未経験からエンジニアになるとき、最初の会社をどう選ぶかで、年収の出発点が変わります。しかも変わるのは初年度だけではありません。

まず、実務未経験・東京勤務・スキル中位という条件を固定して、企業タイプだけを動かした推定を見ます。

企業タイプ推定レンジレンジの図
メガベンチャー・外資386〜454万円
上場・大手340〜399万円
中小の受託・SIer294〜345万円
スタートアップ309〜363万円
SES263〜308万円
条件:未経験/東京/スキルスコア50。公開統計をもとにした推定であり、実際の年収を保証するものではありません。算出方法

上端のメガベンチャー・外資(中央値420万円)と下端のSES(286万円)で、134万円の差があります。

未経験の時点で差がつく理由

未経験は、定義上まだ実務の実績がありません。それでも企業タイプで134万円動くということは、この差が実力の評価ではないことを意味します。

差を作っているのは2つです。

  • 事業の利益率 — 自社サービスの売上は人数に比例しません。一人あたりの利益が大きいほど、給与に回せる原資が増えます
  • 商流の深さ — 発注元から自社までに何社挟まっているかで、手元に届く金額が変わります

どちらも入社する側の努力とは無関係に、入った時点で決まっています。この構造は経験を積んでも自動では変わりません(詳しくは企業タイプ別の年収相場)。

なお参考として、ITエンジニア全体の平均年収は 469万円 です。未経験の推定レンジがこれを下回るのは当然で、平均には実務10年以上の人も含まれているためです。

入りやすさと伸びしろは逆を向く

未経験可の求人は、上の表の下端に寄っています。応募のハードルが低いのは、採用の目的が「育てて現場に出す」ことにあるためです。

一方で、経験を積んだあとの到達点も見ておく価値があります。上場・大手を条件に固定して、経験年数だけを動かすとこうなります。

実務経験推定レンジレンジの図
未経験340〜399万円
1年未満383〜449万円
1〜2年425〜499万円
3〜5年531〜624万円
6〜9年638〜748万円
10年以上723〜848万円
条件:上場・大手/東京/スキルスコア50。公開統計をもとにした推定であり、実際の年収を保証するものではありません。算出方法

未経験の370万円から、実務3〜5年で578万円。最も伸びるのは1〜2年から3〜5年に移る区間です(経験年数別の記事)。

ただしこの伸びが起きるのは、任される判断の範囲が広がった場合です。決められた仕様を実装するだけの状態が続けば、年数が増えても同じ帯に留まります。1社目を選ぶときに見るべきなのは初年度の金額より、3年後にどの工程を担当しているかです。

求人票で確認する4項目

確認すること 何が分かるか
配属は自社開発か客先常駐か 商流の深さと、担当できる工程の幅
等級と昇給要件が明文化されているか 上に行く道筋があるか、何をすれば上がるか
みなし残業の時間数と基本給が分離しているか 提示年収のうち、いくらが所定内の給与か
研修後に何を担当するのか テストのみか、実装や設計まで入るか

4つとも、面接や面談の場で聞ける内容です。答えられない、あるいは制度そのものがない場合は、それ自体が情報になります。

みなし残業については、時間数を差し引いた実質的な水準の出し方をみなし残業の実質時給で扱っています。

未経験が入る市場は、いまどうなっているか

求人の出方も判断材料になります。厚生労働省の職業安定業務統計(令和8年3月)で、情報処理・通信技術者の有効求人倍率は 1.39倍。全職業の 1.1倍 を上回っており、求職者1人あたりの求人数は多い状態です。

ただし方向は変わりつつあります。

  • 新規求人数は前年同月比 -16.3%
  • 新規求職件数は前年同月比 14.6%
  • 結果として有効求人倍率は -0.22ポイント

1社目の年収より先に決まること

未経験の推定レンジは、勤務地でも動きます。同じ上場・大手でも、東京とその他の地域で比べるとこうなります。

  • 東京:340〜399万円
  • その他の地域:282〜331万円

とはいえ、1社目で最も効くのは金額そのものではありません。その会社で、コードを読んで直す仕事が回ってくるかどうかです。

自社開発でも受託でも、既存コードの改修が実務の大半を占めます。ここに触れない配属が続くと、3年経っても選考で問われる力が積み上がりません。逆にこの経験があれば、次に企業タイプを変える選択肢が開きます。

1年目に経験したい仕事の進み方

未経験者の1社目で重要なのは、人気の技術を使えることより、仕事がどのように完成するかを一周経験できることです。要件を聞き、分からない点を確認し、実装し、レビューを受け、リリース後の反応を見る。この流れを経験すると、自分のコードが事業や利用者にどう影響したかを説明できるようになります。

反対に、細かく切られた作業だけを渡され、なぜ作るのかも結果も分からない環境では、在籍年数の割に職務経歴書へ書ける内容が増えません。研修が長いか短いかではなく、研修後にどこまで仕事の背景へ触れられるかを確認してください。最初は小さな修正でも、レビューで理由を教えてもらい、次は自分で判断する範囲が広がるなら健全です。

面接では「入社半年ほどの方が、最近一人で完了できるようになった仕事を教えてください」と聞くと、成長の実像が見えます。抽象的な教育方針ではなく、実際の新人が何を任されているかを答えてもらう質問です。回答が具体的なら、自分の1年後も想像しやすくなります。

似た3求人をどう比べるか

一つ目は、給与が高い代わりに一人で客先へ入り、質問先が営業担当しかない求人です。入口の額面は魅力的でも、技術判断を学ぶ相手がいなければ、次の転職で評価される実績を作りにくくなります。未経験の時期に自力で解決することと、放置されることは別です。

二つ目は、給与は平均的でも、同じチームに経験者がいて、コードレビューと週次の振り返りがある求人です。この環境では、間違いを早く修正し、なぜ直すのかまで学べます。1年目の学習速度は本人の努力だけでなく、短い周期でフィードバックが返る仕組みに左右されます。

三つ目は、研修や福利厚生を強く打ち出しているものの、配属先と仕事内容が入社後まで決まらない求人です。研修内容が良くても、その後の仕事で使わなければ経験として定着しません。配属の決め方、開発以外へ配属される可能性、希望が通らなかった場合の異動条件まで確認して、初めて二つ目の求人と比較できます。

この三例で選ぶなら、短期の金額だけでなく、半年後に一人で完了できる仕事、質問できる相手、配属の確度を並べます。求人票の言葉を点数化するより、実際の仕事の流れを具体化したほうが、入社後のずれを小さくできます。

内定後に確認を終わらせる

選考中は採用担当者も候補者も、互いに良い面を中心に話します。だからこそ、承諾前には労働条件通知書と面接で聞いた内容を照らし合わせます。給与の内訳、試用期間、勤務地、配属職種、リモート条件が一致しているかを確認し、曖昧な点はメールなど記録に残る形で質問します。

特に「エンジニア採用」とだけ書かれている場合は、開発、テスト、運用監視、問い合わせ対応のどこから始まるのかを確かめます。どの仕事も必要ですが、自分が期待している経験と違えば、入社後に修正するのは困難です。将来は開発へ移れるという説明なら、直近で実際に移った人数や条件を聞くと、制度が運用されているか分かります。

すべての不確実性を消すことはできません。それでも、分からない点を分からないままにせず、何が確定し、何が配属後に決まるのかを分けることはできます。1社目選びで避けたいのは、完璧でない会社ではなく、重要な条件が不明なまま勢いで決めることです。

入社後90日で見直すこと

入社は判断の終点ではありません。最初の90日で、質問への返答速度、レビューの頻度、任される仕事の範囲を記録すると、選考時の説明と実態を比較できます。期待どおりなら、その環境で次に何を任されたいかを上司と相談します。違いがあるなら、まず配属や支援方法を変えられないかを確認します。

この段階で焦って転職を決める必要はありません。新しい環境に慣れるまでの難しさと、構造的に学べない状態を区別するためです。質問はできるが自分から出せていないのか、質問しても誰も答えられないのかでは、対策が違います。前者なら行動を変えられますが、後者は会社側の仕組みの問題です。

1社目の成功は、最初から理想の会社へ入ることではなく、仕事を通じて判断できる材料を増やすことです。90日、半年、1年の区切りで「一人で完了できる仕事が増えたか」「説明できる判断が増えたか」を確かめれば、次に残るべきか動くべきかも自分で決められるようになります。

なお、同期やSNS上の人と成長速度を比べる必要はありません。担当する製品やチームによって、最初に任される仕事の難しさは違います。比較するなら入社時の自分と現在の自分です。以前は質問しなければ進められなかった仕事を一人で完了できるようになったか、レビューで同じ指摘が減ったかという変化を見れば、環境を活かせているかが分かります。

変化が止まったと感じたら、まず次に任せてほしい仕事を具体的に相談します。希望を伝えても機会や支援が得られない状態が続くなら、その記録が次の会社を検討する根拠になります。

まとめ

  • 未経験でも企業タイプだけで134万円の差がつく。これは実力ではなく事業モデルと商流の差
  • 入りやすさと伸びしろは逆を向きやすい。初年度の金額より3年後の担当工程を見る
  • 求人票では配属先・等級と昇給要件・みなし残業・研修後の担当の4点を確認する