの金額が決まります。二次請け、三次請けと下がるほど、同じ作業内容でも自社に入る単価は下がります。この構造は一次請けと二次請けの違いで詳しく扱っています。還元率が同じでも、商流の位置が一段違えば受け取る金額は変わります。

ここから導ける確認事項は具体的です。自分が入っている案件で、発注元と自社の間に何社あるか。会社として一次請けの案件を持っているか、その配属に移る道があるか。この2点は、還元率よりも金額への影響が大きいことがあります。

ただし、商流が浅ければ必ず単価が高いわけではありません。発注元の予算規模、案件の性質、求められる責任範囲によって水準は変わります。商流は単価を決める要因の一つであって、単独の指標ではありません。

数字が揃ったあとの選択肢

還元率、単価の水準、商流の位置。この3つが分かると、打ち手が具体的になります。順に見ていきます。

単価は市場並みで還元率が薄い場合、社内で動かせる余地があるかを先に確認します。等級が上がる要件、単価連動の手当の有無、配属の希望が通る仕組み。これらが機能しているなら、社内で解決できる可能性があります。機能していないと分かった時点で、外を見る判断材料が揃います。

単価そのものが低い場合は、社内の交渉では届きにくくなります。原因が商流の位置なら配属の変更、原因が担当範囲なら任される仕事の幅を広げることが先です。自社開発への移動を含めた比較はSESから自社開発へ転職すると年収はどう変わるかで扱っています。

どの選択肢を取るにしても、先に数字を揃えてから動くほうが判断の精度が上がります。 不満の総量ではなく、単価と還元率と商流のどれが原因かを特定したうえで動くと、移った先で同じ状態を繰り返しにくくなります。なお、どの働き方が有利かは条件によって変わるため、この記事では一律の推奨はしていません。

よくある誤解:単価×12は自分の市場価値ではない

最後に、還元率を計算した人が陥りやすい誤解に触れておきます。「単価に12を掛けた金額が本来もらえるはずの年収だ」という読み方です。これは成立しません。

理由は3つあります。稼働率が常に100%とは限らないこと、社会保険料の全額と経費を自分で負担する形になること、そして案件を獲得する営業の機能を自分で持つ必要があることです。これはフリーランスの月額単価をそのまま年収に換算できない理由と同じ構造で、単価の12か月換算が成立しない理由に整理してあります。

参考として、ITエンジニア全体の平均年収は 469万円(2025年) です。この数字は未経験から10年以上までを含む平均であり、自分の条件を説明する数字にはなりません。平均と比べて安心したり落胆したりするより、条件を揃えたレンジと自分の還元率を並べるほうが、次の行動に直結します。

まとめ

  • SESの還元率を示す公的統計はない。業界平均を探すより、源泉徴収票と契約単価から自分の数字を概算する
  • 還元率が低く見えても、社会保険料の会社負担、待機期間の給与、間接部門の費用が単価から引かれている
  • 割合だけで会社を比べない。単価の水準、支給の内訳、商流の位置を揃えて初めて比較になる
  • 企業タイプ由来の210万円の差は、還元率の交渉では埋まらない