エンジニアの求人票を読むと、年収のレンジが広く書かれていて、自分がその中のどこで提示されるのか分からないことがあります。その手がかりになるのが、必須要件と歓迎要件です。結論から言うと、求人票の必須要件と歓迎要件は、会社が想定している等級と、提示年収の位置を読む材料になります。業務内容の動詞、経験年数の書き方、歓迎要件が求める役割の範囲を読むと、応募する前に、自分がどの等級で評価されそうかを見立てられます。
求人票の年収レンジの読み方そのものは求人票の年収レンジの読み方で、オファーを受けた後に提示額の妥当性を確かめる方法は給与テーブル非公開の会社で相場を確かめる手順で扱っています。この記事はその手前の段階として、応募する前に、要件の文章から想定の等級を逆算する4つの手順と、自分の経験との照らし合わせ方を整理します。
結論:要件の文章は、想定の等級を表している
求人票の要件は、会社がその求人でどの等級の人を採りたいかを文章にしたものです。そのため、要件を読み解けば、想定の等級と、提示年収がレンジのどのあたりになりそうかを見立てられます。
理由は、多くの会社で、求人票を作るときに、採用したい等級の役割の定義をもとに要件を書くからです。等級ごとに「一人で機能を実装できる」「設計を担える」「チームをリードできる」といった役割が定義されていて、その定義が、業務内容や必須要件、歓迎要件の文章に表れます。
具体例として、同じバックエンドエンジニアの求人でも、必須要件が「Webアプリケーションの開発経験」で歓迎要件が「設計の経験」の求人と、必須要件が「設計からリリースまでを主導した経験」で歓迎要件が「チームのリード経験」の求人では、想定の等級が一段違います。前者は実装を担う等級を、後者は設計とリードを担う等級を想定していると読めます。
例外は、求人票がテンプレートで作られていて、要件の文章が等級の定義と結びついていない場合です。複数の等級をまとめて募集している求人や、要件が一般的な言葉だけで書かれている求人では、要件から等級を読み取るのが難しくなります。この場合は、後で説明するように、面談で直接確かめます。
手順1:業務内容の動詞で役割の段階を読む
最初に見るのは、業務内容に書かれた動詞です。「実装する」「設計する」「リードする」「決める」のどれが中心かで、想定の役割の段階が分かります。
理由は、等級の定義の多くが、担う仕事の範囲と責任の大きさで段階を分けているからです。実装を担う段階、設計を担う段階、チームや技術の方針を決める段階と、上の等級ほど、判断と責任の範囲が広くなります。業務内容の動詞は、その範囲を最も直接に表しています。
| 業務内容の動詞 | 想定されやすい役割 | 読み取れること |
|---|---|---|
| 実装する、開発する、改修する | 与えられた仕様で機能を作る | 実装を担う等級が中心 |
| 設計する、選定する、改善を提案する | 仕様や構成を自分で決める | 設計を担う等級が中心 |
| リードする、推進する、育成する | チームや案件の進め方を担う | リードや指導を担う等級 |
| 方針を決める、責任を持つ、組織を作る | 技術や組織の方向を決める | 上位の専門職や管理職 |
この表の読み方で大切なのは、どの動詞が「中心」にあるかを見ることです。業務内容の多くの行が実装の動詞で、最後の一行だけ「将来的には設計にも関わっていただきます」と書かれている場合は、実装を担う等級が想定の中心で、設計は将来の期待です。反対に、ほとんどの行が設計やリードの動詞であれば、上の等級が想定されています。
注意点として、「主体的に」「自走して」といった言葉は、どの等級の求人にも書かれやすく、等級の読み取りにはあまり役立ちません。動詞そのものと、その対象(機能なのか、システム全体なのか、チームなのか)を見てください。
手順2:必須要件の経験年数と「何を」の組み合わせを見る
次に見るのは、必須要件の経験年数と、その経験の中身の組み合わせです。年数だけでなく、「何を経験したか」の書き方で、想定の等級が分かります。
理由は、必須要件の年数が、会社にとっての最低限の目安にすぎず、等級の判断は経験の中身で行われることが多いからです。「開発経験3年以上」と「設計を含む開発経験3年以上」では、同じ年数でも、求めている経験の段階が違います。
具体的には、次のように読みます。「〇年以上の開発経験」だけであれば、実装を担う等級の最低限を示していることが多いです。「〇年以上の開発経験と、〇〇の設計経験」のように、年数に加えて特定の役割の経験を求めていれば、その役割を担える等級を想定しています。「〇〇を主導した経験」「〇名以上のチームのリード経験」のように、主導や規模を求めていれば、さらに上の等級を想定しています。
経験年数による年収の違いは、診断モデルの推定で見ると次のようになります。上場・大手、東京勤務、スキル中位の条件です。
| 実務経験 | 推定レンジ | レンジの図 |
|---|---|---|
| 未経験 | 340〜399万円 | |
| 1年未満 | 383〜449万円 | |
| 1〜2年 | 425〜499万円 | |
| 3〜5年 | 531〜624万円 | |
| 6〜9年 | 638〜748万円 | |
| 10年以上 | 723〜848万円 |
この表の読み方として、同じ企業タイプの中でも、経験年数の段階によって推定年収が大きく変わることが分かります。求人票の必須要件の年数は、この表のどの段階を想定しているかの目安になります。ただし、表はモデルによる推定で、個別の会社の等級や提示額を示すものではありません。経験年数の段階の読み方は経験年数別の年収相場で詳しく扱っています。
注意点として、必須要件の年数を満たしていても、中身の経験が伴わなければ、年数ほどには評価されません。反対に、年数が少し足りなくても、中身の経験が要件に合っていれば、選考に進めることがあります。
手順3:歓迎要件で等級の上限と提示の位置を読む
3つ目に見るのは、歓迎要件です。歓迎要件は、同じ求人の中で、上の等級や、年収レンジの上の方で提示するときの判断材料になっていることが多くあります。
理由は、会社が一つの求人で複数の等級の人を採る可能性を残しているからです。必須要件を満たす人は下の等級で、歓迎要件も満たす人は上の等級で採用する、という使い分けをしている会社では、歓迎要件が上の等級の役割の定義に近い内容になります。
具体例として、必須要件が「バックエンドの開発経験」、歓迎要件が「設計の経験」「チームのリード経験」「大規模なトラフィックの運用経験」と書かれた求人を考えます。必須要件だけを満たす人は実装を担う等級で、歓迎要件の多くを満たす人は設計やリードを担う等級で、それぞれ採用されると読めます。求人票の年収レンジが広いのは、この2つの等級の幅を合わせているためです。
注意点として、歓迎要件が非常に多く書かれている求人もあります。その場合は、すべてを満たす人を想定しているのではなく、会社が欲しい経験を並べているだけのこともあります。歓迎要件の数より、業務内容の動詞と照らし合わせて、どの歓迎要件がその仕事の中心に近いかを見てください。
手順4:自分の経験を要件の文章で照らし合わせる
最後に、自分の経験を、求人票の要件の文章に一つずつ照らし合わせます。どの要件を満たしていて、どの要件を満たしていないかを書き出すと、自分がどの等級で評価されそうかが見えてきます。
手順は次のとおりです。
- 業務内容の動詞のうち、自分が実際に担ってきたものに印を付ける
- 必須要件を一つずつ読み、満たしている経験を具体的な案件で書き出す
- 歓迎要件を一つずつ読み、満たしている経験と、近い経験を書き出す
- 印の付いた動詞と、満たした歓迎要件の数から、想定の等級を見立てる
この照らし合わせで、必須要件は満たしているが歓迎要件はほとんど満たしていない場合は、実装を担う等級、つまり年収レンジの下の方で提示される可能性が高いと見立てます。歓迎要件の多くを満たしていて、業務内容の設計やリードの動詞も担ってきた場合は、上の等級で提示される可能性があります。
注意点として、この見立ては自分の視点によるもので、会社の判断と一致するとは限りません。見立てた等級は、次に説明するように、面談で確かめてください。
見立てた等級は、面談で確かめる
要件から見立てた等級は、カジュアル面談や一次面接で、想定の等級と期待する役割を聞いて確かめます。選考の早い段階で確かめておくと、提示された後に驚くことを避けられます。
理由は、求人票の要件だけでは、会社がどの等級を想定しているかを完全には読み取れないからです。同じ要件でも、会社によって等級の定義が違い、どの経験をどの等級として評価するかも違います。見立てを伝えて確かめる形で聞くと、会社も答えやすくなります。
具体的には、「求人票の業務内容と要件から、設計を担う等級を想定されているように読みましたが、合っていますか」「この求人では、どの経験があると上の等級での採用になりますか」といった聞き方をします。等級の名前を聞いても社外の人には分かりにくいため、等級ごとに期待される役割を聞くほうが役に立ちます。カジュアル面談での聞き方はカジュアル面談で年収と等級をどこまで確認できるかで整理しています。
注意点として、会社によっては、選考の早い段階では等級を決めていないこともあります。その場合でも、「どの経験を重く見るか」を聞いておくと、面接でどの経験を強調すべきかが分かります。
職務経歴書は、狙う等級の言葉で書く
要件から想定の等級を読み取れたら、職務経歴書を、狙う等級の役割の言葉で書きます。同じ経験でも、書き方によって、どの等級として読まれるかが変わります。
理由は、書類選考の段階では、職務経歴書の文章から、応募者がどの役割を担ってきたかが判断されるからです。実装の経験だけを並べた職務経歴書は、実装を担う等級として読まれます。設計や判断の経験を、求人票の業務内容の動詞に合わせて書くと、その役割を担える等級として読まれやすくなります。
具体例として、「APIの開発を担当」とだけ書くのではなく、「APIの設計方針を決め、チームの3名と実装を進めた」と書くと、設計とリードの経験として読まれます。ここで大切なのは、求人票の業務内容に「設計する」「リードする」と書かれているなら、同じ言葉を使って自分の経験を書くことです。職務経歴書の書き分けは職務経歴書の書き方で年収が変わる理由で詳しく整理しています。
注意点として、実際に担っていない役割を、求人票の言葉に合わせて書くのは避けてください。面接で具体的に聞かれたときに説明できず、評価が下がります。
企業タイプで、同じ要件でも等級の水準が違う
同じ要件の求人でも、企業タイプによって、等級の水準と年収の幅が違います。要件から等級を読み取るときは、会社の種類も合わせて見ます。
診断モデルの推定では、実務3〜5年、東京勤務、スキル中位の条件で、企業タイプだけを変えると次のようになります。
| 企業タイプ | 推定レンジ | レンジの図 |
|---|---|---|
| メガベンチャー・外資 | 604〜709万円 | |
| 上場・大手 | 531〜624万円 | |
| 中小の受託・SIer | 459〜539万円 | |
| スタートアップ | 483〜567万円 | |
| SES | 411〜482万円 |
この表の読み方として、同じ経験年数でも、企業タイプによって推定年収が大きく変わることが分かります。要件から「設計を担う等級」と読み取れた求人でも、企業タイプによって、その等級の年収の幅は違います。要件から等級を読み、企業タイプから水準を読む、という2段階で見ると、提示年収の見立てが立てやすくなります。個別の会社の提示額ではなくモデルによる推定なので、実際の判断では求人票のレンジと合わせて使ってください。
注意点として、同じ企業タイプの中でも、会社によって等級の定義は違います。規模の小さい会社では、一つの等級の役割の範囲が広く、大きい会社の複数の等級にまたがっていることもあります。
読み違えやすい求人票の特徴
要件から等級を読み取るときに、読み違えやすい求人票があります。次のような特徴がある場合は、要件だけで判断せず、面談で確かめてください。
1つ目は、複数の等級をまとめて募集している求人です。年収レンジが非常に広く、必須要件は軽く、歓迎要件が重い場合は、下の等級から上の等級まで幅広く採用する可能性を残しています。この場合、自分がどの等級で採用されるかは、選考の中で決まります。
2つ目は、要件が一般的な言葉だけで書かれている求人です。「コミュニケーション能力」「主体性」「技術への興味」といった言葉が中心で、具体的な経験や役割が書かれていない場合は、要件から等級を読み取るのが難しくなります。
3つ目は、要件と年収レンジが合っていない求人です。要件は上の等級の役割を求めているのに、年収レンジが低い場合は、会社の等級の水準が低いか、求人票の作り方に問題がある可能性があります。反対に、要件は軽いのに年収レンジが高い場合は、レンジの上の方は特別な経験の人を想定していることが多いです。求人票のレンジの上限の読み方は求人票の年収レンジの読み方で扱っています。
注意点として、スカウトメールで届く求人は、要件が一般的に書かれていることが多く、読み違えやすくなります。スカウトの読み方はスカウトメールの提示年収レンジと実際の提示額の差で整理しています。
転職で年収を上げるには、等級の見立てが効く
転職で年収を上げたいときは、自分の経験で上の等級として評価されそうな求人に応募することが、最も確実な方法の一つです。要件から等級を読み取る力は、応募先の選び方に直接効きます。
転職全体の傾向として、転職で年収が増えた人の割合は 60.4%、増えた人の平均増加額は 73.1万円 でした。年収が増えるかどうかは、応募先でどの等級として評価されるかに大きく左右されます。同じ会社でも、下の等級の求人に応募するか、上の等級の求人に応募するかで、提示の位置が変わります。
具体的には、今の会社で設計やリードの経験を積んでいるなら、実装を担う等級の求人ではなく、設計やリードを担う等級の求人に応募すると、年収が上がりやすくなります。反対に、自分の経験より上の等級の求人に応募すると、選考で下の等級として評価され、レンジの下の方で提示されることがあります。
注意点として、上の等級で採用されると、入社後に期待される役割も大きくなります。自分の経験で担える等級かどうかを冷静に見立ててください。
よくある誤解
「必須要件の年数を満たしていれば、その求人のレンジの中央で提示される」という見方は正確ではありません。年数は最低限の目安で、提示の位置は、経験の中身と歓迎要件の満たし方で決まります。
「歓迎要件は満たしていなくても関係ない」という見方も一面的です。歓迎要件は、上の等級やレンジの上の方で提示するときの判断材料になっていることが多く、提示の位置に影響します。
「求人票の要件はどこも同じようなもの」という見方も、業務内容の動詞を読むと当てはまらないことが分かります。同じ職種名の求人でも、動詞の違いから、想定の等級の違いが読み取れます。
まとめ
- 求人票の必須要件と歓迎要件は、会社が想定している等級を文章にしたものとして読める
- 業務内容の動詞(実装・設計・リード・方針)で、想定の役割の段階が分かる
- 必須要件は年数と経験の中身の組み合わせで、歓迎要件は上の等級の判断材料として読む
- 見立てた等級は、カジュアル面談や一次面接で、期待される役割を聞いて確かめる
- 職務経歴書は、狙う等級の役割の言葉で、実際の経験を書く