データサイエンティストとデータエンジニアのどちらが高年収か、という問いに一般解はありません。経験年数・勤務地・スキル水準をそろえて比べると、推定レンジを動かしているのは職種名ではなく、所属している企業タイプと、任されている成果物の重さだからです。先に結論を置くと、職種の選択より前に、どの構造の会社でどこまでの責任を持つかを決めるほうが金額への影響は大きくなります。

この記事では、2つの職種で求められる成果物の違いを整理したうえで、同じ条件でどれだけのレンジになるかを確認し、求人票でどちらの役割かを見分ける手順まで扱います。

結論:どちらが高いかは職種名では決まらない

データ領域の求人は、同じ「データ◯◯」という名前でも、担当する工程が会社ごとに違います。データ基盤の構築から分析、意思決定の支援までを一人で持つ組織もあれば、収集・蓄積・加工・分析・活用が別々のチームに分かれている組織もあります。職種名はこの切り分け方の結果に付いたラベルなので、名前だけを見て年収を比べても比較になりません。

比較の単位にできるのは、職種名ではなく次の3つです。ひとつは任されている成果物で、分析レポートなのか、継続して動く基盤なのかによって、評価の物差しが変わります。ふたつめは責任の及ぶ範囲で、壊れたときに誰が直すのか、止まったときに誰が説明するのかで等級が変わります。みっつめが企業タイプで、これは職種をまたいで共通に効く、いちばん大きな要因です。

この記事でレンジとして示す数字は、経験年数・企業タイプ・勤務地・スキル水準から計算した推定値です。データサイエンティストとデータエンジニアを分けて集計した一次統計は見当たらないため、職種別の平均値を示すことはできません。できるのは、同じ条件のエンジニアがどの範囲に置かれるかを確かめ、そこから2職種の評価軸の違いを読むところまでです。

2つの職種は成果物が違う

いちばん明確な違いは、仕事が終わったときに何が残るかです。データサイエンティストの成果物は、意思決定に使われる推定や予測と、その根拠です。データエンジニアの成果物は、継続して動き続けるデータの流れそのものです。前者は「正しいか」で評価され、後者は「止まらないか」で評価されます。

比較軸 データサイエンティスト データエンジニア
主な成果物 分析結果・予測モデル・実験の設計 データパイプライン・基盤・スキーマ
評価されるとき 事業の判断が変わったとき 障害が起きず、必要な鮮度で届いたとき
失敗の現れ方 結論が再現しない・採用されない 欠損・遅延・コスト超過
必要になる前提知識 統計・実験計画・ドメイン理解 分散処理・運用設計・権限管理
隣接する職種 機械学習エンジニア、プロダクトマネージャー SRE、データベースエンジニア、バックエンド

この表は役割の典型を並べたもので、求人の分類そのものではありません。実際には、分析者が自分でパイプラインを書く組織も、基盤担当が指標の定義まで決める組織もあります。表を使うときは、自分の求人票に書かれた業務内容がどちらの列に多く当てはまるかを見て、評価されるときの条件がどちらに近いかを確かめる使い方になります。

成果物の違いは、年収の伸び方の違いにもつながります。分析側は、事業の判断を変えた実績が積み上がるほど説明しやすくなる一方、判断に使われなかった分析は実績として残りにくい性質があります。基盤側は、動いている期間の長さと規模が実績になるため、積み上がり方は安定していますが、「止まらなかったこと」は外から見えにくく、社内で説明する手間がかかります。

経験年数別の推定レンジは職種で分かれない

東京勤務・上場/大手・スキル中位という条件を固定し、経験年数だけを変えると次のようになります。

実務経験推定レンジレンジの図
未経験340〜399万円
1年未満383〜449万円
1〜2年425〜499万円
3〜5年531〜624万円
6〜9年638〜748万円
10年以上723〜848万円
条件:上場・大手/東京/スキルスコア50。公開統計をもとにした推定であり、実際の年収を保証するものではありません。算出方法

この表はデータ職に限った数字ではなく、同条件のエンジニア全体の推定です。データサイエンティストとデータエンジニアのどちらで応募しても、提示される等級が同じなら入口のレンジはこの範囲に収まります。職種の違いが効いてくるのは、この表のどの行に置かれるか、つまり経験年数をどう数えてもらえるかの段階です。

実務で問題になりやすいのが、この「数え方」です。バックエンドの経験が5年あってもデータ基盤の担当が1年なら、応募先によっては上の行ではなく下の行で見積もられます。逆に、分析の実務が2年でも、その前のソフトウェアエンジニアとしての経験が基盤構築に直結していると判断されれば、連続した年数として扱われることがあります。職種を変える転職では、年数そのものより、前職の経験が応募先の成果物にどうつながるかの説明が金額を左右します。

参考として、ITエンジニア全体の平均年収は 469万円(2025年) です。この平均には未経験も10年以上も含まれており、自分の条件を説明する数字にはなりません。ITエンジニアの平均年収が適正額にならない理由で扱っているとおり、比較に使うなら条件をそろえた分布のほうです。

企業タイプで252万円変わる

職種より先に効くのが企業タイプです。実務6〜9年・東京勤務・スキル中位で固定し、企業タイプだけを変えると次のようになります。

企業タイプ推定レンジレンジの図
メガベンチャー・外資725〜851万円
上場・大手638〜748万円
中小の受託・SIer551〜646万円
スタートアップ580〜680万円
SES493〜578万円
条件:6〜9年/東京/スキルスコア50。公開統計をもとにした推定であり、実際の年収を保証するものではありません。算出方法

上端のメガベンチャー・外資と下端のSESで、推定の中央値は 252万円 開きます。これはデータサイエンティストかデータエンジニアかという選択では埋まりません。差の正体は事業の利益率と商流の深さで、企業タイプ別の年収相場で扱っている構造がそのままデータ職にも当てはまります。

データ領域ではこの差が出やすい事情もあります。分析でも基盤でも、価値が出るのは自社でデータを持ち、そのデータで判断する事業がある場合です。受託や常駐の形で他社のデータを扱う場合、成果が相手側の事業に残るため、担当者の評価に跳ね返りにくくなります。同じスキルでも、データを保有している側にいるかどうかで、提示される等級が変わりやすい職種だと言えます。

ただしこの表を「メガベンチャーに行けば252万円増える」と読むのは誤りです。上の行ほど求められる等級の要件が高く、同じ応募者が全行に同じ確率で入れるわけではありません。表は現在地を確認するためのもので、移動の難易度までは表していません。

データサイエンティストで年収が上がる条件

分析側で提示額が上がるのは、分析そのものの難易度ではなく、その分析がどこまで事業の判断に接続していたかが説明できるときです。モデルの精度を上げた経験よりも、どの指標を動かすべきかを自分で決め、検証の設計まで引き受けた経験のほうが、上の等級の要件に近くなります。

具体的には、次のような実績が面接で評価の材料になります。売上や継続率のような事業指標から逆算して、何を測れば判断できるかを定義した経験。施策の効果を測るために、比較対象と期間と打ち切り条件を事前に決めた経験。出てきた結果が期待と違ったときに、分析の誤りと施策の誤りを切り分けた経験。これらは精度の数字では表せませんが、意思決定に責任を持った証拠として扱われます。

逆に伸びにくいのは、依頼された集計だけを返す形が続く場合です。この働き方は組織にとって必要ですが、判断の責任が依頼側に残るため、等級の要件を満たす材料になりにくくなります。年収が止まっていると感じるときは、自分の分析のうち何件が実際の判断に使われたかを数えてみると、原因が技術側にあるのか役割の置かれ方にあるのかを切り分けられます。

例外として、研究寄りの職務では別の物差しが使われます。新しい手法の適用可否を見極める役割では、事業指標への接続までを一人が負わない代わりに、技術的な妥当性の判断が評価対象になります。この場合は機械学習・AIエンジニアの年収相場で扱っている評価軸に近くなるため、応募先がどちらの物差しで見ているかを先に確かめてください。

データエンジニアで年収が上がる条件

基盤側で提示額が上がるのは、動いているものを増やした経験ではなく、壊れたあとを設計した経験が説明できるときです。パイプラインは必ず壊れます。上流のスキーマが変わる、データ量が想定を超える、外部APIが仕様を変える。採用側が確かめたいのは、それが起きたときに何が起きるかを事前に決めてあるかどうかです。

評価の材料になるのは、再実行したときに結果が重複しない設計にしていること、遅延や欠損を検知する仕組みを数値で持っていること、スキーマ変更を利用側を壊さずに進めた経験があること、そして計算資源と保存のコストに責任を持っていることです。このあたりはデータエンジニアの年収相場で6つの評価軸として整理しているので、詳しい確認手順はそちらを参照してください。

基盤側で年収が止まりやすいのは、既存のワークフローの追加だけを担当している状態です。処理を1本増やす作業は件数が積み上がっても等級の要件に届かず、「運用の担当」として据え置かれることがあります。止まっていると感じるなら、設計の判断を自分が持っている領域がどれだけあるかを確認してください。扱うデータの規模、停止したときの影響範囲、コストの決裁権のどれかに責任があると、説明の仕方が変わります。

注意したいのは、使っている技術の名前だけでは差がつきにくいことです。特定の基盤サービスの経験があることは要件を満たす条件にはなりますが、それ自体が上の等級の理由にはなりません。評価されるのは、その技術を選んだ理由と、運用して分かった制約を説明できるかどうかです。

求人票でどちらの役割かを見分ける

職種名は会社ごとにずれるため、求人票は業務内容と必須要件から読みます。読む順番を決めておくと、応募前に等級のあたりを付けられます。

  1. 業務内容の先頭3行を読む。最初に書かれている工程が、その求人の主担当です
  2. 必須要件に統計・実験計画の語があるか、分散処理・ワークフロー管理の語があるかを見る
  3. 「既存の◯◯を改善」か「◯◯を立ち上げ」かを見る。立ち上げを求める求人は等級が上に置かれやすい
  4. 配属先のチーム名と、レポートライン(誰が評価者か)を確認する
  5. 年収レンジの下限が、同社の別職種の求人と比べて高いか低いかを見る

4番目は特に効きます。分析チームに所属するデータエンジニアと、基盤チームに所属するデータサイエンティストでは、評価者が見ている成果物が自分の成果物とずれるため、昇格の説明がしにくくなります。配属先が決まっていない求人では、入社後に決めると言われた段階で、どちらの評価軸で見られるかを確認しておくほうが安全です。

5番目は求人票の年収レンジの読み方で扱った考え方の応用です。レンジの下限は多くの場合その等級の入口を示しており、上限は社内の別の等級までを含めて書かれていることがあります。下限が他職種より明確に高い求人は、求める等級自体が上に置かれていると読めます。

兼務ポジションをどう評価するか

分析と基盤を兼務する求人は珍しくありません。この形を年収の面で見るときに大切なのは、両方できる人を採る求人なのか、人数が足りずに両方やらせる求人なのかを区別することです。求人票の書き方は似ていますが、入社後の等級の動き方が違います。

前者は、どちらの成果でも等級の要件を満たせるように評価制度が整っていることが多く、担当範囲の広さがそのまま評価につながります。後者は、評価軸が一本に決まっていないために、分析の成果を出しても「基盤が本業」と見なされ、その逆も起きます。どちらの成果でも昇格の材料にならない状態が続くと、担当範囲は広いのに等級が動かないという形になります。

見分ける手がかりは、同じ職務でいま在籍している人が何人いるか、その人たちがどの等級にいるか、直近で昇格した人が何を理由に昇格したかの3点です。カジュアル面談でも聞ける範囲なので、カジュアル面談で年収と等級をどこまで確認できるかの進め方に沿って確認しておくと判断材料になります。

勤務地とリモートで変わる幅

データ職は勤務地の影響を受けにくい側ですが、ゼロではありません。実務6〜9年・上場/大手・スキル中位で固定し、勤務地だけを変えると次のようになります。

勤務地推定レンジレンジの図
東京638〜748万円
大阪・名古屋・福岡561〜659万円
その他の地域529〜621万円
フルリモート612〜719万円
条件:6〜9年/上場・大手/スキルスコア50。公開統計をもとにした推定であり、実際の年収を保証するものではありません。算出方法

東京とその他の地域の差は、給与テーブルの地域区分がそのまま出たものです。データ領域では扱う対象がクラウド上にあることが多く、物理的な作業が発生しにくいため、フルリモート前提の求人も成立します。ただし、分析側は事業部門との対話の頻度が高く、基盤側は障害対応の体制が勤務地と結びつくことがあるため、どちらも完全に場所から自由というわけではありません。

地域の差をどう扱うかは地方移住とフルリモートで年収を維持する条件で詳しく扱っています。確認しておきたいのは、入社後に勤務地区分が変わったとき給与が改定されるかどうかです。改定される規程がある会社では、移住のタイミングで提示額が下がることがあります。

フリーランスで比べるとどうなるか

業務委託で比べる場合、分析側と基盤側では案件の出方が違います。基盤側は継続稼働が前提の案件が多く、月額での契約が組みやすい一方、分析側は期間が区切られた案件が多く、成果の定義が契約に書かれる形になりやすい傾向があります。

案件単価の水準として、フリーランスエンジニア全体の月額平均単価は 78.3万円/月(2025年12月度) です。リモート案件は 80.2万円/月、常駐案件は 76.6万円/月 で、リモートのほうがやや高くなっています。これは職種別の数字ではないため、データ職の単価をこの値だと読むことはできません。

分析側で業務委託を選ぶときに気をつけたいのは、成果の帰属です。分析結果が相手企業の判断に使われても、その判断の履歴は自分の手元に残りません。守秘義務の範囲で説明できる形に整理しておかないと、次の契約で実績として提示しにくくなります。基盤側は、構築した仕組みの規模や構成を抽象化して説明できるため、この点では整理しやすい側です。

片方からもう片方へ移るときに起きること

同じデータ領域の中での異動でも、年収の決まり方は移り方で変わります。社内で役割だけを変える場合は、等級が据え置かれるのが通常なので、当面の年収は動きません。動くのは次の評価以降で、新しい役割の評価軸で実績を出せるかにかかります。

転職で職種を変える場合は、新しい職種での実務年数が浅いものとして扱われることがあります。前の節で触れた「経験年数の数え方」がここで効いてきます。基盤から分析へ移るなら、パイプラインを作りながら指標の定義に関わった経験を、分析から基盤へ移るなら、分析のために自分で処理を組んで運用した経験を、連続したものとして説明できる形にしておくと扱いが変わります。

移る前にやっておけることは限られますが、効果があるのは現職の中で隣の領域の成果を1つ作ることです。分析担当なら、使っているデータの取得処理を自分で引き取って運用まで持つ。基盤担当なら、自分が作った基盤の利用状況を分析して改善提案まで出す。どちらも職務の範囲を少し広げるだけで、応募時に示せる成果物が増えます。

注意点として、年収を下げてでも移る判断が必要になる場面はあります。その場合は、下げ幅を何年で回収できるかを先に見積もってください。判断の手順は年収が下がる転職を受けてよい条件で扱っています。

情報通信業全体の数字と突き合わせる

推定レンジだけを見ていると、水準が妥当かどうかを確かめられません。公的統計の実数と突き合わせておきます。情報通信業の平均給与は 660万円(令和6年(2024年)) で、年齢階層別に見ると30〜34歳が 553万円、35〜39歳が 652万円 です。

この数字は業種全体の平均で、データ職に限ったものではありません。営業・管理部門を含む情報通信業全体の値である点、平均は上側に引っ張られる点の2つに注意が必要です。実際、同じ統計から推計した中央値は 585万円 で、平均より低い位置にあります。自分の提示額を比べるなら、平均ではなく中央値と、年齢階層別の値のほうが近い目安になります。

需要の側も見ておきます。情報処理・通信技術者の有効求人倍率は 1.39倍(令和8年3月)、全職業では 1.1倍 です。IT職全体では求人が求職を上回る状態が続いていますが、この倍率は職種を分けた値ではないため、データ職の需要をそのまま表すものではありません。応募先を決めるときは、業界全体の倍率より、自分が応募できる等級の求人が何件あるかを数えるほうが実態に近くなります。

迷ったときの判断手順

どちらの職種を選ぶかで止まっているなら、年収から考えるより、次の順で確認するほうが答えが出ます。

  • 直近1年で自分が時間を使った作業のうち、分析と基盤のどちらに寄っていたかを数える
  • その作業で、他の人より早く正確にできたのはどちらだったかを思い出す
  • 応募を考えている会社が、データを自社で保有して判断に使っているかを確認する
  • その会社の求人票で、自分の実績がどちらの列の成果物に当てはまるかを見る
  • 配属先のチームと評価者が、その成果物を評価する立場にあるかを確かめる

この順で見ると、職種名を選ぶ問題ではなく、どの成果物で評価されたいかを選ぶ問題だと分かります。年収の差は、その選択のあとに企業タイプと等級が決めるため、先に職種名だけを決めても金額の見通しは立ちません。

自分がいまどのレンジに置かれるかを把握していないと、提示額が妥当かどうかも判断できません。経験年数・企業タイプ・勤務地に加えて、コードを読む力の水準まで含めた推定を出しておくと、求人票のレンジと突き合わせる基準ができます。

まとめ

  • どちらが高いかは職種名では決まらない。同条件・企業タイプだけの違いで推定の中央値は252万円開く
  • 分析側は事業の判断に接続した実績、基盤側は壊れたあとを設計した実績が等級を動かす
  • 求人票は業務内容の先頭3行、必須要件の語、配属先と評価者の3点で役割を読み分ける