外資系企業のオファーで、基本給と賞与に加えて「RSU」の付与額が書かれていることがあります。RSUはエンジニアの年収に含めてよいのか。結論から言うと、RSUは権利が確定した分だけを1年あたりに割り戻し、基本給や賞与とは別の行で数えるのが正確です。付与総額をそのまま年収に足すと、複数年に分けて受け取る額を1年分として数えることになり、他社のオファーと比べたときの差を実態より大きく見積もります。
RSUは「Restricted Stock Unit」の略で、日本語では譲渡制限付き株式ユニットなどと訳されます。一定の期間在籍するなどの条件を満たすと、株式を受け取れる権利が確定する仕組みです。この記事は、外資系企業やRSUのある企業からオファーを受け、国内企業の提示と比べようとしているエンジニア向けに、RSUを年収としてどう数えるか、どこで受取額が変わるか、確認すべき6項目を順に整理します。
結論:RSUは「1年あたりの確定額」として別の行に書く
RSUを年収として扱うときは、付与総額ではなく、1年あたりに権利が確定する額を、株式報酬として別の行に書くのが基本です。基本給や賞与と同じ行に足してしまうと、性質の違う3つの報酬を1つの数字にまとめることになり、比較のときに何が効いているのか分からなくなります。
理由は、RSUの受取額を決める要素が、基本給や賞与とまったく違うからです。基本給は契約で額が決まり、賞与は会社の業績と個人の評価で決まります。RSUはそれに加えて、権利が確定する日の株価、そして外国株なら為替によって、受け取る金額が変わります。付与時点の評価額は、あくまでその時点の株価で計算した目安にすぎません。
たとえば、4年に分けて権利が確定するRSUの付与額がオファーに書かれていた場合、その総額は4年分の合計です。1年あたりに確定するのはその4分の1で、さらに株価が付与時点から下がれば、確定したときの金額はそれより小さくなります。オファーの「総報酬」の欄が大きく見えても、年単位に直すと国内企業の提示との差がかなり縮まることがあります。
例外は、付与が毎年繰り返される設計になっている場合です。入社時の付与に加えて、毎年の評価に応じて追加の付与(リフレッシュグラントと呼ばれることがあります)がある会社では、数年たつと複数の付与分が同時に確定し、1年あたりの確定額が入社初年度より大きくなることがあります。ただし追加の付与は評価と会社の方針で決まり、約束された金額ではないため、比べるときは入社時の付与分だけで計算し、追加分は上振れの要素として別に考えてください。
RSUの受取額を決める4つの要素
RSUの価値は、付与の数量、ベスティング(権利確定)の日程、確定時の株価、為替の4つで決まります。オファーに書かれた金額は、このうち株価と為替を付与時点の値で固定して計算したものです。
| 要素 | 何が決まるか | 確認すること |
|---|---|---|
| 付与の数量 | 受け取れる株式の総数 | 金額建てか株数建てか、評価に使った株価と日付 |
| ベスティングの日程 | いつ、どれだけ確定するか | 確定までの年数、最初の確定日、確定の頻度 |
| 確定時の株価 | 確定した株式の円換算の価値 | 株価の過去の変動幅、上場市場 |
| 為替 | 外国株を円に換算したときの額 | 株価の通貨、受け取りと売却の方法 |
この表の読み方で大切なのは、上の2つは契約で決まり、下の2つは市場で決まるという区別です。付与の数量とベスティングの日程は、付与の契約書に書かれた時点で確定します。一方で確定時の株価と為替は、入社後に動き続けます。オファーを比べるときに確実な数字として扱えるのは、上の2つだけです。
具体的には、付与が「金額建て」で示されている場合、その金額を付与時点の株価で割って株数が決まるのが一般的です。どの日の株価を使うのか(オファー時点か、入社日か、付与日の前後の平均か)によって、受け取る株数が変わります。株価が上がっている局面では、評価に使う日が遅いほど株数が少なくなります。
注意点として、この表は上場企業のRSUを前提にしています。未上場の企業が株式報酬を付与する場合は、確定しても売却できる市場がないことがあり、価値の見積もり方が大きく変わります。未上場株の報酬は、ストックオプションは年収に含めるべきかの考え方に近くなります。
ベスティングの日程で、1年目の受取額が大きく変わる
RSUは付与されてもすぐには受け取れず、決められた日程に沿って権利が確定します。最初の確定日がいつかによって、入社1年目の受取額は大きく変わります。
理由は、多くの制度で、最初の確定までに一定の在籍期間を求めているからです。たとえば入社から1年後に最初の確定が来る設計では、1年目の途中で退職すると株式報酬は受け取れません。反対に、四半期ごとに少しずつ確定する設計なら、入社から数か月で最初の確定が来ます。
具体例として、同じ付与総額でも次の2つの設計では、1年目の受取額が違います。ひとつは最初の1年で何も確定せず、1年経過時に4分の1がまとめて確定し、その後は四半期ごとに確定する設計です。もうひとつは初日から四半期ごとに均等に確定する設計です。4年間の合計は同じでも、1年目の途中で状況が変わった場合に受け取れる額は、後者のほうが大きくなります。
また、年ごとの確定割合が均等でない設計もあります。最初の年は少なく、後の年ほど多く確定する形では、早い時期に退職すると付与総額のうち受け取れる割合がさらに小さくなります。オファーを比べるときは、付与総額を年数で単純に割るのではなく、年ごとの確定割合の表を出してもらい、その割合で1年あたりの額を出すのが正確です。
株価と為替で、受取額は付与時点の評価額から動く
RSUの受取額は、確定する日の株価と為替で決まります。付与時点の評価額より上がることも下がることもあり、付与時点の金額は保証された額ではありません。
理由は、RSUが株式そのもので支払われる報酬だからです。確定した日に株価が付与時点の半分になっていれば、受け取る価値も半分になります。外国の市場に上場している株式であれば、株価が変わらなくても、円高になれば円換算の価値は下がります。株価と為替の両方が同じ方向に動くと、変動はさらに大きくなります。
たとえば、付与時点の評価額で見ると国内企業の提示を大きく上回っていたオファーでも、入社後に株価が大きく下がると、確定額を含めた年収が国内企業の提示を下回ることがあります。反対に株価が上がれば、付与時点の見込みを大きく上回ります。どちらになるかは入社時点では分からないため、オファーの比較では両方の場合を並べておくことが大切です。
実務的な比べ方としては、付与時点の評価額に加えて、株価が一定の割合で下がった場合の額も計算しておきます。どの程度の下落を想定するかは人によって判断が分かれますが、株式報酬がゼロに近くなっても生活と比較の判断が崩れないかを一度確かめておくと、後悔の少ない選び方ができます。株価の見通しそのものはこの記事では扱いません。
基本給と賞与は、RSUとは別に比べる
外資系企業のオファーを比べるときは、まず基本給と賞与だけで国内企業の提示と比べ、そのうえでRSUを上乗せ要素として加える順番が安全です。RSUを含めた総額だけで比べると、確定性の高い部分で不利になっていることを見落とします。
理由は、基本給と賞与は受取額の見通しが立てやすく、RSUは立てにくいからです。基本給は毎月の生活費の土台になり、昇給や賞与の計算にも使われます。RSUの額が大きいオファーでも、基本給が国内企業の提示より低ければ、株価が下がった年には年収全体が下回ります。
企業タイプによる水準の違いは、診断モデルの推定でも大きく出ます。実務3〜5年、東京勤務、スキル中位の条件で、企業タイプだけを変えたときの推定レンジは次のとおりです。
| 企業タイプ | 推定レンジ | レンジの図 |
|---|---|---|
| メガベンチャー・外資 | 604〜709万円 | |
| 上場・大手 | 531〜624万円 | |
| 中小の受託・SIer | 459〜539万円 | |
| スタートアップ | 483〜567万円 | |
| SES | 411〜482万円 |
この表は、株式報酬を含まない継続する額面年収の推定です。メガベンチャー・外資系の行が高く出ているのは、基本給と賞与の水準の違いによるもので、RSUの上乗せは含んでいません。表の読み方として、外資系のオファーの基本給と賞与がこの行の水準に届いているかをまず確かめ、そのうえでRSUを別に足すと、提示の位置づけが分かりやすくなります。個別の企業の提示額ではなくモデルによる推定なので、実際の比較では手元のオファーの数字を使ってください。企業タイプごとの違いの背景は企業タイプ別のエンジニア年収相場で整理しています。
退職すると、未確定の分は受け取れないことが多い
RSUは在籍を条件に権利が確定するため、退職日までに確定していない分は、多くの制度で受け取れなくなります。転職のタイミングを決めるとき、この点が基本給や賞与と大きく違います。
理由は、RSUが一定期間の在籍を促すための報酬として設計されているからです。会社側から見れば、長く働いてもらうために、報酬の一部を将来に分けて支払っていることになります。そのため、確定前に退職した場合は、残りの権利が失われる設計が一般的です。
具体的には、確定日の直前に退職すると、あと数週間で受け取れた分を失うことがあります。転職活動で内定を得たとき、入社日を確定日の後に調整できるかどうかで、受け取れる額が変わることもあります。反対に、転職先が「前職で失うRSUの補填」として入社一時金を提示することもあり、その場合は失う額と補填額を突き合わせて妥当性を確かめます。入社一時金の見方はサインオンボーナスは年収に含めてよいかで整理しています。
例外として、会社都合の退職や、会社の買収などの場合に扱いを変える規定を置いている制度もあります。ただし条件は付与契約ごとに違い、一般化できません。退職時の扱いは、付与の条件を記載した書面の文言で確認してください。
国内企業の株式報酬や持株会とは性質が違う
RSUは、国内企業でよく見る従業員持株会やストックオプションと混同されがちですが、受け取り方も価値の決まり方も違います。比べるときは、同じ「株」の報酬としてまとめず、仕組みごとに分けて考えます。
従業員持株会は、給与から自分でお金を出して自社株を買い、会社が奨励金を上乗せする仕組みです。報酬として上乗せされるのは奨励金の部分だけで、株を買うお金は自分の給与から出ています。ストックオプションは、決められた価格で株を買う権利なので、株価がその価格を上回らなければ価値がありません。RSUは、確定すれば株式そのものを受け取れるので、株価が下がっても価値がゼロになりにくい点が違います。
| 仕組み | 自分の負担 | 価値がなくなる場合 |
|---|---|---|
| RSU | 原則なし | 確定前の退職、株価の大幅な下落 |
| ストックオプション | 権利行使時の払込 | 株価が行使価格を下回る、上場しない |
| 従業員持株会 | 給与からの拠出 | 株価の下落(奨励金以外の拠出分も含む) |
この表のうち、年収として上乗せされている部分がどこなのかを見ることが大切です。持株会の奨励金の数え方は従業員持株会の奨励金は年収に含めるかで扱っています。国内企業でも、上場企業が譲渡制限付きの株式を役員や社員に付与する制度を導入している例があり、名称が似ていても条件は制度ごとに違うため、書面で確認してください。
2社のオファーを比べる手順
RSUのあるオファーと、RSUのないオファーを比べるときは、確定性の高い順に数字を並べます。手順は次のとおりです。
- 両社の提示を、基本給、賞与見込み、株式報酬、手当、一時金に分解する
- 基本給と賞与見込みだけで両社を並べ、継続する年収として比べる
- 株式報酬は、年ごとの確定割合から1年あたりの額を出し、別の行に書く
- 株式報酬について、付与時点の評価額と、株価が下がった場合の額の2通りを書く
- 自分の想定在籍年数の中で、実際に確定する分だけを合計する
- 継続する年収で劣る側が、株式報酬を含めて何年で逆転するかを確かめる
この順で並べると、どの部分の差で判断しているのかがはっきりします。株式報酬を含めてはじめて上回るのであれば、その判断は株価と為替に依存していると分かります。そのうえで選ぶのであれば問題ありませんが、確定性の高い部分で劣っていることを知ったうえで選ぶのと、知らずに選ぶのとでは、株価が下がったときの受け止め方が変わります。オファーで確認すべき年収以外の条件はオファー面談で確認すべき条件にまとめています。
注意点は、国内企業の側にも退職金や企業型の確定拠出年金などの長期の報酬がある場合です。RSUだけを長期の報酬として足し、国内企業の側の長期の報酬を数えないと、比較が偏ります。退職金と企業型DCまで含めた生涯賃金の比べ方も合わせて確認してください。
転職による年収の変化とRSUの数え方
転職で年収がどれだけ変わるかを考えるとき、RSUをどう数えるかで結論が大きく変わります。比較の基準をそろえることが、判断を誤らない前提です。
転職全体の傾向として、転職で年収が増えた人の割合は 60.4%、増えた人の平均増加額は 73.1万円 でした。こうした調査の年収は、一般に基本給と賞与を中心とした額面年収で数えられています。RSUの付与総額を足した数字と、この増加額を比べると、実際よりも大きく上がったように見えてしまいます。
具体的には、外資系企業に転職して「総報酬」が大きく上がったと感じていても、基本給と賞与だけで見ると増加額は限られていることがあります。その場合、年収が上がったかどうかは、入社後の株価と在籍年数によって決まります。反対に、外資系企業から国内企業へ移る場合は、失うRSUの確定分を差し引いて考えないと、転職で年収が下がる幅を小さく見積もります。
この点は、次の転職で現年収を伝えるときにも関わります。株式報酬を含めた額を伝えるなら、直近1年に確定した額なのか、付与時点の評価額なのかを明示してください。現年収の伝え方はエンジニアの転職で現年収はどう申告するかで整理しています。
RSUが大きいオファーで確認したい背景
RSUの比重が大きいオファーを受けたときは、金額そのものより、なぜ株式で払う比重が大きいのかを確認する価値があります。報酬の組み立て方には、会社の方針が表れるからです。
理由の一つは、長期の在籍を促したいという意図です。株式報酬は複数年に分けて確定するため、社員が長く働くほど受け取る額が増えます。会社にとっては、基本給を上げるより、将来の株式で報いるほうが、在籍を促す効果が大きいと考える場合があります。
もう一つは、職位が上がるほど株式報酬の比重が大きくなる設計です。職位によって基本給、賞与、株式報酬の比率が変わる会社では、同じ会社の中でも職位が一つ違うだけで、株式報酬の額が大きく変わります。オファーの金額を比べるときは、提示された職位が自分の経験に見合っているかを先に確かめてください。職位の決まり方は等級・グレード制度と昇格の条件も参考になります。
注意点として、株式報酬の比重が大きい会社では、株価が下がった年に社員の実質的な年収が大きく下がり、人の入れ替わりが増えることがあります。これは会社の良し悪しではなく報酬の設計の特徴ですが、入社を決める前に、株価が下がった局面で会社が追加の付与などの対応をしたことがあるかを聞いておくと、制度の運用の実態が分かります。
英語力と職位がRSUの額を左右する
外資系企業でRSUの額を左右するのは、交渉の上手さよりも、どの職位で採用されるかです。そして職位の判定には、技術力に加えて、英語で仕事を進められるかどうかが関わることがあります。
理由は、職位ごとに報酬の幅が決まっていて、株式報酬もその幅の中で決まることが多いからです。同じ技術力でも、海外のチームと英語で設計の議論ができるか、レビューで意見を通せるかによって、任される範囲と職位の判定が変わることがあります。
具体例として、国内企業で設計をリードしていた人が、外資系企業の面接では英語での説明が十分にできず、一つ下の職位で提示を受けることがあります。この場合、基本給の差だけでなく、株式報酬の差も一緒に開きます。提示された職位に納得できない場合は、職位の判定の根拠を聞き、職位そのものの見直しを交渉するほうが、株式報酬の額だけを交渉するより効果が大きくなります。英語が評価に効く場面はエンジニアに英語は年収で効くのかで整理しています。
ただし、職位を無理に上げてもらうと、入社後の評価の基準も上がります。期待に届かなければ、追加の付与が少なくなったり、評価が厳しくなったりすることがあるため、自分の経験で達成できる職位かどうかを冷静に見てください。
RSUのあるオファーで確認する6項目
オファーを受けてから入社を決めるまでに、次の6項目を書面か会社の案内資料で確認します。
- 付与が金額建てか株数建てか、評価に使う株価はどの日の値か
- ベスティングの日程(最初の確定日、確定の頻度、年ごとの確定割合)
- 退職時に未確定の分がどう扱われるか(自己都合、会社都合、買収時など)
- 入社後に追加の付与がある場合、その決まり方と過去の運用
- 確定した株式の受け取り方と売却の方法、株価の通貨
- 課税のタイミングと、会社側で源泉徴収などの手続きがされるか
いずれも採用担当者に聞ける範囲で、付与の契約書や制度の案内資料に書かれていることが多い項目です。口頭の説明だけで判断せず、文言として残っているものを読んでください。特に3番目の退職時の扱いは、次の転職のタイミングを決めるときに直接効くため、入社前に把握しておく価値があります。
6番目の税金の扱いは、個人の状況によって必要な手続きが変わります。この記事では判断せず、個別の申告や税額については税理士か税務署に相談してください。
よくある誤解
「オファーの総報酬が高いほうが良い条件」という見方は、株式報酬の比重が大きいほど外れやすくなります。総報酬は付与時点の株価で計算した見込みであり、確定した収入ではありません。基本給と賞与で比べた結果と、株式報酬を含めた結果が逆になる場合は、株価の変動を受け入れられるかどうかで判断することになります。
「RSUは株だから、持っていれば必ず増える」という理解も正確ではありません。株価は上がることも下がることもあり、外国株なら為替の影響も受けます。確定した株式を持ち続けるか売却するかは個人の判断で、この記事では扱いませんが、自分の年収の多くが同じ会社の株価に依存している状態になっていないかは、一度確かめておく価値があります。
「付与総額を年数で割れば1年あたりの額になる」という計算も、確定割合が均等でない制度では当てはまりません。年ごとの確定割合を確認したうえで、1年あたりの額を出してください。
まとめ
- RSUは付与総額ではなく、1年あたりに権利が確定する額を、基本給・賞与とは別の行に書く
- 受取額は確定時の株価と為替で動くため、付与時点の評価額は保証された額ではない
- 比較はまず基本給と賞与で行い、RSUは上乗せ要素として、株価が下がった場合も含めて加える
- 退職日までに確定していない分は受け取れないことが多く、転職のタイミングに直接効く
- 課税の扱いや確定後の株式の扱いは個別に判断せず、会社の案内資料と税理士に確認する