転職先や現職に従業員持株会があるとき、その分を年収に含めて考えてよいのか。結論から言うと、持株会は「会社が上乗せする奨励金」と「株価で上下する株式」の2つに分けて考え、年収の比較には奨励金の部分だけを参考として並べるのが安全です。株式の部分は給与ではなく、自分の資産を勤め先の会社に寄せる投資だからです。

持株会は、社員が給与や賞与から一定額を拠出して自社の株式を買い、会社がその拠出額に応じて奨励金を上乗せする仕組みが一般的です。奨励金の分だけ有利に株式を買えるため、福利厚生として紹介されることが多い制度です。本記事では、持株会の奨励金の平均という根拠の弱い数字は使わず、奨励金と株式を分けて読む方法、オファーの比較での扱い、入会前に確認する5つの項目を整理します。なお、本記事は特定の株式の購入や売却を勧めるものではありません。

持株会は2つの部分に分けて読む

持株会を年収と一緒に考えるとき、最初に分けたいのは、会社が上乗せする奨励金と、自分の拠出と奨励金で買った株式の2つです。この2つは性質がまったく違います。

奨励金は、社員が拠出した額に対して、会社が一定の割合で上乗せする金額です。自分が拠出しなければ受け取れず、拠出額が増えれば奨励金も増えます。会社から社員へ支払われる点では給与に近い性質を持ちますが、多くの場合、そのまま株式の購入に充てられるため、現金として自由に使えるわけではありません。

株式の部分は、自分のお金と奨励金を合わせて買った自社の株です。株価は会社の業績や市場の状況で上がることも下がることもあります。買った時点より株価が下がれば、奨励金の分の上乗せを受けていても、元の拠出額を下回ることがあります。つまり、株式の部分は年収ではなく、投資の結果として資産が増えたり減ったりするものです。

年収の比較に使えるのは、奨励金の部分に近い

2社のオファーを比べるとき、持株会の分をどう扱うかは、奨励金と株式を分けて考えると整理しやすくなります。年収の比較に参考として並べられるのは、奨励金の部分です。株式の値上がりへの期待は、比較に含めません。

ただし、奨励金も提示年収と同じ行に足すのは避けたほうが安全です。奨励金は自分が拠出した場合にだけ受け取れ、拠出額によって金額が変わります。拠出するお金は給与から差し引かれるため、生活に使えるお金はその分減ります。奨励金は、提示年収とは別の行に「拠出した場合に上乗せされる額」として並べ、比較の参考にとどめてください。

比較の中心は、現金で受け取る基本給、固定残業代、賞与、手当です。福利厚生を含めた比べ方の全体像はオファー面談で確認すべき年収以外の条件で扱っています。持株会がある会社とない会社を比べるときも、まず現金で受け取る部分で差を確認し、持株会の奨励金は判断が拮抗したときの参考材料として使うのが現実的です。

株式の値上がりを、年収として数えない理由

持株会の説明では、過去に株価が上がった例が紹介されることがあります。しかし、過去に株価が上がったことは、これからも上がることを意味しません。株価の将来の動きは確定していないため、値上がりを年収の一部として数えると、比較の前提が崩れます。

さらに注意したいのは、持株会で買う株式が、自分の給与を払っている会社の株だという点です。会社の業績が悪くなると、株価が下がる可能性があるだけでなく、賞与が減る、昇給が止まるといった形で給与にも影響が出る可能性があります。給与と資産の両方が同じ会社の状況に左右されるため、良いときも悪いときも影響が重なります。

この点は、スタートアップのストックオプションを年収に含めない理由とも共通しています。株式に関わる報酬は、現金の報酬とは別に評価するのが基本です。ストックオプションの考え方はストックオプションは年収に含めるべきかで詳しく扱っています。

奨励金は、会社によって設計が違う

奨励金の設計は会社ごとに違います。比べるときに見るべき点は、奨励率、拠出額の上限、拠出の単位の3つです。

奨励率は、拠出額に対して会社が上乗せする割合です。同じ拠出額でも、奨励率が高い会社ほど奨励金は多くなります。拠出額の上限は、月々に拠出できる金額の上限で、奨励金を受け取れる金額の上限にもなります。拠出の単位は、一口あたりの金額で、何口から拠出できるかが決まっています。

たとえば、奨励率が高くても、拠出額の上限が低ければ、受け取れる奨励金の総額は限られます。反対に、奨励率が低くても上限が高ければ、多く拠出する人ほど奨励金が増えます。ただし、多く拠出するほど、給与から差し引かれる額と、勤め先の株式に寄せる資産の額も増えます。奨励金の総額だけで判断せず、どれだけの資産を自社の株に寄せることになるかと合わせて考えてください。

持株会の有無より先に、現金の報酬の水準を比べる

持株会の奨励金は福利厚生の一部として魅力に見えますが、会社を比べるときは、先に現金で受け取る報酬の水準を確認します。実務6〜9年、東京勤務、スキル中位を固定し、企業タイプだけを変えた推定レンジは次のとおりです。

企業タイプ推定レンジレンジの図
メガベンチャー・外資725〜851万円
上場・大手638〜748万円
中小の受託・SIer551〜646万円
スタートアップ580〜680万円
SES493〜578万円
条件:6〜9年/東京/スキルスコア50。公開統計をもとにした推定であり、実際の年収を保証するものではありません。算出方法

持株会は上場企業に多い制度ですが、上場・大手の推定中央値は 693万円、メガベンチャー・外資では 788万円 です。この差は 95万円 です。持株会の奨励金は自分の拠出額に対する上乗せなので、その額を見積もる前に、現金で受け取る報酬の差を確認しておくことが大切です。

もちろん、表は条件を揃えた推定であり、個別の会社の提示額を保証するものではありません。それでも、持株会の有無で会社を選ぶ前に、現金で受け取る報酬の水準を比べることが重要です。持株会の奨励金は、現金の報酬の差が小さい2社を比べるときに、差を判断する材料の一つとして使うのが適切です。

退職するときの扱いを確認する

持株会で積み立てた株式は、退職するときに扱いを決める必要があります。一般的には、退職すると持株会を退会することになり、積み立てた株式を個人の証券口座へ移すか、制度によっては売却して現金で受け取るかを選びます。

注意したいのは、手続きに時間がかかることと、株式を移すための口座を用意する必要があることです。積み立てた株式のうち、一定の単位に満たない端数の部分は、現金で精算される場合もあります。転職を考えている場合は、退職の前に規約で退会の手続きと、株式の引き出しの条件を確認しておくと安心です。

また、会社によっては、内部の情報に接する立場の社員に対して、自社株を売買できる時期を社内の規則で制限していることがあります。持株会で積み立てた株式を引き出した後に売却する場合も、在職中はこの規則に従う必要があります。売却のタイミングの制限は、会社の規則と法令に従って判断してください。

入会するかどうかは、年収とは別に決める

持株会への加入は、多くの場合、社員が自由に選べる任意の制度です。加入するかどうかは、年収の比較とは切り離し、自分の資産の状況に合わせて決めるのが基本です。

判断の材料として考えたいのは、生活費や急な出費に備えた現金が十分にあるか、ほかの資産とのバランスはどうか、勤め先の会社の状況に資産が偏りすぎないか、といった点です。給与と資産の両方が同じ会社に依存する状態は、会社の業績が悪化したときに影響が重なります。どの程度の拠出が自分に合うかは、資産全体の配分と合わせて考えてください。

本記事は個別の投資の助言を行うものではありません。資産の配分や税金に関わる判断が必要な場合は、専門家に相談することをおすすめします。持株会の加入を強く勧められる、加入しないことを理由に扱いが変わると感じる場合は、制度の規約を確認し、人事の担当者に相談してください。

賞与や退職金と、持株会の関係

持株会の拠出は、月々の給与だけでなく、賞与からも行える制度が多くあります。賞与からの拠出にも奨励金が付く場合、賞与の比率が高い会社ほど、奨励金の総額が大きくなります。ただし、賞与は会社の業績や評価によって変わるため、拠出できる額も年によって変わります。

持株会は退職金の制度とは別の仕組みです。退職金は、会社の規程に基づいて退職時に支払われるもので、持株会で積み立てた株式とは別に扱われます。持株会の株式を退職金の代わりと考えると、将来の生活設計を誤ることがあります。退職金を含めた会社の比べ方はエンジニアの退職金と生涯賃金での会社の選び方で扱っています。

賞与の比率が高い会社と低い会社の違いは賞与比率が高い会社と低い会社の年収の見方で詳しく扱っています。持株会の拠出を賞与から行う場合は、賞与が減った年にどう対応するかも合わせて考えておくと安心です。

入会前・オファー比較で確認する5項目

持株会について、入会を検討するときや、オファーを比較するときに確認したいのは次の5項目です。

  • 奨励率と、奨励金が付く拠出額の上限
  • 給与と賞与のどちらから拠出でき、口数の変更はいつできるか
  • 積み立てた株式を個人の口座へ引き出す条件と手続き
  • 退職や退会のときの株式の扱いと、端数の精算の方法
  • 自社株を売買できる時期に、社内の規則で制限があるか

これらの答えから、奨励金がどれだけの額になりうるか、株式をどの程度自由に扱えるかが分かります。規約の内容は会社ごとに違うため、入会の前に規約の文書を受け取り、読んでから判断してください。

よくある誤解

持株会と年収の関係で起きやすい誤解を3つ挙げます。

1つ目は、持株会がある会社は年収が高いと考えることです。持株会は福利厚生の一つで、給与の水準とは別の制度です。持株会があっても、現金で受け取る報酬が低ければ、年収は高くなりません。

2つ目は、奨励金を受け取れば損をしないと考えることです。奨励金の分だけ有利に株式を買えても、株価が下がれば、拠出した額を下回ることがあります。奨励金は損失を防ぐ保証ではありません。

3つ目は、持株会の株式を生活費の備えとして考えることです。株式はすぐに現金にできないことがあり、必要なときに株価が下がっている可能性もあります。生活費や急な出費への備えは、現金で別に持っておくのが基本です。

まとめ

  • 持株会は、会社が上乗せする奨励金と、株価で上下する株式の2つに分けて考える
  • 年収の比較には奨励金の部分だけを参考として並べ、株式の値上がりは数えない
  • 株式の部分は、給与と同じ会社に資産を寄せる投資であり、影響が重なる点に注意する
  • 実務6〜9年・東京・スキル中位では、上場・大手とメガベンチャー・外資の推定中央値に95万円の差があり、持株会の有無より先に現金の報酬を比べる
  • 入会前に、奨励率と上限、拠出の方法、引き出しと退会の条件、売買の時期の制限を確認する

自分の条件での推定レンジは、経験年数・企業タイプ・勤務地・スキルを入れて診断で確認できます。